11年ぶり映画に登場『ハートキャッチプリキュア！』 クレームを乗り越えて売上歴代1位の魅力

■視聴者の「ハート」を「キャッチ」した魅力的な作劇

　2021年10月23日（土）に公開される『映画 トロピカル～ジュ！プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪！』。本作は現在テレビで放送中の『トロピカル～ジュ！プリキュア』の劇場版ですが、ゲストプリキュアとしてシリーズ第7作『ハートキャッチプリキュア！』のメンバーが登場します。

　この『ハートキャッチプリキュア！』は2010年2月7日から2011年1月30日まで放送されていた作品で、全49話が制作されました。

　本作のキャラクターデザインを見た時に、多くの人が同じ放送時間だった過去作『おジャ魔女どれみ』を思い出したことと思います。それは当然で、『どれみ』と同じく馬越嘉彦さんが本作のキャラクターデザインを担当していました。さらにシリーズ構成の山田隆司さん、シリーズディレクターの長峯達也さんと、『どれみ』のスタッフが多く関わっています。

　これには「『どれみ』のような人情ドラマをプリキュアでやってみよう」という意図があったそうです。『どれみ』は悩みを抱える人たちを魔法で助けるというのが基本的な物語でした。これを参考に本作では、人の悩みが具現化した怪物をプリキュアが浄化することで、その人の心の悩みを救うという物語になります。

　これによりプリキュアとして必要なバトルシーンと、『どれみ』の持っていた人を救うというコンセプトを無理なく両立することに成功。この人の心の弱さを怪物にして、それを浄化するというフォーマットは、本作から後の「プリキュア」シリーズの何作かにも引き継がれることになりました。

　プリキュアの魅力は女の子の好きな「華やかさ」。そして、バトルで見せる「迫力」と言われています。本作では女の子が興味を持つファッションと花をモチーフに、華やかさを演出していました。また一方のバトルでは、手数の多い激しいアクションシーンも多く見られます。そのため、名前の付いた技は歴代のプリキュアのなかでも多い方となりました。

　しかし、すべてが順調だったわけではなく、視聴者から「お尻で敵を攻撃したり、妖精が黄色いものを出したりするのは下品」というクレームも寄せられています。これにより妖精の当該シーンは修正されました。もうひとつの「おしりパンチ」は1話限りになりましたが、その後は身体を大の字にしてぶつける「ぜんぶパンチ」、額をぶつける「おでこパンチ」、ラスボスに対して放った「こぶしパンチ」などが使われました。スタッフの真意は分かりませんが、クレームに対してシャレを効かせたようにも思えます。

　このようなことがありましたが作品的には好調で、「プリキュア」シリーズの年度別売上では『ふたりはプリキュア Max Heart』を抜いて第1位を記録。これは以降のシリーズ作品にも抜かれていません。この人気ゆえ、今回の11年ぶりの劇場版ゲスト出演が決まったのかもしれませんね。

■原点回帰しながらも新しいプリキュア像に挑戦する

『映画 トロピカル～ジュ！プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪！』 (C)2021 映画トロピカル～ジュ！プリキュア製作委員会

　本作のプリキュアは当初、花咲つぼみ／キュアブロッサムと来海えりか／キュアマリンのふたりだけでした。これは前作までのチーム制だったプリキュアを、当初の「ふたり」へと原点回帰したからです。最初は「ふたり」だったプリキュアが追加メンバーを加えて、チーム化するというパターンは本作が初めてでした。

　そして、第1話放送開始時に視聴者を驚かせたのが、事前に公表されていなかったキュアムーンライトの存在です。このムーンライトと後述するダークプリキュアとの最終決戦から始まる第1話は、それまでのシリーズになかった導入部で、いきなり情報量の多いこの展開は視聴者を釘付けにしました。ちなみに第1話ではムーンライトの声優は「？」でクレジットされ、その正体は謎のまま以降の物語は進んでいきます。

　後にムーンライトの正体である月影ゆりが登場。第1話で変身能力を失っていたことが判明しますが、物語中盤で変身能力を回復させて最後のチームメンバーになりました。シリーズでは初めての高校生プリキュアです。ちなみにムーンライトだけデザインが大きく違うのは、以上のように本作のプリキュアの先代にあたるからでしょう。

　これ以前にチームに3人目のメンバーとして加わったのが明堂院いつき／キュアサンシャインです。当初からオープニングに登場しており、男子用の学生服を着ていたことから最初は男性と思われていたこともありました。しかし、それは病弱な兄の代わりを務めようと決意していたからです。最終回では髪を伸ばし、女子用の学生服を着ていたことから、兄の体調は回復した模様でした。

　本作のプリキュアは昔からいたという設定があり、歴代のプリキュアの石像が並ぶプリキュアパレスという建物も登場しています。そのほかにもつぼみの祖母である花咲薫子が、かつてキュアフラワーというプリキュアだったことも明かされていました。一度だけプリキュアに変身したこともあるので、シリーズ最年長プリキュアとされています。

　この他、敵側にプリキュアの名を持った存在、ダークプリキュアがいることが本作の特徴のひとつでしょう。このダークプリキュアは第1話から登場していますが、圧倒的な強さでムーンライト以外のプリキュアに負けたことがありません。また、最後まで敵のままで味方にならなかったという点も特筆する点でしょう。

　ちなみにこのダークプリキュアは、本作のオーディションを受けた声優の高山みなみさんの素晴らしさに感銘を受けたスタッフが、どうしても役を与えたいと考えて後から設定したキャラクターだそうです。

　放送当時から、あらゆるファン層に好評だった本作のプリキュアたち。最近は再放送などで見ているお子さんも多いことでしょうから、11年前であっても現役と肩を並べることができるのかもしれません。この点がアニメ作品の良いところかもしれませんね。

（加々美利治）