巨大組織と戦うマンガ3選 公安、政治家、財閥…敵は傲慢に権力を振りかざす

■実際に起きた出来事を基にした、国家権力との戦いを描いた傑作！

　誰もがなかなか逆らえず、立ち向かうだけで恐ろしさを感じてしまう、巨大権力。公安、政治家、財閥など、自己都合で権力を振りかざす巨大組織と、権力に屈しないキャラクターとのバトルに、勇気をもらえます。この記事では、主人公たちが巨大権力と戦うマンガ3作をご紹介します。

●『クロコーチ』

　まずは、権力者たちが隠し続けてきた未解決事件を捜査する刑事が主人公の『クロコーチ』(原作：リチャード・ウー、画：コウノコウジ)です。巨大権力に立ち向かうのは、多くの有力者の弱みを握って賄賂を手にしてきた汚職警官・黒河内圭太警部補と東大卒キャリア組の若手男性刑事・清家真吾管理官です。黒河内は、汚職を働きながらも、権力者がもみ消してきた未解決事件を解決するために、清家とともに動き出します。未解決事件は、「三億円事件」や「警視長官狙撃事件」などの実際に起きた事件をモデルにしているため、リアルに感じられます。作品の魅力は、黒河内の賢さです。警察内部が隠している巨大組織の情報をつかむために、弱みを握って脅したり、力を貸してくれそうな人を利用したりしながら、周りを巻き込んでいきます。作中では、事件が次から次へと起こり、そのたびに権力者が隠ぺいしている真実へと近づき、権力者たちの恐ろしさを知っていきます。常に続きが気になるような展開で、意外な結末の最終回まで目が離せず、あっという間に一気読みしてしまう作品です。

●『赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD』

　続いては、共産主義者を弾圧する政治家と映画業界の戦いを描いた『赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD』(作：山本おさむ)です。第二次大戦後、ソ連とアメリカの冷戦が始まり、ソ連の力に強い脅威を感じたアメリカの政治家は、当時の娯楽の王であった映画界にいる共産主義者を追放する赤狩りを開始しました。「赤」とは共産主義を象徴する色に由来しています。この物語は、1950年代前半のアメリカで行われた赤狩りをベースにしており、当時活躍していた脚本家や映画監督、俳優など作中に登場します。特に印象的なのは、脚本家のダルトン・トランボです。聴聞会で、「あなたは共産主義者か、あるいは、かつてそうであったか？」と問われましたが、アメリカ合衆国憲法修正一条（言論と集会の自由を規定した条項）を理由に証言を拒み、議会侮辱罪で逮捕され、禁固刑の実刑判決を受けます。刑期終了後も、巨大権力からにらまれていましたが、トランボは、友人の脚本家の名前を使って『ローマの休日』の脚本を書き上げました。聴聞会で仲間の名前を売ることなく、なおかつ脚本家として傑作を残す執念に感動します。権力者の弾圧のなか、映画界はどう戦ったのかについて、詳しく知ることができる作品です。

■主人公の魅力に惹かれた仲間とともに、巨大権力に立ち向かう！

●『蟻の王』

　最後は、日本有数の財閥の権力に逆らう生きざまを描いた『蟻の王』(原作：塚脇永久、マンガ：伊藤龍)です。主人公・亜久里四郎は、日本屈指の六道財閥の総帥の隠し子。総帥が亡くなり、総帥に仕えていた老人は、四郎に対して遺産相続を放棄するように持ちかけてきます。ですが、四郎は誰かの言いなりになることは許せないという自身の信条に従い、遺産相続を放棄することを拒否します。これをきっかけに財閥から数々の襲撃を受け、財閥との戦いが繰り広げられます。六道財閥の総帥は、総理大臣すら上回る権力を持っており、警察組織などの公権力を意のままにでき、すべての人が恐れる存在です。それでも四郎は、どんな恐ろしい敵でも果敢に向かって倒しにいきます。その魅力に惹かれた人たちは、四郎の仲間になっていき、ともに六道財閥と戦います。作品の魅力は、ひとりで自分勝手に突っ走る四郎を支える仲間たちの活躍です。元々は六道財閥側だった人たちも、四郎をサポートしたり、知恵を貸したりして、一緒に戦い抜きます。戦うシーンだけでなく、夕飯用の魚を川で捕獲したり、遊園地を満喫したりして、楽しそうにしているシーンが多いので、気を張りすぎずに読める作品です。

　巨大権力に屈さずに立ち向かっていく人を描いた作品からは、勇気がもらえます。勇気が出せずにいるときに、読んで気持ちを奮い立たせてみてはいかがでしょうか。

（稲福竜生）