孤高すぎた特撮ヒーロー『シルバー仮面』 視聴者を驚愕させた11話の「路線変更」とは
マグミクス / 2021年11月28日 7時10分
■時代を先取りしすぎた変身ヒーロー
日曜日の夜7時から7時30分のTBS系列の放送枠は、かつて「タケダアワー」と呼ばれていました。武田薬品工業(現・アリナミン製薬)が提供する「タケダアワー」では、円谷プロ制作の『ウルトラマン』(1966年~1967年)や『ウルトラセブン』(1967年~1968年)が放映され、大変な人気を集めました。
数々の特撮ヒーローを生み出した「タケダアワー」ですが、宣弘社が制作した『シルバー仮面』(1971年~1972年)は視聴率以上に当時の視聴者に強烈な印象を残した作品でした。侵略宇宙人と戦うシルバー仮面をはじめとする主人公たち5人兄妹が、一般市民からは嫌われているという設定だったのです。特撮ドラマ=子供向け番組という概念を打ち破る、超シリアスなストーリーでした。
メイン監督を務めたのは実相寺昭雄監督。『ウルトラマン』の第23話「故郷は地球」や、『ウルトラセブン』の第8話「狙われた街」などを手掛けた鬼才演出家です。実相寺監督が撮った『シルバー仮面』の第1話「ふるさとは地球」が放映されたのは、1971年11月28日でした。放送開始から50年の機会に、時代を先取りし過ぎた孤高のヒーロー『シルバー仮面』を振り返ります。
■実相寺監督のこだわりが強く出た第1話と第2話
円谷プロの創業者・円谷英二氏は1969年に体調を崩し、1970年に死去。赤字経営が続いていた円谷プロでは経営の合理化が進められ、多くの社員スタッフがリストラされました。TBSから出向していた実相寺監督も、このときに円谷プロを離れています。
そんな時期に宣弘社が制作した特撮ドラマ『シルバー仮面』には、実相寺監督のほか、『ウルトラセブン』の美術デザインを務めた池谷仙克氏、脚本家の佐々木守氏ら、そうそうたるスタッフが集まりました。
物語の主人公となるのは、春日兄妹です。光子ロケットを開発した父・春日博士はチグリス星人に殺害され、体のどこかにロケットエンジンの設計図が隠された5人兄妹の逃亡生活が始まります。次男・光二(柴俊夫)は等身大のヒーロー・シルバー仮面に変身して戦うのですが、実相寺監督ならではの極端なクローズアップや逆光を多用した独特な映像の印象が強く、ヒーローものらしい爽快感は第1話からは感じられません。
第2話「地球人は宇宙の敵」では、宇宙人との戦いに巻き込まれることを嫌う一般市民から、春日兄妹は迫害されることになります。侵略宇宙人と命がけで戦っているにもかかわらず、平和に暮らす人びとからは鼻つまみ者扱いされてしまうという孤高すぎるヒーローでした。
人気アニメ『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)で知られる富野由悠季監督も『無敵超人ザンボット3』(テレビ朝日系)で、一般市民から嫌われる主人公一家を描いています。1977年に放映された『ザンボット3』も先鋭的な作品でしたが、『シルバー仮面』はその6年前に、しかも日曜日の夜7時というゴールデンタイムで非常にヘビーなテーマに挑んでいたのです。
■第11話から『シルバー仮面ジャイアント』にタイトル変更
11話からの番組タイトル変更は衝撃的。画像は『シルバー仮面ジャイアント』DVD(デジタルウルトラプロジェクト)
円谷プロでは作れなかった新しい特撮ドラマにしようという意欲があふれていた『シルバー仮面』は、第1話こそ視聴率14.6%を記録したものの、以降は低迷することになります。第2週(12月5日)から、裏番組として円谷プロ制作の『ミラーマン』(フジテレビ系)の放送が始まったことが大きく影響したのです。円谷プロの旧スタッフと新しいスタッフが同じ曜日の同じ時間枠で競い合うという、特撮ドラマ界の「仁義なき戦い」が繰り広げられました。
特撮ヒーローものの王道的内容となっていた『ミラーマン』に、『シルバー仮面』は視聴率戦争において苦戦を強いられます。多くの子供たちは、ミラーマンと怪獣たちとの戦いに夢中になりました。必殺技「ミラーナイフ」で怪獣をあっさり倒すミラーマンのほうが、かっこよく思えたのです。
事件が起きたのは、1972年2月6日に放映された第11話「ジャンボ星人対ジャイアント仮面」でした。番組タイトルも『シルバー仮面』から『シルバー仮面ジャイアント』に変わっていました。それまでは等身大のヒーローだったシルバー仮面が、この回からいきなり巨大化して巨大怪獣と戦うようになったのです。それまではなかった必殺技も、次々と繰り出すようになりました。
スーパーヒーローの突然の変わりように、『シルバー仮面』を熱心に応援していた少数派のファンは驚いたのではないでしょうか。この路線変更は当然ながら、スタッフも複雑な思いで受け止めていたようです。メイン監督だった実相寺監督は視聴率が低迷したことから、第2話を最後に降板を余儀なくされていました。脚本家の市川森一氏は『シルバー仮面』全26話のうち8話分のシナリオを提供していましたが、初期シナリオ集『夢回路』に収録されたインタビューで、こう振り返っています。
「大人の鑑賞にも耐える作品を作りたいという意欲に燃えていたんです。しかしそれは挫折しましたね。途中からシルバー仮面が巨大化し、さすらいの設定がなくなった時は屈辱的でした。」
■大正時代を舞台にしたリベンジ作『シルバー假面』
実相寺監督本人がリメイクした『シルバー假面』(C)2006 NBCユニバーサル・エンターテイメント/宣弘企画
実相寺監督はその後、劇場映画『帝都物語』(1988年)を大ヒットさせ、自らも「失敗作」と認めた『シルバー仮面』のリベンジに挑みます。リメイク作『シルバー假面』(2006年)の原案・総監修・第1話の監督を務めたのです。
オリジナル版『シルバー仮面』とは異なり、『シルバー假面』は大正時代が舞台。文豪・森鴎外とドイツ人の母親との間に生まれた女性・ザビーネ(内田仁菜)が銀色の甲冑を着た超人に変身し、マッドサイエンティストのカリガリ博士(石橋蓮司)と戦うという三話構成の異色作でした。ザビーネが亡くなった母親の幻影と列車内で遭遇する第2話は、ホロリとさせるものがあります。人気アニメ『鬼滅の刃』が好きな方が観ても楽しめるダークファンタジーではないでしょうか。
2006年11月29日に亡くなった実相寺監督にとって、同年12月に劇場公開された『シルバー假面』は遺作となりました。特撮ドラマや映画だけでなく、オペラ、クラシック音楽、路面電車、けろけろけろっぴ、ピンクチラシなど、多種多様なものに愛情を注いた69歳の生涯でした。
ヒーローは必ずしも、常に人気者とは限りません。大衆から支持されなくとも、自分が信じる道を突き進むこともあるのではないでしょうか。ヒーローとは孤高の存在であるということを、『シルバー仮面』は教えてくれたように思います。
(長野辰次)
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