アニメ『カービィ』の狂気エピソード3選。今じゃ放送不可？な「やりたい放題回」

■「ポヨォ」　かわいさに騙されてはいけない、攻めすぎな姿勢

　21世紀のはじめ、かなり攻めた内容のアニメが土曜の朝から放送されていました。その作品は、アニメ版『星のカービィ』です。TBS系列にて2001年10月から放送開始されると、土曜の7：30～8：00という朝早い時間帯での放送ながら高視聴率を記録し、多くの小学生たちを夢中にさせました。2002年に学校週5日制が導入される以前、2週に一度は土曜に学校があった時代にも関わらずです。

　いったい何がそこまで彼らを夢中にさせたのでしょうか。現在、『星のカービィ』が語られる際、「尖った」「狂気」「和製『シンプソンズ』（もしくは『サウスパーク』）」といったワードがよく用いられていることは要注目です。そう、このアニメは小学生向けとは到底思えない攻めた「大人の笑い」を提供してくれていたのです。しかも、脚本は毎回原案者の桜井政博さん本人によってチェックされていたのですから驚きです。

　この記事では、2021年に放送20周年を迎えたアニメ『星のカービィ』より、人気の高いエピソードを選出。ファンの間でも人気の高い「やりたい放題回」を振り返ります。

●これがアニメ業界……？　第49話「アニメ新番組・星のデデデ」

　日本のアニメ業界の過酷な労働環境が問題視されて久しいですが、その問題をいち早く取り上げたのが『星のカービィ』です。あるとき「アニメ」でひと儲けを企んだデデデ大王（CV：緒方賢一）でしたが、スケジュールは遅れに遅れ、このままでは放送日まで間に合わない状況に……。焦ったデデデはアニメーターたち（村人）に不眠不休で働くように命じ、アフレコはぶっつけ本番というむちゃくちゃな体制でアニメを完成させようとするのです。

　この徹底的に現実を戯画化した「メタっぷり」も見事ですが、デデデ大王の腹心エスカルゴン（CV：龍田直樹）のセリフもまた凄まじいものでした。「アニメ作りに参加したいものは格別に安いギャラで使ってやるでゲス」「才能はないけど根気だけはあるモノ好きは、くさるほどいるでゲス」……などなど、今思えば現場スタッフの実体験に基づいた言葉にしか聞こえない暴言を小学生たちに投げかけていたのです。（ちなみに実際の『星のカービィ』の現場で、1話あたりの製作日数は2～3か月だったそう）。

●完全に人身売買……第72話「ワドルディ売ります」

　このエピソードでは、例のごとく金策に困ったデデデ大王が城のなかで大量のワドルディを自販機に入れて販売するというアイデアを思いつきます。なるほど、自販機に並ぶワドルディたちはとにかく可愛らしく、思わず欲しくなってしまいます。

　実際、ワドルディは働き者で、村の経済はワドルディ景気で活性化しました。良いことづくしのように思えるのですが、これに対しヒロインのフーム（CV：吉田小百合）は村の人びとの正気を疑います。たしかに、いくらワドルディが従順だからといって、これは「人身売買」以外の何ものでもありません。うっかり羨ましいと思ってしまった自分の胸ぐらをつかまれたような、そんな子どもたちの反省を促すエピソードでした。

　なおワドルディに関するエピソードは、第92話「ワドルディの食文化大革命」という、文化大革命を下地にした社会派な回まで存在しています。登場する魔獣の名前もモウ・タクサンと、極限までギリギリのラインを攻めた回でした。

●いま配信がないのも納得？……第89話「オタアニメ！星のフームたん」

　いつにも増して小学生たちを困惑させたのが、このエピソード。今なお語り継がれる「狂気」回です。前述の49話の失敗を受けてデデデ大王が再びアニメ製作に乗り出すのですが、ここからが怒涛の狂気展開。

　まず、スタッフとして招集した「オタキング」たちがフームを主役にした萌えアニメを勝手に製作したのちにストーカー行為をはたらき、逮捕されます。さらに、再び行われたアニメ企画会議では明らかに『新世紀エヴァンゲリオン』や『機動戦士ガンダム』『とっとこハム太郎』のパロディと思われるアイデアが飛び出し、最終的にはウォルト・ディズニー風のキャラまで登場。「大人の事情」にどこまで踏み込めるのか……まるでスタッフたちがそのスリルを楽しんでいるかのような攻めたギャグが楽しめる伝説回と言えるでしょう。

　2021年現在、アニメ『星のカービィ』を配信している動画配信サービスはありません。20周年を機にぜひとも解禁して欲しいところではありますが、ここまで紹介してきた通り解禁を妨げるであろう事情がてんこ盛りなのも事実。果たしてこのまま本当に伝説となってしまうのか……だったらファンが語り継がねばなりません。みなさんがアニメ『星のカービィ』でもう一度見たい回はどれですか？

（片野）