今じゃアウト?初期ウルトラ防衛隊長のスパルタぶり 「ジープで突っ込むからかわせ!」
マグミクス / 2021年11月6日 9時10分
![今じゃアウト?初期ウルトラ防衛隊長のスパルタぶり 「ジープで突っ込むからかわせ!」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_66412_0-small.jpg)
■全ては地球を護るため…防衛チームの上司として理想的なのは昭和?令和?
さまざまなハラスメントが世間で問題となっている昨今。かつて日本経済を支えたハードな体育会系のノリは、時代遅れとなりつつあるようです。特撮界でも、初期ウルトラシリーズの防衛組織の体質は今見ると「問題だらけ」。作品としてはどれも特撮最高峰の初期ウルトラシリーズですが、劇中の防衛組織をリアルな「職場」として見たとき、隊長たちのあまりのスパルタ(パワハラ)ぶりに、時代の変化を感じてしまいます。今回は、初期ウルトラシリーズである意味際立つ「スパルタ」「パワハラ」名シーンを振り返ります。
●『ウルトラセブン』のキリヤマ隊長は理想と狂気の中間管理職
『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊キリヤマ隊長といえば、人情を大事にしながらも基本的には厳格で時に冷徹な判断を下す軍人気質の男。それゆえに、折に触れ部下に驚くような命令を与えることもあります。例えば第28話 「700キロを突っ走れ!」を見てみましょう。
キリヤマ隊長から高性能爆弾を宇宙人に狙われないよう、ラリーに紛れて運ぶ命令を受けたアマギ隊員とモロボシ・ダン。途中、アマギ隊員が爆発物にトラウマを抱えていることが判明します。隊長はそれをわかった上でアマギ隊員に任せていたのです。さらに、車には時限爆弾が仕掛けられていることが発覚。すでに精神的疲労が頂点に達しているアマギ隊員に対し、キリヤマ隊長は無情にも「お前がやれ」と爆弾解除を命じるのです。
今の価値観からすれば「いやいや」となるところですが、さすがはウルトラ警備隊。アマギ隊員は無事、トラウマを乗り越え爆弾解除に成功するのでした。部下の将来を思ってのある種のショック療法であったことは間違いありませんが、それにしてもキリヤマ隊長の軍人然としたスパルタぶりには驚かされます。
また第42話「ノンマルトの使者」における「我々の勝利だ!海底も我々人間のものだ!」というセリフからも分かる通り、時に人間以外の知的生命体に一切容赦のない一面も見せるのがキリヤマ隊長。これはザンパ星人の殲滅作戦を嬉々と語る場面(第35話「月世界の戦慄」)でも感じ取れ、一緒に働く部下としてはなかなかスリリングな一面を持つ人物でもあります。
こう書くとキリヤマ隊長が堅物で無慈悲な上司に思われてしまいそうですが、決してそればかりの人ではありません。わざわざ休暇届を出して単身で宇宙人調査に乗り出したり、逆に入隊してきたばかりのダンの提案を素直に受け入れたりと、地球防衛という自らの責務を全うするためなら、手段を問わない柔軟さもあります。また、ウルトラ警備隊はあくまでも地球防衛軍極東支部の部隊なので、キリヤマ隊長が頭の上がらない上司もたくさんいます。彼は地球を護る中間管理職でもあるのです。
こうしたキリヤマ隊長の姿勢はビジネスパーソンの心にも刺さることとなり、のちに『ウルトラ警備隊 キリヤマ隊長に学ぶリーダーシップ』(著:大崎悌造)という書籍まで刊行されるに至ります。
●キリヤマ隊長を超えるスパルタ…モロボシ・ダンによる「ジープ特訓」
ウルトラシリーズを代表するスパルタシーンが出てくるのが『ウルトラマンレオ』です。獅子座L77星からきたウルトラマンレオ(おおとりゲン)は防衛組織『MAC』に入隊。その隊長こそ、かつてキリヤマ隊長に鍛え上げられたウルトラセブンことモロボシ・ダンなのです。
『ウルトラマンレオ』が放送された74年はスポ根、そしてカンフーブームの真っただなかでした。こうして、宇宙人による宇宙人への超スパルタ猛特訓が幕を明けます。その最たる例が第6話「男だ!燃えろ!」での一幕。自分に突っ込んでくるジープをジャンプでかわせ、という常軌を逸したスパルタ特訓が敢行されるのです。それ以前に、ダンは当たり前のように松葉杖でゲンを打擲していますが。いくら相手が地球人ではないとはいえ、ダンの厳しさは『ウルトラセブン』のどこか朴訥としたイメージから大きくかけ離れていました。
ちなみにこのシーンの撮影は、なんとスタントなしで行われ、本当にジープを飛び越えるアクションが行われていました。ゲン役の真夏竜さんは、のちに「脚にバンパーが当たっていた」と語っています。
●ビートルで傘を届けさせる…ムラマツキャップのごきげんな職権濫用
オマケに『ウルトラマン』第34話「空の贈り物」をご紹介。実相寺昭雄監督による本エピソードの冒頭は非常に人気の高いシーンです。傘を忘れた科学特捜隊・ムラマツキャップが、ハヤタ隊員に自分の喫茶店までわざわざビートルで傘を届けさせるのです。ハヤタ隊員もなぜか楽しげなのでハラスメント扱いは難しいかもしれませんが、何にせよムラマツキャップのごきげんな職権濫用が楽しめる場面でもあります。
そして令和の現在。ウルトラシリーズも時代に合わせ変遷してきました。防衛組織のあり方もまた然りで、トップダウン形式より個人の能力を尊重した采配が増えてきています。
2021年放送の『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』第8話「繁殖する侵略」が象徴的です。本拠地であるナースデッセイ号にダダ(PDO-3A)が侵入しているというのに、タツミ隊長は不気味なくらい動きません。その後、結果として「一番おいしいところ」を持っていくことになるのですが、そこに至るまでの戦闘を全て隊員たちに任せているところを見ると、その部下への信頼度の高さと器の大きさが伺えます。ウルトラシリーズにおける「働き方改革」は、どこまでもカッコよく進んでいるのです。
(片野)
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