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伝説の声優・富山敬の偉業 「ジャンプ」アニメ最初の主人公役

マグミクス / 2021年9月25日 6時10分

伝説の声優・富山敬の偉業 「ジャンプ」アニメ最初の主人公役

■さまざまなタイプの主人公を演じてきた実力派声優

 本日 9月25日は声優の富山敬さんがお亡くなりになられた日です。1995年、今から26年前のことでした。

 富山さんが亡くなってからかなりの月日が経ち、若い世代のファンの方々のなかにはご存じない人もいると思いますが、第一次アニメブーム、声優ブームでは中心にいたと言っても過言ではない声優のひとりです。その数々の功績について振り返ってみましょう。

 富山さんが声優を始めた1960年代頃は、まだ声優は俳優の副業と認識されていた時代でした。アニメの本数も少なく、主に洋画の吹き替えの方が主流だった時代です。もっとも古い出演アニメ作品の『鉄人28号(第一作)』(1963~1965年)では、富山さんは毎回違ったゲストキャラを演じるレギュラーポジションでした。

 そんな富山さんの初アニメ主演作品が『佐武と市捕物控』(1968年)の佐武です。当時としては異色の大人向けに製作されたアニメ作品で、放送時間も当初21時からとなっていました。

 その後、「週刊少年ジャンプ」原作マンガとしては初のアニメ作品『男一匹ガキ大将』(1969年)では主人公の戸川万吉を演じます。つまり、「ジャンプ」アニメ最初の主人公を演じたのは富山さんでした。

 そして同年に、富山さんの代表作となる『タイガーマスク』(1969~1971年)の伊達直人ことタイガーマスクを演じます。筆者も最初に富山さんの声を意識したのはこの作品でした。強く雄々しいタイガーだけでなく、悩み苦しむ伊達直人の演技は心打たれるものがあり、喜怒哀楽すべての感情を見る人の心に訴えかけるように演じていたと思います。

 こうして富山さんは主演作やレギュラーなど、多くの代表作を生み出していきました。『山ねずみロッキーチャック』(1973年)ではどこか抜けてるけど憎めないきつねのレッド役を、『侍ジャイアンツ』(1973年)の番場蛮では気の短い熱血漢の主人公と、さまざまなタイプの役を演じています。そして、日本にアニメブームを巻き起こした一大ヒット作『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)では、主人公の古代進を演じることになりました。

 放送時は裏番組との視聴率争いに惨敗した『ヤマト』でしたが、劇場版の大ヒットで一躍ブームを巻き起こし、アニメという名前の知名度を上げ、アニメ雑誌という新しいジャンルの書籍を生み出します。そして、それまで裏方に過ぎなかった「声優」という職業をクローズアップさせる要因となり、『ヤマト』の主人公だった富山さんはアニメファンなら誰もが名前を知るトップ声優となりました。

 この頃、筆者がアニメ以外で富山さんの演技の巧みさを知ったのは『ママとあそぼう!ピンポンパン』(1966~1982年)という幼児番組のマスコットキャラのブチャ猫です。特に番組の1コーナーだった紙芝居『刑事ジャガー』は、主人公のジャガーから犯人役、女性に子供などすべてのキャラをブチャ猫が語るという形で富山さんが演じており、その演技の巧みさに今でも思い出せるほどのインパクトがありました。

■仕事に対してストイックだった声優界きっての人格者

『ちびまる子ちゃん』さくら友蔵役 画像は「ちびまる子ちゃんセレクション 『まる子、初夢を見たい』の巻」(ポニーキャニオン)

 アニメブーム、声優ブームが起こったことで富山さんへの注目度は高まり、それまで以上の代表作を生み出していきます。

『ガンバの冒険』(1975年)のガクシャ、『UFOロボ グレンダイザー』(1875年)のデューク・フリード/宇門大介、『キャンディ・キャンディ』(1976~1979年)のテリィことテリュース・G・グランチェスター、『アローエンブレム グランプリの鷹』(1977年)の轟鷹也、『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』(1979年)のマルコ・ポーロなど、まだまだありますがご紹介しきれません。

 特に『タイムボカン』 (1975~1976年)のナレーターをはじめとするおだてブタなどの役で8年間のシリーズ皆勤賞は三悪(3人組の悪役)と並ぶ偉業です。さらに唯一、ナレーターではなく主演だった『逆転イッパツマン』(1982年)の豪速九/イッパツマンでは、安定のヒーロー演技を見せてくれました。

 主人公だけでなく、渋いサブキャラ、おちゃらけたギャグキャラ、時には冷徹な悪役など、歳を重ねるごとに円熟味を増した演技を見せるようになった富山さん。そんな富山さんの遺作となったのが、『ちびまる子ちゃん』(1990年~)のおじいちゃんことさくら友蔵です。

 今回の執筆にあたり、あらためて富山さんのことをいろいろと調べたのですが、声優界きっての人格者で人当たりも良く、後輩の面倒見もよかったという情報がいくつもありました。そんな温和な面があっても仕事には真摯に向き合っており、体調をくずしても自分からは絶対に弱音を吐かなかったと言われています。

 実は初の主演作『佐武と市捕物控』は病気で途中降板、『タイガーマスク』でも一時期降板していた時期がありました。そんなことがあったからか分かりませんが、『ちびまる子ちゃん』では体調が悪くても仕事を優先したばかりに病気の進行をとめられなかったとのこと。享年56歳。まだまだご活躍できたであろう年齢です。

 その没後、OVA『銀河英雄伝説』(1988~1997年)で富山さんが演じたヤン・ウェンリーはあえて代役は立てず、ナレーションやモノローグでその後の物語が製作されました。

 そして、2007年から始まった「声優アワード」では、それまでの功績をたたえて第1回特別功労賞を授与されます。さらに第2回から声優アワードの一部門として、富山さんの名を冠した「富山敬賞」が設立され、「その年に声優という職業を最も世の中に浸透させた功労者」に対して贈られることになりました。

 いまだに富山さんが生前に演じてきたキャラを聞くことが多々あり、そのたびに活躍していた頃を思い出すことがあります。この先、リアルタイムでの活躍を覚えている人もやがていなくなるでしょう。しかし、後の世代にも語り継いでいきたい伝説の声優のひとりだと筆者は思います。

(加々美利治)

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