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令和版『日本沈没』は高視聴率をキープ テレビ界のタブーに迫ることは可能か?

マグミクス / 2021年10月23日 10時10分

令和版『日本沈没』は高視聴率をキープ テレビ界のタブーに迫ることは可能か?

■オリジナル要素が強い小栗旬主演の意欲作

 小栗旬さん主演の連続ドラマ『日本沈没 希望のひと』(TBS系)の第2話が、2021年10月17日に放送されました。SF作家・小松左京氏のベストセラー小説『日本沈没』のTVドラマ化は、1974年~75年に放映された村野武範さん主演版に続き、二度目となります。第1話の15.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)に続き、第2話は15.7%と高視聴率をキープしています。

 昭和に放映された旧ドラマ版は、日本列島が太平洋に沈むという未曾有の大災害のなかで、深海潜水艇の操縦士・小野寺俊夫(村野武範)と資産家の令嬢・阿部玲子(由美かおる)が愛を育む恋愛ドラマにもなっていました。令和の新ドラマ版では、原作小説には登場しない環境省の官僚・天海啓示(小栗旬)が主人公となり、オリジナルの展開を見せています。

 関東沈没を予言する田所博士役に香川照之さん、天海と仲の良い経産省の官僚・常盤役に松山ケンイチさん、天海の言動に興味を持つ雑誌記者の椎名役に杏さん……と、主演級の人気俳優が共演する豪華キャスティングも話題となっています。放送日の深夜12時からNetflixで世界配信されているのも、TBSとしては初めての試みです。

■日本のTVドラマでは珍しい「ポリティカルサスペンス」

 これまで何度も映像化されてきた『日本沈没』ですが、昭和の旧ドラマ版に加え、映画『日本沈没』(1973年)、リメイク版の映画『日本沈没』(2006年)でも、小野寺俊夫が主人公でした。小野寺は深海潜水艇に同乗した田所博士から日本が沈没することをいち早く知らされますが、彼の立場はあくまでも民間人です。これまでの映像化作品では、ひとりの市民の目線から見た日本沈没が描かれてきました。

 一方、令和版の主人公・天海はエリート官僚です。他にも東山総理(仲村トオル)、政界に強い影響力を持つ副総理・里城(石橋蓮司)といった政治家や官僚たちが物語を動かしていきます。これは日本のTVドラマではあまり見ることのない、「ポリティカルサスペンス」と呼ばれるジャンルになります。国家レベルでのスケールの大きな物語が展開されるのが醍醐味です。

 天海は当初、田所博士が主張する「関東沈没説」を信じていませんでしたが、調査で一緒に深海潜水艇に乗ってから考え方を改めます。彼は、万が一にでも関東が沈没する事態になった際にどうすれば市民の安全を守ることができるかを考えるようになるのです。しかし、田所博士の存在を邪魔に感じる世良教授(國村隼)は調査データを改ざんした上で、「関東沈没はありえない」と断言。そのため、田所博士だけでなく、天海の立場も危うくなります。

 政治家や官僚の世界は一枚岩ではありません。利権や自分の立場を守るために、さまざまな謀略が巻き起こっています。第1話を見終わった際は、ゴジラの登場しない『シン・ゴジラ』(2016年)みたいなTVドラマになるのかなと思っていたのですが、第2話からは松坂桃李さん主演の日本アカデミー賞受賞作『新聞記者』(2019年)のような政界の陰謀要素も加わり、ドロドロのドラマが続きそうな雰囲気です。

■札幌が日本の新しい首都に?

2006年に公開された映画『日本沈没』でも、日本の首相が国民を避難させようと行動する様子が描かれた。画像は映画『日本沈没』DVD(ジェネオン エンタテインメント)

 第2話の終わりには、田所博士が東山総理の前で関東が沈没する様子をシミュレーションで見せるシーンがありました。「1年以内に関東沈没が始まる」という田所博士の言葉に、東山総理はびっくりです。

 ここで気になるのは、令和版の田所博士は「関東沈没」は予言していますが、日本が沈没するとは言っていないということです。昭和版は半年かけて日本が徐々に沈んでいく様子を特撮シーンも交えて描いていましたが、年内で放送が終わる令和版『日本沈没』は、関東沈没だけで済むのでしょうか。

 もちろん関東が沈没するだけでも一大事。関東全体で4300万人以上いる人たちを避難させるだけでも、気が遠くなるような大事業です。東山総理は首都機能を札幌に移すことを考えているようですが、皇居の移転はどうなるのでしょうか。歴史ある京都に戻るのか、それとも首都機能とともに札幌に引っ越すのか、気になるところです。

 TBSは今後の展開を明かしていませんが、関東が沈んだ後で、日本全体が沈むことになるのかもしれません。その際には、もうひとつ気になるポイントが出てきます。関東以外の各地にある原子力発電所への対応をどうするのかという問題です。

■TBSはテレビ業界のタブーに触れられるか

 これまで実写化された『日本沈没』では、平成時代のリメイク版映画も含め、原発問題には触れていません。Netflixで配信されたアニメシリーズ『日本沈没2020』では、メインキャラクターであるカイトが「原発が煙を上げているのを見た。雨は危険だ」と台詞で触れるだけにとどめていました。

 2011年の東日本大震災の際に起きた福島第一原発事故の生々しい惨状が記憶に残る現在に大災害をテーマにした作品を作る以上、原発問題は避けられないポイントでしょう。主人公・天海の実家がある愛媛県にも、伊方原発があります。テレビ局にとって、電力会社は大口のスポンサーです。それゆえに、テレビ業界ではタブー視されている原発問題をTBSがどう扱うのかにも注目です。

 また、仲村トオルさん演じる東山総理にこれから見せ場が待っているのかどうかも気になるところです。樋口真嗣監督が撮ったリメイク版映画『日本沈没』の山本総理(石坂浩二)は、日本国民の海外避難を諸外国に理解してもらおうと旅立った途上で消息を絶ちました。庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』の大河内総理(大杉漣)も、中盤で悲劇的な最期を迎えています。

 令和の新総理には、1973年版の映画『日本沈没』で総理役を演じた丹波哲郎さんばりの熱演シーンが待っていることを期待したいと思います。

(長野辰次)

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