『ゴジラvsコング』の「カギ」を握る芹沢蓮…破壊神になろうとした男の悲劇とは?
マグミクス / 2021年7月17日 9時10分
■小栗旬さんのハリウッドデビュー作
2021年7月2日より、ハリウッド映画『ゴジラvsコング』の日本公開が始まりました。米国など海外ではすでに3月から封切られ、世界興収500億円を越える大ヒットに。日本でも興収11億円を突破する好スタートを切っています。
日本生まれのドル箱スターであるゴジラが、米国特撮映画史の人気アイコンであるキングコングと激突する世紀の一戦。『GODZILLA ゴジラ』(2014年)、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)で芹沢猪四郎博士を演じた渡辺謙さんに代わり、芹沢博士の息子・芹沢蓮として、小栗旬さんがハリウッドデビューを飾っていることでも話題となっています。
芹沢蓮の出演シーンは、編集によって大幅にカットされたようです。出番は限られている芹沢蓮ですが、ゴジラとコングとの対決の行方を左右するキーパーソンであることには間違いありません。巨大生物=タイタンに戦いを挑む研究者・芹沢蓮の心情をクローズアップしたいと思います。
※本記事は物語の結末には触れていませんが、いっさいのネタバレを避けたい方はぜひ鑑賞後にお読み下さい。
■父親とゴジラに対する、芹沢蓮の複雑な感情
芹沢猪四郎博士は、ゴジラをはじめとするタイタンと呼ばれる巨大生物を研究・調査する国際組織「モナーク」に所属していました。ゴジラ研究に没頭するあまり、家庭で過ごす時間はあまりなかったのではないでしょうか。典型的な「昭和のオヤジ」だったと思われます。しかも、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』では、瀕死状態に陥っていたゴジラを救うために、殉職を遂げています。
世界平和のために、自分の私生活のみならず、命さえも投げ出した芹沢猪四郎博士。研究者の鑑(かがみ)のような存在ですが、息子である芹沢蓮の目にはどのような父親に映っていたのでしょうか。ゴジラ研究のために、さらにはゴジラを救うために、芹沢蓮は父親を2度失ったような喪失感を抱いていたのではないでしょうか。
父・芹沢猪四郎と同じように、芹沢蓮も研究者の道へと進みます。芹沢猪四郎はゴジラとも共存できる寛容性のある世界であることを望んでいましたが、その願いは息子である芹沢蓮にはどうも届いてはいなかったようです。研究者となった蓮は父を奪った“破壊神”ゴジラへの復讐心を募らせ、最新の科学力によって自分自身がゴジラを凌駕する存在になろうとします。
■これまでのゴジラシリーズをリスペクトした設定
ゴジラシリーズに登場してきた「メカゴジラ」は、『ゴジラvsコング』でハリウッドデビューを果たしている。画像は1974年公開の『ゴジラ対メカゴジラ』DVD(東宝)
芹沢蓮は、巨大テクノロジー企業「エイペックス」の主任研究員となり、ゴジラを上回る巨大兵器を開発します。それがメカゴジラです。『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)で初登場して以来、ゴジラシリーズに実写版だけでこれまでに5度登場した、シルバーメタリックで超クールな巨大ロボット「メカゴジラ」が、ついにハリウッドデビューを果たすことになります。
前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のラストシーンでネタ振りされていましたが、ゴジラに倒されたモンスター・ゼロことキングギドラの遺体を活用し、芹沢蓮はメカゴジラを遠隔操作します。『ゴジラvsメカゴジラ』(1993年)や『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)など、これまでのゴジラシリーズに対するアダム・ウィンガード監督らのリスペクトが感じられる設定となっています。
ゴジラ、コングだけでなく、メカゴジラまで現れたことで香港の市街地は大パニックに。物語の展開は予想できない方向へと転がっていきます。ゴジラ、コング、メカゴジラが一堂に会するクライマックスは、モンスターバース屈指の壮絶バトルとなります。
■より明確になったメッセージ性
その昔、人類は「バベルの塔」と呼ばれる巨大な塔を建て、神が棲む天に近づこうとしました。しかし、バベルの塔は神の怒りに触れ、バラバラに崩壊してしまいます。文明を過信しがちな人類への教訓として、バベルの塔伝説は「旧約聖書」に記されています。
芹沢蓮はメカゴジラを開発することで、“破壊神”ゴジラに迫ります。蓮の上司にあたる「エイペックス」のCEO・ウォルターの無茶ぶりも問題ですが、蓮たちは科学の力を過信し、大きなトラブルを招いてしまいます。
芹沢猪四郎と蓮がどのような親子関係だったかは、本作では描かれていません。でも、蓮はメカゴジラを操ることで、父を奪ったゴジラと正面から向かい合ってみたかったのではないでしょうか。人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京系)の主人公・碇シンジが父・碇ゲンドウとエヴァを介してコミュニケーションすることを考えたように、蓮もメカゴジラを通して亡き父親ともっと対話したかったように感じられます。
心優しいコングが耳の不自由な少女・ジアと手話によって交流する感動的なシーンに加え、メカゴジラを登場させたことで『ゴジラvsコング』は明確なテーマが浮かび上がっています。
ゴジラやコングといった自然界が生み出した脅威よりも、人類自身による行き過ぎた文明、科学に対する盲信のほうが、もっと恐ろしいということです。『キングコング』(1933年)と『ゴジラ』(1954年)、それぞれのシリーズ第1作に刻まれていたメッセージ性を、『ゴジラvsコング』は蘇らせることにも成功しています。
ゴジラとコングの勝敗の行方だけでなく、白目をむく小栗旬さんの熱演ぶりにもぜひ注目してみてください。そして、願わくば芹沢蓮の出演パートの多いロングバージョンの『ゴジラvsコング』も観てみたいものです。
(C)2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.
(長野辰次)
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