『きのう何食べた？』史朗の「仲直り料理」5選。気まずい場面も笑顔で解決…？

■「ごめん」の代わりに、美味しい料理

　2021年11月3日（水）から公開予定の『劇場版　きのう何食べた？』は、2007年12月から『モーニング』（講談社）で連載スタートしたよしながふみ先生のマンガが原作。ゲイカップルを主人公とした日常と食卓を描きます。2019年4月クールには、西島秀俊と内野聖陽のダブル主演でTVドラマ化され人気を集めした。

　几帳面で倹約家なイケメン弁護士の筧史朗と、明るくて愛されキャラの美容師・矢吹賢二は、2DKのマンションで同棲しています。連載開始当初、史朗は43歳、賢二は41歳でしたが、連載とともに歳を重ね、2021年現在、そろってオーバー50の中年になりました。

　そんなふたりにとって、他愛のないおしゃべりをしながら食卓を囲む時間は、かけがえのないものです。そのひと時のために、史朗はスーパーでお買い得品をゲットしては、「あまからすっぱいのバランスが取れてて一品一品の味もいい」（コミックス第1巻第1話より）料理を作り続けています。

　今回は、『きのう何食べた?』で印象的な史朗が作った喧嘩後の仲直り料理を5つご紹介します。劇場版にも登場する料理はあるでしょうか？

※この記事には、まだドラマ及び、劇場版として映像化されていないシーンについての記載があります。原作マンガを未読の方はご注意ください。

●本気で静かに怒らせた後の「肉みそあんかけチャーハン」ほか（第17話）

　大晦日から元旦にかけて実家に帰ることになった史朗は、賢二につらつらと愚痴をこぼします。母親が老後のことをちゃんとパートナーと話せと口うるさく言う、息子のために山のように料理をつくる……などの史朗の愚痴をだまって聞いていた賢二ですが、その表情は硬く、「とにかくしのごの言わずに、おうちに帰って少しは親孝行してらっしゃいな」と史朗をいさめるのでした。

　翌日、仕事中も賢二の硬い表情や言葉が頭から離れない史朗は、賢二の実家について自分がほとんど知らないことや賢二が父親についてしゃべらないことに気付き、「やっぱりあいつも家族の事については　いつもみたいに笑って聞いてられない　いろんな事情があるって事なんだろうなあ……」と思い至ります。

　その日の夕食、史朗が用意したのは、豚ひき肉の肉みそあんをかけた「あんかけチャーハン」、こってりした味付けの「ブロッコリーと鶏肉のオイスターソース炒め」、「サンラータン」という賢二の好きなもののオンパレードでした。一方、史朗の好物は、さっぱりして脂っ気のない和食ですが、賢二の思いを受け入れた証として賢二の好きなガッツリ系料理を並べたところに愛を感じますね。

●女優にデレデレして嫉妬させた後の「おでん」（第58話）

　弁護士である史朗は、依頼された案件のお礼にと、芸能プロダクションに勤めるゲイ友達の小日向から高級焼肉店に誘われました。気を利かせた小日向がその食事会に、史朗が長年ファンの女優・三谷まみをサプライズで呼んでいたため、史朗はドキドキデレデレ。そんな史朗を見て、同席していた賢二は不機嫌になってしまいます……。

　史朗はゲイですが、好きな女優がいたり、ゲイ受けしないタイプの女性アイドルが好きだったり、ひとりだけですが女性との交際経験もあったりします。それもあって、三谷まみとの会話を反芻（はんすう）してにやける史朗を見て、賢二のジェラシーは増すばかり。帰り道ではあからさまに不機嫌で、鈍感な史朗でも気付くほどでした。

　そこで史朗は、ご機嫌取りのために夕食メニューのリクエストを聞きます。ニヤリと笑った賢二は、「じゃあ　おでん！」「名女優にちなんで思いっきり大根たっぷりで！！」と嫌味たっぷりに答えるのでした。

　さて、翌日作ったおでんは、それぞれが専門店で買った練り物や豆腐屋で買った厚揚げが驚がくほどの美味しさ！　史朗が仕込んだ卵は素晴らしい半熟加減でしたし、なにより大根は、味がよくしみた最高の出来で、賢二もすっかりご機嫌になったのでした。その後に史朗が大根を食べて、また三谷まみに思いを馳せるまでは……。

●オーバー50を一緒に祝おう！「江戸前風ばらちらし」ほか（第102話）

　連載とともに年齢を重ねてきたふたりは、ついにそろって50歳の大台に乗りました。しかし、賢二は自分の50歳の誕生日を祝われることをかたくなに拒否し、自分は今でも49歳だと言う始末……。

　そこで史朗は、自分の誕生日に自分の53歳と賢二の50歳を一緒に祝おうと弁護士らしく賢二を丸め込み、漬けにしたマグロ、卵焼き、アボカド、エビ、煮穴子、しょうゆ漬けのイクラを乗せた豪華な江戸前風ばらちらしをつくりました。

　その他に、「とり天とアボカドの天ぷら」、「菜の花のごまからしあえ」、「はまぐりのお吸い物」と、どれも美味しくて、賢二も大満足で50歳を祝えたのです。しかしその後、史朗が付き合って13年目だという話をしたところ、今後は自分の年齢でなはなく、付き合ってからの年数を祝うようにしようと言い出し、賢二は諦めの悪さを露呈したのでした……。

　この回では、豪華なちらしをつくっている史朗ですが、普段は良く言えば節約家、悪く言えば結構なケチで、スーパーの特売や割引品も大好きです。ワサビやカラシ、ショウガもチューブタイプのものを使っていますし、粉末だしや麺つゆも使って、ごくごく庶民的な料理をつくっています。「菜の花のごまからしあえ」の調味料をボウルで混ぜる際にも、和がらしのチューブをグルグル丸めて、最後の最後まできっちり使い切ろうとする史朗の手元が描かれていて、いじらしくも微笑ましく感じました。

●謎の美女騒動の後の「えびグラタンとニース風サラダ」（第132話）

　事件が起こったのは、史朗と賢二が一緒に買い物に行った帰り道、なごやかに夕食のメニューの話をしながら歩いていた時でした。和装の妙齢の美女が史朗にあいさつし、にっこりと微笑んで去っていったのです。

　賢二が嫉妬しないわけがありません。しかし、史朗にもまったく心当たりがなく、賢二の疑いと怒りを解きたいとは思うものの、何もできないまま時間だけが過ぎていきました。

　ところがある日、思わぬところで史朗は謎の美女と再会します。いつも立ち寄るスーパーの仕事のできるレジ係の女性が「あの日は初釜（年が明けて最初に行われる茶会、そのために和装していた）だったもので……」と、声をかけたのが自分であることを告げてきたのです。

　スッキリした気分で帰宅した史朗は、賢二のためにインゲンやジャガイモ、ゆで卵、トマト、オリーブ、レタスなどの食材を盛り込んだごちそうサラダ、「ニース風サラダ」とエビとマッシュルームが入った「えびグラタン」を用意します。帰宅した賢二は喜んで食べますが、史朗が彼女のことを「謎の美女」と口にした瞬間、再び賢二のご機嫌は急降下。いくら本当に相手が美女であったとしても、いくら女性に興味がないと言っても、パートナーの前で他人を褒める史朗が悪いのです……。

●遺産の話で泣かした後の「アボカドツナチーズトースト」ほか（第138話）

　夏休み前日の夕食後、史朗が唐突に話し出したのは、遺産についてでした。突然のことに、史朗が死んでしまうのではと思って泣き出した賢二に、史朗は法務局が自筆遺言書を預かってくれるようになったことついて説明するのでした。すると賢二は「ねえ　それってシロさん死ぬまで俺といっしょにいてくれるって事…？」と、乙女モードになりますが、そこはロマンチックを理解しない史朗。税金対策になるからと賢二と養子縁組をする提案までして、彼をもっと泣かせてしまうのでした……。

　そんなことがあった翌朝。史朗がキッチンに行くと、険しい顔の賢二がすでに「夏休み初日の素敵な朝食」を待ちかまえていました。プレッシャーをひしひしと感じながらも、史朗は「かぼちゃの冷製スープ」、「スイカのはちみつヨーグルトがけ」、そして賢二の大好きなアボカドを使った「アボカドツナチーズトースト」を作ってトースターに入れますが、その頃にはもうすっかり賢二はご機嫌も直って、いそいそとコーヒーを淹れていたのです。ふたりの夏休み初日の朝食は、笑顔で美味しくいただけたのでした。

　以前40代なかばの頃、史朗は料理仲間の佳代子さんに賢二を大切にする理由を、「はっきり言って、めんどくさい！！ 40も半ばのこの年で一から恋愛するなんて面倒くさくて、もう俺は嫌なんだ！！だからあいつとは絶対に別れたくないんです！！」と、告白していました。しかし、遺産の話をした時には、「たとえ、この先別れたとしても俺の人生で遺産を譲ろうなんて思う相手はお前ぐらいだと思うからさ」「お前がその時、別の人間と暮らしていてもそれでもいいんだよ」と心の中でつぶやいており、賢二への愛の形も変わっていることがよく分かります。

　今回紹介したように、史朗と賢二の間では、料理を通して仲直りしたり、相手を励ましたり、感謝を伝えたりということがあります。『劇場版　きのう何食べた？』で描かれる京都旅行のエピソードも、原作では後になって、実は史朗から賢二への謝罪旅行であったことが分かるのですが、映画ではどのように描かれているか楽しみですね。

（山田晃子）