劇場アニメ『ロン 僕のポンコツ・ボット』 夢のロボットが投じる「一石」とは
マグミクス / 2021年10月22日 12時10分
■友達を見つけてくれるハイテクロボット
「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」
これは19世紀に活躍したSF作家ジューヌ・ヴェルヌが残した言葉です。そして、ヴェルヌがSF小説のなかで描いたとおり、今では人類は世界旅行のみならず宇宙旅行も可能となりました。2021年10月22日(金)より公開のディズニー配給による劇場アニメ『ロン 僕のポンコツ・ボット』(原題『Ron’s Gone Wrong』)には、最新型のハイテクロボット「 Bボット」が登場します。これもごく近い将来、実現しそうなほどリアリティのあるロボットです。
シンプルなデザインのこの「Bボット」はネットとつながっており、通信やゲームなどのスマートフォン機能が搭載されています。そして、最大の目玉機能は、持ち主の趣味や好みに合わせて、相性ぴったりの友達を見つけてくれることです。「Bボット」を介することで、友達づくりはとてもスムーズに進みます。まさに夢のようなお役立ちロボットです。
丸みを帯びた「Bボット」のフォルムは、『ベイマックス』(2014年)を彷彿させます。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)でおなじみの「BB-8」なども参考にしたそうです。小さな子供でも簡単に似顔絵が描けることから、幅広い世代に人気が出るのではないでしょうか。
■自宅に届いたのは欠陥商品?
欠陥商品の「Bボット」ロンは、次々と思いがけない騒ぎを巻き起こす
気になる映画のストーリーを紹介します。巨大IT企業のバブル社より、最新ロボット「Bボット」が発売され、子供たちはみんな夢中になります。友達を見つけてくれる「Bボット」がいれば、孤独にならずに済むからです。しかし、幼い頃にお母さんを亡くしているバーニーは、仕事で忙しいお父さんに気兼ねして、「Bボット」を買ってほしいと言うことができずにいました。
バーニーは誕生日を迎えますが、誕生パーティーには誰も姿を見せません。バーニーに友達がいないことに気づいたお父さんは、バブル社に駆けつけるものの、すでに「Bボット」は売り切れ状態。そこでお父さんは、売れ残っていた不良品の「Bボット」をこっそり受け取り、自宅に持ち帰るのでした。
バーニーは大喜びしますが、「ロン」と名付けられるこの「Bボット」はヘンテコでした。インターネットに接続できないため、友達を見つけることができないのです。しかも、人間の言うことを聞かず、自分勝手に行動を始めます。一度はバブル社に引き取ってもらい、新品に交換してもらおうと考えたバーニーですが、予想もしない行動をやらかすロンに親しみを覚え、手放すことができなくなっていきます。
■『ドラえもん』を思わせる友情物語
だんだん仲良くなっていくバーニーとロン
ハイテクロボット「Bボット」のセールスポイントは友達を見つけることなのに、ロンにはその機能がありません。欠陥のあるロボットがクラスで浮いている男の子と仲良くなっていく展開は、『ドラえもん』に通じるものがあり、日本人にもなじみ易いものとなっています。
確かにロボットが友達を探し、友達申請まで代行してくれれば、とても楽ちんです。ひとりぼっちになるかもしれないという恐怖から、解放されることになります。また、友達がたくさんできれば、自慢もしたくなるでしょう。
でも、コンピューターを通しての友達探しは、同じ趣味やライフスタイルが似ている人を見つけることはできても、そこには意外性はありません。趣味や嗜好性が同じ人たちとの交流はもちろん楽しいのですが、同じような考え方の人たちばかりと繋がるため、FacebookやTwitterにのめり込む人のように「エコーチェンバー現象」に陥ってしまう危険性があります。エコーチェンバー現象とは、閉ざされた環境のなかで、特定の意見が強化、増幅されることを指します。この状態になると、誤った考え方を持っても「それは違うよ」と正してくれる人はいなくなってしまいます。
その点、ロンは自宅を飛び出して暴走するなど、バーニーを現実世界での大騒動に巻き込みますが、自室にこもりがちだったバーニーを大冒険に連れていってくれます。自分と同じような性格の友達といるだけでは味わえない想定外の冒険を重ねることで、バーニーとロンは強いつながりで結ばれていくのでした。
ロンはバーニーの友達を見つける代わりに、自身がバーニーの友達となります。そしてバーニーは、友達の数の多さを競うことより、互いのことをどれだけ本気で思いやれる友達がいるかが大事だとということに気づくのです。もはやロンは交換可能なロボットではなく、バーニーにとっていちばんの親友となります。
■息苦しさを招きがちな最適化社会
ちなみに『ロン 僕のポンコツ・ボット』は、英国のアニメーションスタジオ「ロックスミス・アニメーション」が制作した初めての長編アニメです。大ヒット3Dアニメ『トイ・ストーリー』(1995年)などで知られるピクサー作品に比べると、人物デザインやストーリーは洗練され切っているとは言えないかもしれません。でも、ロンにポンコツ・ボットならではの魅力があるのと同じように、洗練されていない部分も本作の個性になっているのではないでしょうか。また、最初はうざったい存在に見えていたバーニーのお父さんやおばあちゃんも、ロンの活躍とともに味のあるキャラに思えてきます。
2021年の夏休み映画として公開されたアメコミ映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』や『フリー・ガイ』も、社会のルールや世間の常識から逸脱したダメ人間たちが世界を救い、新しい時代の扉を開く感動的なストーリーとなっていました。『ロン 僕のポンコツ・ボット』にもテーマ的に共通するものがあります。
社会のIT化はますます進み、「Bボット」のような便利なハイテクロボットが近い将来に登場するのは間違いないでしょう。ジューヌ・ヴェルヌの予言どおりになりそうです。しかし、便利さ、快適さばかりを追い求めていくと、大切なことを見落としがちです。バーニーにとって、ロンが手の焼ける面倒くさい存在でも、だんだんとかけがえのない相棒となっていくように、ポンコツなものには、ポンコツならではの魅力があります。
また、ポンコツなものが排除され、すべてが最適化された社会は息苦しさを招きがちです。バーニーとロンのコンビの活躍を描いた本作はこれからのIT化社会に一石を投じる注目の映画となりそうです。
●『ロン 僕のポンコツ・ボット』
監督/ジャン・フィリップ・ヴァイン、サラ・スミス
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン 2021年10月22日(金)より公開
(c)2021 20th Century Studios.All Rights Reserved.
(長野辰次)
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