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映画『妖怪大戦争』で「大魔神」が復活。庶民の苦しみに呼応する最強魔神の中身は?

マグミクス / 2021年7月24日 18時20分

映画『妖怪大戦争』で「大魔神」が復活。庶民の苦しみに呼応する最強魔神の中身は?

■映画3部作の公開から55年ぶりにスクリーンへ

 大魔神が復活します。プロ野球の横浜ベイスターズやMLBのシアトル・マリナーズで活躍し、「Daimajin」と呼ばれた佐々木主浩投手のことではありません。特撮映画の傑作としてその名を残す、超おっかない『大魔神』(1966年)のほうです。

 2021年8月13日(金)公開予定の、三池崇史監督の新作映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』は、日本古来から伝わる妖怪たちに加え、『大魔神』『大魔神怒る』『大魔神逆襲』3部作(いずれも1966年)に登場した“怒れる武神”大魔神がスクリーンによみがえることでも話題となっています。

 劇場公開から55年の歳月が流れていますが、戦国時代に現われた大魔神が城兵たちを相手に大暴れする姿は、多くの人の脳裏に焼き付いています。角川シネマ有楽町などで現在開催中の「妖怪特撮映画祭」でも、『大魔神』3部作の4K修復版が上映されています。その色あせない魅力を振り返ります。

■怪獣ブームにおける異色作だった

 特撮時代劇『大魔神』3部作が4月、8月、12月に続けて公開された1966年は、特撮ドラマの金字塔『ウルトラマン』(TBS系)の放送が7月から始まった特撮界のメモリアルイヤーです。『ウルトラマン』に先駆けて、『ウルトラQ』(TBS系)も同年1月から放映され、日本じゅうが怪獣ブームに沸いていました。

 黒澤明監督の『羅生門』(1950年)などの名作時代劇で知られる映画会社「大映」は、特撮映画『大怪獣ガメラ』(1965年)もヒットさせていました。長年にわたって培われた本格時代劇のノウハウと特撮要素をうまくミックスさせたのが、『大魔神』だったのです。人気時代劇「座頭市」シリーズなどを手掛けた安田公義、三隅研次、森一生という一流監督が3部作には起用されています。

 悪い領主の圧政に苦しむ村人たちの悲痛な叫びが、眠れる大魔神を呼び起こします。平常時は柔和な顔の巨大ハニワですが、怒りに目覚めると鬼の形相に変わります。一度暴れ始めると、もう誰も止められません。このキレっぷりがハンパなく、当時の多くの子供たちは恐怖したと思われます。

■「大魔神」の中身は元プロ野球選手だった

第2作『大魔神怒る』デジタル・リマスター版DVD(KADOKAWA)

 大魔神の恐ろしさは、あの鋭い眼光にあります。ウルトラマンのようなクールな特撮ヒーローと違い、変身後の大魔神は、兜(かぶと)から覗く緑色の顔の目の部分だけがリアルに人間のものでした。

 大魔神のスーツアクターを務めたのは、俳優の橋本力さんです。もともとは「大映」がオーナー会社だったプロ野球「大毎オリオンズ」の外野手でした。プロ野球から映画界に転身した橋本さんの「売り」は、アスリートとしての体力と目力の強さ。重い大魔神の鎧スーツを着て、大人でさえ震え上がる眼光を発することができた橋本さんの熱演があったからこそ、大魔神は忘れられない存在となったのです。

 その後も橋本さんは、ブルース・リー主演の人気アクション映画『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972年)にラスボス役で出演するなど、個性派俳優としての足跡を残しました。自分を映画界に誘ってくれた「大映」の社長・永田雅一氏が1985年に亡くなった際に、俳優業から引退しています。昔ながらの律儀な性格だったようです。

 大魔神の設定身長は4.5メートル(人間の2.5倍)。ゴジラやウルトラマンに比べると、あまり大きくありません。大魔神が叩き壊す城門や櫓(やぐら)などのミニチュアセットが精巧に作れるよう、逆算してこのサイズになったそうです。それゆえ、悪い領主が暮らすお城のミニチュアセットは、崩れ落ちる瓦の一枚一枚まですべて2.5分の1サイズの手作り。大魔神の暴れっぷりが、迫力たっぷりに伝わってきます。3部作のクライマックスは、どれも特撮映画史に残る名シーンです。

 夏休みになると、かつて地方のテレビ局では『大魔神』3部作がたびたびローカル枠で放送されました。シリーズ第2作『大魔神怒る』では、女優の藤村志保さんが磔(はりつけ)にされ、火あぶり寸前となります。ギリギリのところで大魔神が現れるのですが、子供心に非常にドキドキしながら観ていたことを覚えています。

■人気作家を起用した新作も企画されていたが…

 いかめしい大魔神の造形は、『ウルトラマン』の怪獣や宇宙人たちの造形も手掛けた高山良策氏によるもの。1966年の高山氏は、『ウルトラマン』と京都で撮影された『大魔神』との掛け持ちで大忙しだったそうです。重厚な音楽は、『ゴジラ』(1954年)でもおなじみの伊福部昭氏。スタッフも非常に豪華です。

 脚本家の吉田哲郎氏は、『にっぽん脚本家クロニクル』(ワールド・マガジン社)のなかで、『大魔神』3部作のシナリオを次のように振り返っています。

「出来るか出来ないかなんて心配せず、思い通りイメージそのままに書いて下さい。それらを全部画(え)にするのが俺たちだから……」。そんな言葉でスタッフから励まされたそうです。当時の映画人たちの太っ腹さが伝わってくる逸話です。

 予算を気にせずに完成した『大魔神』は、いま観ても素晴らしい特撮時代劇の傑作です。もちろんヒットしたからシリーズ化されたのですが、あまりにも制作費がかかりすぎたようです。また大映の経営が傾き、1971年には倒産してしまったため、3作を残しただけで終わってしまいました。その後、作家の筒井康隆氏や漫画家の大友克洋氏を起用した新作が企画されましたが、制作には至っていません。

 私利私欲に走り、庶民の声に耳を傾けない権力者たちを懲らしめる大魔神。映画のなかだけでなく、現実世界にも現われればいいのに……。そう思う人は、少なくないのではないでしょうか。

(長野辰次)

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