『でんぢゃらすじーさん』は「コロコロ」のギャグを変えた 連載20年でキレッキレの笑い
マグミクス / 2021年10月31日 10時10分
■「コロコロ」の中で“培養”された『でんぢゃらすじーさん』というギャグ兵器
今年2021年、連載20周年を迎えたマンガ『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』(著:曽山一寿)は、 「月刊コロコロコミック」で2001年10月に連載開始して以来、小学生の心をわしづかみにし、すでに「コロコロ」を卒業しつつあった中学生たちをも舞い戻らせるほどの、強烈な引力を放っていました。
その革新性は当時の編集長をして「本当にぶったまげました。衝撃的だったね」と言わしめたほどでした。またフワちゃんを始め、今の20代の若手タレントからも圧倒的な支持を獲得しています。果たして『でんぢゃらすじーさん』は他のコロコロのギャグマンガと比べ、どのような点が革新的だったのでしょうか。
●決して「コロコロ」を“卒業”しなかった作者・曽山先生の情熱
その答えにたどり着くためにも、まずは作者・曽山先生のルーツをおさらいしていきましょう。曽山先生がマンガに目覚めたのは小学1年生の頃。コロコロコミックで現在も長期連載中の「スーパーマリオくん」などの沢田ユキオ先生のマンガに衝撃を受け、「コロコロコミックでマンガ家になる」と早くも決意します。
「マンガ家になる」というだけではなく、「コロコロコミックで」とこだわっているところに特異性を感じます。中学、高校と周囲が徐々に「週刊少年ジャンプ」へ移行するなか、曽山先生だけは「コロコロ」を読み続けました。その愛情はいつしか投稿熱へと転じ、(途中、ボンボンに浮気しかけましたが)2000年に見事『ぼくのおじいちゃん』で新人コミック大賞佳作に選ばれます。
まさに「コロコロ」の申し子だった曽山先生ですが、実は同時期に全く別の活動を開始していました。それは「児童向け劇団員」。北海道から沖縄まで、津々浦々の小学校で興行して周り、その合間に児童向けギャグマンガを執筆するという日々を送っていたのです。どうやら、この小学生向けの演劇で獲得した「肌感覚」、そして並々ならぬ「コロコロ」愛、さらには2000年前後のお笑いカルチャーが『でんぢゃらすじーさん』誕生に大きな影響を与えていたようです。
●「読ませるツッコミ」を「コロコロ」のギャグマンガに導入
「コロコロ」のギャグはなんといっても「絵」がメインです。それは今も昔も変わりません。「爆発」「うんこ(それに準ずるもの)」「殴られ飛ばされ星になる」「舌がぐるぐる飛び出しての絶叫」……もはや小学生たちにとっては原風景ともいえる「コロコロ」のギャグ要素はもちろん『でんぢゃらすじーさん』でも頻繁に登場します。
一方で、明らかに他の「コロコロ」ギャグマンガと違ったのは孫の鋭いツッコミの存在です。それは第1話から顕著で「まっ最中かよっっ!」「はえーけどおせーよ!」など、単なるリアクションではない「読ませるツッコミ」が冴えわたります。当時は、1999年からNHKの「爆笑オンエアバトル」が人気を博し、さらに2001年には「M-1グランプリ」が開始された時代でした。世間でも「ツッコミ」自体に価値が見出され始めたころでもあり、そのムーブメントがついにマンガに落とし込まれた、まさに待望のギャグマンガだったのです。
●読み手のテンポに合わせる 大胆すぎる絵の構成
さらに劇団員時代、生の舞台で小学生の反応を直に感じてきた経験も『でんぢゃらすじーさん』に大いに反映されているとみて良いでしょう。コマとコマの間を砕くかのようなハイテンションなギャグが続いた矢先にページ全てが「余白」になったり、謎のじーさんの飼い猫・ゲベに代表されるようにキャラが「顔面ドアップ」になったりと、この大胆すぎる緩急のつけ方は読み手のテンポと見事に合致しています。こういった構成・演出は、劇団員時代の経験で研ぎ澄まされた肌感覚によるものが大きいでしょう。
表紙でも勢いよくボケるギャグマンガ『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』(小学館)
●「コロコロ」愛が生み出したギャップの破壊力
「コロコロ」を愛し続けた曽山先生だからこそ、『でんぢゃらすじーさん』の絵柄は『スーパーマリオくん』、『つるピカハゲ丸』(著:のむらしんぼ)などの偉大なる先輩たちが築き上げた画風を踏襲しています。いかにも「コロコロ」らしい絵柄と、前述のソリッドなツッコミ、大胆な構成が見事なギャップを生み出しているのです。このギャップこそが、『でんぢゃらすじーさん』の革新性をもたらした最大の要因と言ってもいいかもしれません。
いまだ大人気の 『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』は20周年プロジェクトとして2021年8月にはYouTubeでアニメチャンネルが開設、マンガの傑作回やチャンネルオリジナルのエピソードも見ることができます。「コロコロ」のギャグマンガで育った曽山先生は、自分の分身たちである今の小学生たちを、まだまだ笑わせる気です。
(片野)
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