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唯一の映画枠「金ロー」成功の秘訣? 『サマーウォーズ』に見る、日テレの作品選び

マグミクス / 2021年7月16日 17時10分

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■親戚一同が集まる、昔ながらの日本の夏

 インターネットの世界を題材にした新作アニメ『竜とそばかす姫』の劇場公開が、2021年7月16日(金)から始まる細田守監督。新作公開のたびに大きな話題となる細田監督にとって、同じくネット世界を描き、興収16.5億円のスマッシュヒットを記録したのが『サマーウォーズ』(2009年)です。

 数学オリンピックの日本代表になりそこねた高校生・健二(CV:神木隆之介)が、憧れの先輩・夏希(CV:桜庭ななみ)の信州にある実家を訪ねたことから起こる、夏休み中の物語です。親戚一同が集まる昔ながらの落ちついた雰囲気の日本家屋と、カラフルなネット世界がとても対照的に描かれています。

 2021年7月16日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)では、6度目となる『サマーウォーズ』が放映されます。ストーリーはすでに知っていても、栄おばあちゃん(CV:富司純子)をはじめとする陣内家の人びとはとても個性的で、さまざまな視点から楽しめる作品となっています。

■SNSの普及で定着した、新しい映画の楽しみ方

 ネット世界である「OZ」では、動物化されたアバターとなって健二たちは登場します。細田監督のブレイク作『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)も、ネット世界が舞台でした。ネットユーザーとの相性のよさも、細田作品の特徴でしょう。

 現実世界をもパニックに陥れながら暴走する人工知能「ラブマシーン」と闘う健二は、クライマックスで「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」と叫びながらパソコンのエンターキーを押します。Twitter上でユーザーたちが同調する、「お祭り」シーンとしてあまりにも有名です。

 何度も『サマーウォーズ』を観ている人も、健二と一緒に「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」と叫ぶことで、作品世界との一体感を味わうことができます。歌舞伎の名場面で、絶妙のタイミングで飛び交う掛け声に近いものを感じさせます。

 宮崎駿監督の冒険ファンタジー『天空の城ラピュタ』(1986年)でも、主人公が唱える呪文の言葉「バルス」は、TV放送されるたびにTwitter上でトレンド入りする恒例イベントとなっています。2011年の放送では世界記録になったほどです。名作映画に対する新しい楽しみ方が、SNSの普及によって、すっかり定着したと言えそうです。

 コロナ禍によって多くのイベントは中止、もしくは無観客開催となり、また田舎への帰省を見送っている人も多いと思います。今回の健二の「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」には、多くの人たちとの一体感を楽しみたいという気持ちに加え、田舎で暮らす懐かしい親戚や旧友たちにまた会えますように……という視聴者の願いも込められたものになるのではないでしょうか。

■地上波テレビに残された最後の映画枠

金ロー枠での常連作品としても愛され続けている『天空の城ラピュタ』。画像は同作DVD(ウォルト・ディズニー・ジャパン)

 2020年3月からTV局では「個人視聴率」が導入され、それまでの「世帯視聴率」をベースにしていた番組編成や番組づくりから変わりつつあります。スポンサー企業が求める、購買意欲のある若い視聴者向けの番組が企画されるようになってきました。その一方で、長年にわたって視聴者に親しまれてきた、いくつかの長寿番組が打ち切られています。

 日本テレビ系の「金曜ロードショー」は、今や地上波テレビ唯一の映画枠となっています。「金ロー」の略称でネットユーザーたちから愛されている「金曜ロードショー」は、2020年秋から視聴者リクエストを募り始めました。『天使にラブ・ソングを…』(1992年)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作(1985年~90年)、『E.T.』(1982年)などの懐かしい洋画をオンエアし、それぞれ好評を博しました。『スタンド・バイ・ミー』(1986年)や『グーニーズ』(1985年)を初めて観て、過去の名作の面白さを知った若い世代も少なくなかったようです。

 ネットユーザーたちとの交流をうまく活かし、「金曜ロードショー」は最後の映画枠を守ることに成功しています。また、今年2021年4月に「金曜ロードSHOW!」から「金曜ロードショー」に番組名称が9年ぶりに戻ったのも、「金曜ロードショー」で統一されたほうがTwitter上でトレンド入りしやすいという番組側の配慮もあったそうです。

■エンディングを締めくくった、往年の決め台詞

 つねに新しい情報を追い求めるテレビ界にあって、現在の「金曜ロードショー」は、懐かしさを感じさせる名作映画の世界を、幅広い層の視聴者が気軽に、リアルタイムで一緒に楽しめる場を提供する珍しい番組となっています。ぜひとも『グーニーズ』などに続く、忘れられがちな旧作を掘り起こしてほしいものです。ネットユーザー受けしそうな映画は、他にもいろいろありそうです。

 かつての「金曜ロードショー」では、番組のオープニングとエンディングに映画評論家の水野晴郎さんが登場し、本編で流れる映画の解説を務めました。水野さんの解説は、「金曜ロードショー」の前番組「水曜ロードショー」(1972年~1985年)から始まり、「金曜ロードショー」になってからも1997年まで続きました。

 岡山県出身の水野さんは若かりし頃、地方ではなかなか上映されない海外の名作映画を地元でも劇場上映できるように映画館や配給会社に働きかけ、さらに手づくりのポスターやチケットを用意して、お客さんを集めたそうです。その体験がとても楽しくて、郵便局員という安定した職業を辞め、映画宣伝マンに、そして映画評論家になったそうです。

 映画をこよなく愛し続けた水野さんは2008年に亡くなっていますが、全国津々浦々の幅広い世代の視聴者が一緒になって、さまざまな映画を楽しんでいる今の「金曜ロードショー」の状況を、あちらの世界できっと喜んでいると思います。

 かつて水野さんは、富司純子さんのことを「日本の女性の優しさと強さを表現している女優」と評していました。そんな富司さんが声優に初挑戦した『サマーウォーズ』を、水野さんは放送終了時に笑顔でこう語るのではないでしょうか。

「いやぁ、映画って本当にいいものですね~」

(長野辰次)

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