レジェンド脚本家・辻真先氏が語る、国民的アニメの「第1話」たち
マグミクス / 2021年8月25日 16時50分
■感動とテーマを伝えたかった『ジャングル大帝』の第1話
89歳となった現在も、『名探偵コナン』(青山剛昌原作)など人気アニメの脚本執筆に携わっている辻 真先さんが、自身の脚本家人生を回想する書籍『辻 真先のテレビアニメ道』(立東舎)を2021年8月26日(木)に刊行します。
辻さんはTVアニメの黎明期から数多くの脚本を手掛けていますが、特にTVシリーズの「第1話」を多く担当しています。「第1話」は、視聴者の心をつかむための重要な回です。創作における苦労やアイデアについてお話を聞きました。
――この度刊行される『辻 真先のテレビアニメ道』では、アニメとマンガが二人三脚で歩んできた歴史を浮き彫りにされています。辻先生とアニメ、マンガとの出会いを教えて下さい。
辻 真先さん(以降、辻) 僕は名古屋生まれの名古屋育ち。小学生だった頃は「漫画映画(当時のアニメの呼称)」に夢中で、名古屋繁華街の映画館に通いました。
「漫画映画」が好きだから「漫画」はもちろん大好き。終戦後には本が容易に手に入らず、漫画から離れた時期もありましたが、たまたま貸本屋で手塚治虫先生の『メトロポリス』を読んで仰天しました。以後、手塚漫画を乱読しています。
「漫画少年」(学童社)で連載していた『ジャングル大帝』の最終回を読んだ時には、不覚にも涙が止まらず、立ち読みしていた書店で恰好がつかなかった思い出があります。やがて自分が、手塚先生のプロダクションで『ジャングル大帝』のアニメに関わることになろうとは、この時は夢にも思いませんでした。
――辻先生はTVアニメの「第1話」を多く手掛けていますが、マンガが好きで原作の内容をよくご存じだったことも、その抜擢の理由だったと思います。『ジャングル大帝』(1965年)が、「第1話」のシナリオを担当した最初の作品ですね。
辻 記念すべきTVアニメ第1作『鉄腕アトム』が人気となり、世間は虫プロが次にどんな作品を出すのか注目していました。そこで国産TVアニメ初のフルカラー作品として企画されたのが『ジャングル大帝』です。僕たちスタッフの気勢も大いに上がりましたが、プロデューサーの山本暎一さんからストーリーにさまざまな制限があることを告げられます。
その内容については『辻 真先のテレビアニメ道』で詳述していますが、致命的だったのは「大河アニメにはできない」ということ。『ジャングル大帝』は、当初からアメリカでの放映を予定していました。アメリカの地方局では番組をバラで買うので、飛び飛びに見ても物語がつながるようにして欲しいという、無理な要望があったのです。
順不同でもわかるようにするには、原作のように主人公/レオを徐々に成長させていくことができません。原作でいうと4か月分ある少年時代のエピソードを、30分しかない第1話のアニメに収めて、第2話以降を差し替え自由にするしかありませんでした。
しかし、仮にも『ジャングル大帝』は、手塚治虫先生の代表作のひとつ。ことに「第1話」では、アニメならではの感動を届けたいし、テーマを視聴者に伝えなければなりません。
■さらなる難題に挑んだ『ゲゲゲの鬼太郎』
ステレオ『ゲゲゲの鬼太郎』(朝日ソノラマ)。辻 真先脚本による「おはなし 妖怪雨ふり天狗」の他、テーマ曲を収録したソノシート本。(C)水木プロ・東映動画
――企画陣の希望も取り入れねばならない苦労がありましたが、『ジャングル大帝』の「第1話」は、どのように乗り越えたのでしょうか。
辻 第1話「行けパンジャの子」の脚本は、6回改稿し半年かけて完成させています。アフリカを舞台にした、獅子王/パンジャVS人間の攻防の物語。それを、CMタイムを境に飛躍させて、大洋に浮かぶ輸送船へと時空間を移しました。
船のなかでは、人間にとらわれたパンジャの妃/エライザが、息子のレオに父王の最期を語ります。父から息子へとバトンが渡される王者の務め、そして母の愛を書いたつもりですが、試写会では「フィルムをかけ間違えたのか」「こんな複雑な構成が子どもにわかるか」と言われました。でも、最後まで見てもらえればわかるはず。放映時には、子どもたちはちゃんとドラマを受け止めてくれました。
――辻先生が手がけてこられた「第1話」には、先生の思いが一番込められているように思います。世界観の創出から始めなければならないわけですから。
辻 およそTV番組になりそうもないマンガも、TVにしなければならない。『ゲゲゲの鬼太郎』(1968年)も、そうでした。僕が書いていた当時はまだ『墓場鬼太郎』の題名でしたからね(※『墓場鬼太郎』は水木しげるが貸本漫画などで発表した作品。アニメ化に伴い『ゲゲゲの鬼太郎』に改題)。
当時のTVアニメのスポンサーは、子ども向けの菓子や玩具の会社が中心ですから、「墓場チョコ」だの「妖怪キャラメル」は作れないだろうと案じました。そこで、テレビの子供番組にふさわしい、健全で希望あふれる『墓場鬼太郎』を書こうとしたんです。
「第1話」のタイトルは『おばけナイター』。おどろおどろしい「墓場」が舞台でも、子どもが野球を楽しむんだからいいでしょう、というわけです。気を遣って書いたつもりでしたが、視聴者からはのちのちまで「怖かった」とこぼされています。
原作で、幽霊族最後の男の目玉が落ちて鬼太郎の「目玉の親父」になる、目玉ドロリ──をやりたいのが本音でしたが、到底できませんでしたね。
■安彦良和さんの依頼を受けて書いた『巨神(ジャイアント)ゴーグ』
――現在もなお、TVアニメのシナリオに携わっている辻先生ですが、シリーズ全体を俯瞰することができた最後の作品として『巨神ゴーグ』(1984年)のタイトルを挙げられています。
辻 安彦良和さんから脚本の依頼を受けた時は驚きました。新しくロボットものを始めるという話でしたが、制作会社のサンライズには『機動戦士ガンダム』(1979年)や『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)などの人気作品がすでにありました。
「『ガンダム』や『ボトムズ』とかぶるのではないか」と安彦さんに聞いたら、「かぶりません。原作は僕だから」という答えが返って来ました。心強い一言に、僕は喜んで引き受けています。
いざ安彦さんの原作を見せてもらうと、大型のメモ帳にイラスト混じりの覚書が書かれていました。舞台になるのは、南海の孤島オウストラル──。それなのに、安彦さんの「第1話」原作はニューヨークの真っただなかで開幕するというのです。
今回『辻 真先のテレビアニメ道』には、『巨神ゴーグ』第1話「ニューヨーク・サスペンス」のシナリオを収録しているので、僕がどんな話を書いたのか、ぜひご覧になってみて下さい。
『巨神ゴーグ』は題名にロボットの名をうたっていますが、ロボットはなかなか登場しません。玩具を売り出すスポンサーは、「第4話」でようやく姿を現した巨神に装備らしいものが見当たらないので、戸惑ったに違いありません。「こりゃあ原作者は確信犯だぞ」そう推理して、僕も腹をくくって書きました。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
辻 『辻 真先のテレビアニメ道』執筆にあたり、改めて自分が手掛けたアニメを振り返ってみると、実に多くのジャンルに挑戦してきたなと、感慨深いものがありました。
TVアニメは、作り手も、受け手も、同時に芽吹いた新しい文化で、双方向で互いの質を高めあってきました。何もなかった荒野に切り拓かれて来たTVアニメの道。アニメを作る人と見る人のそれぞれが、これからも守り育ててもらえればと思います。
※文中一部敬称略
(C) 辻 真先
●『辻 真先のテレビアニメ道』(立東舎)は、2021年8月26日(木)より全国発売予定。A5正寸、320ページ、本体2200円+税
(メモリーバンク)
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