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宮崎監督『もののけ姫』金ローで放送 アシタカの右手に宿る「呪い」に込められた意味は?

マグミクス / 2021年8月13日 17時30分

宮崎監督『もののけ姫』金ローで放送 アシタカの右手に宿る「呪い」に込められた意味は?

■宮崎駿作品でたびたび描かれる「呪い」

 テナー歌手・米良美一さんが歌う主題歌が耳に残る、劇場アニメ『もののけ姫』(1997年)は、『紅の豚』(1992年)以来となる宮崎駿監督の5年ぶりの長編監督作です。国内興収は193億円を越え、当時の日本映画歴代興収の新記録を樹立した大ヒット作となりました。

 2021年8月13日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)は、宮崎アニメの最高峰作と呼べる『もののけ姫』をオンエアします。「金ロー」での放送は、2018年10月以来となる3年ぶり、11度目となります。

 宮崎駿作品では、『紅の豚』や『ハウルの動く城』(2004年)、8月27日(金)放送の『風立ちぬ』(2013年)でも、「呪い」という言葉がたびたび使われます。宮崎駿監督が描く「呪い」には、どんな意味があるのでしょうか?

■負の感情から生まれ、連鎖する「呪い」

 阪神淡路大震災が起きた1995年、宮崎駿監督は『もののけ姫』の制作を本格的にスタートさせています。バブル経済の崩壊、地下鉄サリン事件、そして大震災……混迷する社会と重ね合わせるように、戦乱期にあった室町時代中期を舞台にした時代劇アニメ『もののけ姫』が作られます。

 主人公となるのは、北方に住むエミシ一族の若者・アシタカ(CV:松田洋治)です。アシタカは集落を襲おうとしたタタリ神を得意の弓矢で倒しますが、死に際にあったタタリ神によって「呪い」を受けてしまいます。

 アシタカの右手には、大きなマダラ模様が「呪い」として残ります。「呪い」を受けた者は、集落にいることは許されません。自分に掛けられた「呪い」を解くために、アシタカはタタリ神がやってきた西方を目指して旅立ちます。

 この「呪い」には不思議な力がありました。アシタカは人間離れした腕力を発揮するようになります。まるで、「呪い」自身も生きたがっているかのようです。でも、「呪い」をそのままにしておくと、アシタカは「呪い」に喰い殺されてしまいます。ヤックルに乗った旅を続けるアシタカは、やがて山々を渡り歩く製鉄集団「タタラ場」を率いるエボシ御前(CV:田中裕子)と出会うのでした。

 鉄を作るために山を崩し、大量の木を伐採する「タタラ場」は、森で暮らす犬神や猪神たちと対立していました。エボシ御前の放った石火矢を浴びた猪神が、怒り、憎しみ、悲しみといった負の感情に囚われてタタリ神になったことが分かります。そしてタタリ神を殺したことに罪悪感を抱くアシタカにまで、負の感情は連鎖していたのです。

 アシタカの右手に寄生する「呪い」の原因は解明できました。でも、どうすれば、この「呪い」は解くことができるのでしょう?

■皇女クシャナを思わせる、エボシ御前の多面性

『もののけ姫』でタタラ場をとりまとめるリーダー、エボシ御前

 文明の進化と自然保護との両立の難しさを主題にした『もののけ姫』が高く評価されている要因に、ダイナミックなアクションシーンに加え、勧善懲悪論ではない多面性のあるキャラクター設定も挙げることができます。

 宮崎駿監督の人気作には、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)のカリオストロ伯爵や『天空の城ラピュタ』(1986年)のムスカといった分かりやすい悪役が登場しましたが、神々が暮らす森まで制圧しようとするエボシ御前は、単純な「悪」とは言い切れません。『風の谷のナウシカ』(1984年)の皇女クシャナを思わせる、多面的なキャラクターとなっています。

 本来は女人禁制である「タタラ場」で働く女性たちは身売りされた者が多く、別棟ではハンセン病患者たちが暮らしています。社会的弱者たちに居場所を与え、労働力にしているエボシ御前は、政治的才覚に優れたリーダーでもあります。

 ハンセン病は恐ろしい伝染病だと信じられてきました。実際にはハンセン病の感染力は弱く、第二次世界大戦中に治療薬も開発されていますが、日本では1996年に「らい予防法の廃止に関する法律」が施行されるまで、長きにわたってハンセン病患者とその家族は差別され続けました。差別や偏見は、実在する社会的な「呪い」だと言えるでしょう。

■美しくも呪われた夢

 宮崎駿監督は東日本大震災後に完成させた『風立ちぬ』(2013年)では、「飛行機は美しくも呪われた夢だ」と航空技術者・カプローニに語らせています。「呪われた夢」に取り憑かれた主人公・堀越二郎は、ゼロ戦の開発に成功します。しかし、ゼロ戦は「特攻」に使われ、多くのパイロットたちの命が失われることになります。美しくも呪われた夢が現実世界にもたらした結果に、堀越二郎は愕然とします。宮崎駿監督は、若者が見る夢も「呪い」になりうる危険性を描いています。

 話を『もののけ姫』に戻しましょう。物語のクライマックス、エボシ御前ら人間側と、シシ神の森を守ろうとする猪神や犬神たちは壮絶な戦いを繰り広げ、どちらも多大な犠牲を払うことになります。

 犬神のモロの君(CV:美輪明宏)に育てられた「もののけ姫」ことサン(CV:石田ゆり子)とアシタカは、怒り狂うシシ神=ディダラボッチを懸命に鎮めようとします。アシタカの右手に刻まれたアザは、かつてないほど色濃くなっています。

 自分に掛けられた「呪い」を解くためにアシタカは故郷を離れ、エボシ御前やサンたちと出会いました。そして彼女らと交流することで、アシタカは人間的な成長を遂げました。アシタカは「呪い」を受け入れ、自分自身の「運命」へと変えていきます。

 宮崎駿監督は、アシタカに掛けられた「呪い」が最終的に解けたかどうかをはっきりとは描いていません。ただし、エンディングシーンでは、アシタカの右手のアザはかなり薄くなっています。アシタカが生きている限り、「呪い」は消えることはないのかもしれません。でも、アシタカの表情は穏やかさに満ちています。

 怒り、憎しみ、悲しみといったネガティブな感情から生まれた「呪い」を、アシタカはこれからの生きる道が前向きなものになることを願う「祈り」へと変換することに成功した、と考えることもできそうです。もちろん、観る人によってさまざまな解釈が可能で、そのすべてを肯定するエンディングとなっています。

 宮崎駿監督が問い掛ける「呪い」とは何か? 宮崎アニメを観る機会には、そのことも頭の片隅に置いてみてください。

(C) 1997 Studio Ghibli・ND

(長野辰次)

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