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アニメ『シャーマンキング』は「恐山ル・ヴォワール」編へ。製作陣の意気込みが凝縮

マグミクス / 2021年11月5日 8時10分

アニメ『シャーマンキング』は「恐山ル・ヴォワール」編へ。製作陣の意気込みが凝縮

■主人公・葉の価値観を決定づけた幼少期編

 2021年11月4日放送のTVアニメ『シャーマンキング』第30話からは、原作でも飛び抜けて人気の高いエピソード「恐山ル・ヴォワール」編が始まりました! 少年時代の麻倉葉がヒロイン・恐山アンナと出会う物語です。ヴォワール(Voir)はフランス語で「会う」、ル(re)が付くと「再会」「思い出す」といった意味になり、「恐山ル・ヴォワール」はこの場合「恐山を思い出す」といった翻訳ができますが、Voirには「花嫁のヴェール」という隠された意味もあるので、許嫁のアンナと出会う物語としてはぴったりのタイトルなのです!

 同エピソードのテーマは「たくさんのなかから大切なものを選ぶ時、諦めなければならないものもある」「大切なことは心で決める」ということです。葉は仲間の道 蓮(タオ・レン)を助けるために、自分に課せられた「シャーマンキングになる」という夢を諦めました。夢よりも友人を選んだわけです。そこに理屈があるわけではなく、蓮を助けたいと思ったから決めたのです。

 究極の選択をあっさり決断したことにマルコは驚いていましたが、葉にはすでにその経験があったからできたことで、その一番最初が恐山での出来事だった……という流れで物語は過去編へと進んで行くのでした。

 ここで初登場するのが、ひと足先にエンディングに登場していた「ねこまたのマタムネ」です。「ねこまた」とは猫が長い間生きて妖怪化した存在で、「猫又」と書きます。ですから尻尾が2本あるのですね。マタムネは霊なので妖怪ではありませんが、1000年も存在していたとのこと。……ちなみに、この「1000年」という数字はぜひ覚えておいてください。

 彼は読書好きなだけでなく文学的な表現を好むようで、「世界の股旅から戻った」というシャレの効いたことをサラッと言ったりします。「股旅」とは芸者などが日本全国を回って旅をすること、そして猫はマタタビという植物が好きですよね? まさしくマタムネを表現するのにぴったりの言葉です。

 作者の武井宏之先生はこういう言葉遊びや内容とのマッチングが実に上手く、マタムネの存在はその真骨頂のひとつと言えるでしょう。30話のなかでマタムネは時々、詩を詠み上げています。それもまた、冬の北国の寂しさや葉の心の内が表現されていて、「ル・ヴォワール」編が恐らく切ない物語になるであろうということを伝えてくれています。この詩は今後も随所で詠まれますのでお楽しみに!

■アニメ版「ル・ヴォワール編」に込められた製作陣の意思

「恐山ル・ヴォワール」編で、葉とマタムネは夜行列車で青森を目指す

 さて「恐山ル・ヴォワール」編は、前回のテレビアニメ化の際は映像になっておらず、ドラマCDのみが存在します。そのため今作は原作を全て描くと明言されても、ここがどうなるのかと気にしていたファンもいたでしょう。確かに原作の「ル・ヴォワール」編はプロローグを入れると全16回の長さですし、番外編でもあります。しかし実際にはこうしてしっかり描かれているのみならず、できるだけ劇中と現実世界の時期を合わせて放映されています。なんと心憎い演出でしょうか!

 このことから見えてくるのは、今回のアニメは最初から「恐山ル・ヴォワール」編をこの時期に放送する前提で組み立てられていたということです。放映開始時期から計算すれば、およそここで30話が放映されることはわかっています。それを「ル・ヴォワール」編の初回に設定し、ずらすことのできない重要ポイントとして位置づけた上で周りを固めていった……そう考えられるのです。OP・EDがいつ何回変わるかも最初から決まっていますし、そのうちの1回を「ル・ヴォワール」編に特化したことも含めて考えれば、いかに製作陣がここを大事に考えていたかがわかります。

 それというのも、実は10年以上前、あるファンの手によってマタムネの詩に曲と歌を付けた映像が、動画サイトに投稿されました。それは多くの視聴数を記録し、公式にも認められ、後にアンナ役の林原めぐみさんご本人が歌うという、まさにファンから生まれファンが育てた夢のような事例があったのです。夢はそれで終わらず、現在各地で開催されている「シャーマンキング展」ではその曲が流れ、CDも発売されています。ファンの生み出したコンテンツが、今では作品の一翼を担うほどのものになっているのです。

「恐山ル・ヴォワール」編は、このように人気の象徴とも言えるエピソードですから、新しいファンの獲得を願うなら疎(おろそ)かにするはずがありません。それはおまじないであり、意思表明なんですね。「ル・ヴォワール」編の放送は今後数回続きますが、さまざまな人の想いが込められたものなので、じっくり味わって楽しんでいただきたいと思います!

 なおこの連載では、「恐山ル・ヴォワール」編の舞台となった青森市~恐山を取材したレポートを2020年末に掲載しています(第19回~22回)。こちらもあわせてぜひご覧いただければと思います。

 それでは今回はこの辺で。また次回よろしくお願いします!

(C)武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京

●タシロハヤト 
美少女ゲームブランド「age(アージュ)」の創立メンバーで、長らくシナリオ、演出、監督等を務める。代表作は「君が望む永遠」シリーズ、「マブラヴ」シリーズ。現在はフリーで活動中。『シャーマンキング』の作者、武井宏之氏と旧知の関係である縁から、同作の20周年企画に参加している。

(タシロハヤト)

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