『鬼滅の刃』クセモノぞろいのキャラたち いちばんの常識人は？

■『鬼滅の刃』の常識は非常識？　ヘタレだからわかる「一般人」目線

　アニメ第2期「遊郭編」の放送も2021年12月から始まり、『鬼滅の刃』（著：吾峠呼世晴）旋風はまだまだ続きそうです。主人公・竈門炭治郎だけでなく、多くの『鬼滅』キャラクターたちがその漢字の難読ぶりとは裏腹に、全国津々浦々まで認知されはじめているようです。誰ひとりとして没個性な者はなく、名もなき隊士にすら「サイコロステーキ先輩」というあだ名がつけられるのです。

　それほどに『鬼滅の刃』に登場するキャラクターたちは個性的です。では、彼らのなかでもっとも常識を持ち合わせているのは誰でしょうか。本稿ではいわゆる「かまぼこ隊」こと竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助を中心に、『鬼滅』ワールドにおける常識度を確認していきたいと思います。もちろん常識とは流動的で、『鬼滅の刃』は超人的なキャラクターによって紡がれる物語です。ということでやや恣意的ではありますが、いかに一般的な目線と知識を持ち合わせているかを判断基準に据えて見ていきたいと思います。

●「俺は長男だから我慢できたけど」フィジカルにおいては非常識？　竈門炭治郎

「週刊少年ジャンプ」のバトルマンガにおいて、主人公が常識を持ち合わせている作品はそこまで多くないかもしれません。むしろ社会通念にとらわれない破天荒ぶりが目立つヒーローは、「ジャンプ」マンガの定番だったと言えるでしょう。

　では、炭治郎はどうでしょうか。山奥で育った炭治郎は確かに浅草の町に狼狽する「世間知らず」ではありましたが、他者の心の痛みに対してはたぐいまれな想像力を持っています。相手が鬼であろうと、その境遇に対し深い同情を示します。小説家を志していた鬼の原稿を決して踏まなかったり、「神様どうかこの人が今度生まれてくる時は　鬼になんてなりませんように」と祈ったり……その優しさに救われた鬼も少なくありませんでした。

　いっぽうで、「肉体の痛み」に対してはちょっと無頓着。もともと「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」のセリフに象徴されるように超人的な身体能力と忍耐力を持っています。この長男＝保護者としての自覚は時に齟齬（そご）を生み、埋葬という文化を知らぬ伊之助を「傷が痛むから手伝わない」と早合点したシーンは有名です。勇猛果敢に鬼と対峙するときと同じくらいの勢いで、気難しいキャラクターたちの懐に飛び込んでいく点も、やや常識を逸脱した炭治郎の魅力です。

●最も読者に寄り添ってくれるヘタレイケメン、我妻善逸

　では作中随一の「ヘタレ」である我妻善逸はどうでしょうか。彼こそ『鬼滅の刃』で最も常識を持ち合わせているひとりと言えそうです。そしてその理由こそ彼が「ヘタレ」であることに他なりません。

　前述の通り、本稿における「常識」とは一般的な目線と知識を持ち合わせているかです。この基準でいえば、敵前逃亡を辞さない構えで泣きわめいたり、ときに子供にすら呆れられながらも逃げ惑ったりする姿がこっけいに描かれていますが、そもそも「死」は怖いもの。超人の集う『鬼滅』ワールドにおいて、それを読者に思い出させてくれるのは善逸だけです。

　出身も炭治郎と伊之助に比べれば比較的都会です。それゆえ鉄道に関する知識をある程度は持っていたり、世の中の仕組みをある程度理解していたりと、時に指南役を引き受けます。そうでなくては「ツッコミ」という重要な役割を全うすることはできないのです。もちろん「常識」を知っていても、それを使いこなせているかといえば……これもまたご愛嬌です。

●伸びしろは最強、嘴平伊之助

　嘴平伊之助はもっとも「常識」獲得へのポテンシャルを秘めた男です。彼の出生にまつわる秘密は別に譲りますが、『鬼滅の刃』は野生児・伊之助が人間社会の常識を身につけてゆく成長譚という側面を持ちます。藤の花の家紋の家で「ほわほわ」に触れ、鬼殺隊にて集団行動の意義を知り、また敬意を覚えていくのです。細かいところですが炭治郎を殴る音も仰々しいものから「ペムペム」とかわいらしいものに変わるなど、成長率でいえば伊之助がもっとも高いと言えるでしょう。

　ということで『鬼滅の刃』における常識度を竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助から見ていきました。今回はこの3名でしたが『鬼滅の刃』全キャラクターでいえば誰なのでしょうか。なぜかサラサラのキューティクルヘアーが頭に浮かびます。

（片野）