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金ロー『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 劇場版につながる「神回」

マグミクス / 2021年10月29日 6時10分

金ロー『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 劇場版につながる「神回」

■京都アニメーション制作の人気アニメを特別編集

「言葉には裏と表があるの」

 京都アニメーション制作による人気TVアニメシリーズ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、「言葉」をモチーフにした繊細かつ深淵な人間ドラマです。日常生活において何気なく使っている言葉や文章ですが、使い方を誤ると人を傷つけてしまうことがあります。また、傷ついている人を勇気づけることもできます。

 2021年10月29日(金)放送の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)は、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 特別編集版』です。全13話あるTVシリーズ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』から、序盤となる第1話から第3話、そしてファンからの支持が高い第7話、第9話、さらに「神回」と呼ばれた第10話を中心に、ギュッと凝縮した内容となっています。

 ファンはもちろん、これまで『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界に入りそびれていた人も、予備知識なしで楽しめる1時間54分となっています。第10話を含む後半パートはSNSも大いに盛り上がるのではないでしょうか。

■感情を持たない少女の成長物語

 主人公ヴァイオレットは、金髪で青い瞳をした美少女ですが、心には大きな空洞を抱えています。孤児として生まれ育ったヴァイオレットは感情を持たず、上官であるギルベルト少佐の命令にだけ従い、戦場で戦う日々を過ごしてきました。激戦のすえ、ヴァイオレットは両手を失い、ギルベルト少佐の消息が分からないまま終戦を迎えます。ヴァイオレットは義手を付けて社会復帰することになりますが、その際に選んだ職業がドール(自動手記人形)と呼ばれる手紙の代筆業でした。

 戦場で生き別れたギルベルト少佐がヴァイオレットに残した最後の言葉は、「愛してる」でした。でも、命令に従うことしか知らなかったヴァイオレットには、「愛してる」の意味が分かりません。そこで、手紙の代筆をしながら、「愛してる」という言葉の意味を学ぼうと考えたのです。

 かくしてヴァイオレットは、ギルベルト少佐の親友だったホッジンズ社長が経営する郵便社で、見習いドールとして働き始めます。ラブレターや離ればなれになった家族を気遣う手紙を代筆することで、ヴァイオレットは少しずつ「愛してる」の意味を知ることになるのです。

 同じく京都アニメーション制作の『映画 聲の形』(2016年)などで知られる脚本家・吉田玲子さんが、シリーズ構成を担当しており、ヴァイオレットがコミュニケーション能力を身につけていく細やかな成長ドラマとなっています。TVシリーズから手掛けてきた石立太一監督が今回の「特別編集版」を監修しているので、ファンも安心して観ることができそうです。

■初めての代筆で失敗してしまうヴァイオレット

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 公式設定集』(京都アニメーション)

 冒頭の言葉は、職場の先輩である看板ドールのカトレアが、TVシリーズの第2話でヴァイオレットに語ったものです。

「言葉には裏と表があるの。口に出したことがすべてじゃないのよ」

 手紙の代筆業を始めたばかりのヴァイオレットは、大失敗をやらかしました。依頼人の女性がしゃべった言葉をそのまま手紙に書いたため、手紙を受け取った男性は怒って手紙を突き返してきたのです。男性に好意を寄せていた依頼人の女性は、ヴァイオレットを責めます。

 人間が口にする言葉は、必ずしも本心とは限りません。言葉を発した人が心のなかで思っていることまで汲み取らなくては、相手に伝わる文章にはならないのです。言葉を伝えることの難しさを痛感させる、序盤の印象的なエピソードです。

 言葉はとても不自由です。感情をすべて表現できるわけではありません。言ってみれば、言葉も手紙も「心」の代用品です。本当なら、本人が相手のところに出向いて、自分の「心」を丸ごと見せることができればいいのですが、現実的にそれは不可能です。また、人間は往々にして、自分の感情に素直になることができません。

 そこで、手紙代筆のプロであるドールが必要とされるわけです。経験豊かなドールに、より的確な表現を選んでもらい、言葉が足りない部分は補ってもらい、自分の「心」の代用品を手紙としてしたためるのです。ドールの助けは借りますが、便せんにつづられた正直な「心」は、読む人の「心」を動かすことになります。

■母と娘との絆を描いた「神回」の第10話

 言葉も手紙も「心」の代用品です。ヴァイオレットは失った両手の代わりの義手を使ってタイプライターを打ち、本人に代わって手紙を代筆します。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、代理人が代用品を生み出していく物語となっています。ヴァイオレットの成長譚は、どこかイタリアの児童文学『ピノッキオの冒険』を思わせるものがあります。あやつり人形のピノッキオは何度も何度も失敗を繰り返しますが、物語の最後には育ての親のゼペットじいさんと再会し、人間の少年になることができます。

 ピノッキオが数々の冒険を経験したように、ヴァイオレットも多くの依頼人と受取人の「心」に触れることで、言葉の裏と表の意味、感情の機微を理解していきます。代用品だからこそ、真摯に代筆業に励むことができたのではないでしょうか。次第にヴァイオレットは、感情を持たないドールから温かみのある人間へと成長を遂げていくことになります。

 ヴァイオレットは戦場で鍛えられたために身体能力が優れており、タイプ打ちも速くて正確ですが、魔法少女のような特殊能力は持っていません。「神回」と呼ばれた第10話では、まだ幼い娘を持つ病弱な女性の依頼人のもとで手紙の代筆を行なうものの、依頼人の病気そのものを治すことはできません。それでもヴァイオレットは、依頼人の母娘から深く感謝されることになります。50年に及ぶ、長い長い物語である第10話は、大ヒットした『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020年)にもつながる重要エピソードなので、要チェックです。

 言葉や文章はとても面倒です。人間の「心」はさらに厄介です。でも、ヴァイオレットはひたむきにその厄介な「心」に向き合います。誰かの言葉に傷ついた記憶のある人、また誰かを傷つけてしまったことを悔やんでいる人に、ぜひ観てほしいハートウォーミングな物語です。

(長野辰次)

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