『エヴァンゲリオン』赤木リツコの誕生日 放送当時に見た、キャラ設定の衝撃

■キャラ設定にまつわる、庵野監督の並外れたセンス

　11月21日は『エヴァンゲリオン』（以下、エヴァ）に登場する赤木リツコの誕生日です。『エヴァ』の主要キャラクターは担当する声優の誕生日がそのまま使われているため、山口由里子さんも同日に誕生日を迎えています。おめでとうございます！

　赤木リツコというキャラクターを思い返すと、最初にキャラクター設定を見たときの衝撃を思い出します。そう、年齢が30歳と記されていたのです。当時、アニメに登場する女性キャラクターと言えば10代の少女が中心で、ある程度歳をとったキャラクターとなると、母親や老婆などのサブキャラクターくらいしかいないのが当たり前でした。

　そのような状況下で赤木リツコを30歳と設定した庵野監督はやはり並のセンスではありません。29歳の葛城ミサトも合わせ、ふたりの妙齢の女性を主要キャラとして設定したことは、『エヴァ』の世界に大人の世界の生々しさを加える結果となり、作品に一層の深みを与えたように思えます。さらにリツコはコーヒーを好み、ヘビースモーカーでもありました。どちらもかつてはハードボイルド作品のキャラクターが好むとされていたもので、特にタバコは男性のアイコンとして使われていたものです。たまにタバコを吸う女性が出てきても、悪役側とほぼ決まっていた時代に、リツコをヘビースモーカーとして設定したことは、『エヴァ』の世界は善や悪のような単純な割り切りで動くものではないと示していたように思えます。

　さて、作中でのリツコですが、ネルフ技術開発部技術第一課所属に所属する科学者であり、人造人間エヴァンゲリオンの開発や第七世代有機コンピュータMAGIの管理運営などを主に担当しています。使徒が襲来した際には、特性の分析を行い、対処法を考案する極めて重要なポジションを務める人材であることを随所で示しました。特に第拾参話「使徒、侵入」ではネルフ本部に侵入しMAGIをハッキングした第11使徒イロウルに対し、助手の伊吹マヤと共に自滅促進プログラムを投与し自壊に追い込み、生身の人間による使徒の撃破という偉業を成し遂げています。

■徐々に明かされていった秘められた姿

赤木リツコの友人、葛城ミサトと加持リョウジが描かれる　原作：カラー、マンガ：貞本義行『新世紀エヴァンゲリオン』第7巻（KADOKAWA）

　ストーリーの序盤、リツコは大学時代からの友人であるミサトがシンジと一緒に暮らすことに呆れたり、友人の結婚式に出て独身のわが身を顧みてへこんだり、加地リョウジに口説かれても軽くいなすなど、単なる妙齢の女性としての姿も見せていました。

　しかし、物語が進んで世界の解像度が上がるにつれて、彼女が周囲に見せていなかった姿が徐々に明らかになっていきます。

　ことに当時の視聴者を驚かせたのは、碇ゲンドウの愛人だったことでしょう。主要キャラクター同士を愛人関係に設定したことは日本アニメの歴史のなかでも、エポックメーキング的な出来事でもありました。また、第弐拾参話でゼーレに召喚され、全裸にされた上で尋問された際に自分が綾波レイの代わりに差し出されたと知り、その後セントラルドグマ内部に存在する大量の綾波レイの肉体を破壊するなど、綾波を憎悪していたことも示されました。　

　なお、新劇場版でのリツコはゲンドウとの愛人関係は描写されておらず、綾波との関係性にも特に問題を抱えてはいない模様です。『Q』以降は反NERV組織WILLE（ヴィレ）の戦艦「AAA ヴンダー」の副長を務め、『シン』では冒頭のコア化したパリを元に戻す作戦の指揮を執っています。ゲンドウとの遭遇時にはためらいなく銃を取って目的達成のためには容赦ないところを見せるなど、頼りになる優秀な人物としての描写が中心となっていました。

　ここまで色々と書いてきましたが、リツコの最も特異な点は、主人公のシンジとあまり接点を持っていないことであるように思えます。通常、作品とは主人公を中心に描かれるものです。しかしリツコは基本的にシンジにそれほど興味を示すことも関わりを持つこともありませんでした。明確な理由は明かされてはいませんが、TV版においてはゲンドウの妻であったユイの面影を色濃く残していることが関係しているのでしょう。主要人物であるにも関わらず、主人公とは離れた場所で独自の存在感をかもし出すのは非常に難しいことです。庵野監督により生み出されたリツコが、ひとりのキャラクターとして見事に造形されていた証と言えるのではないでしょうか。　

（早川清一朗）