「弱肉強食」の意味とは? アニメ『シャーマンキング』第35話、ホロホロが見出した真実
マグミクス / 2021年12月9日 18時30分
■数字が低いから「自分は弱い」と思うのは間違い?
2021年12月9日(木)放送のTVアニメ『シャーマンキング』第35話。今回は怒濤の展開でした! 父の言動から気づきを得たホロホロの戦い、ついに登場した「ガンダーラ」、チョコラブとルドセブたちとの因縁……実に盛りだくさんです。それではまず34話から続いたホロホロの戦いから振り返ってみましょう。
このエピソードを理解するためには、「巫力(ふりょく)と霊力」の違いを知る必要があります。巫力とは「シャーマンが持つ霊能力」のこと、霊力とは「持霊自身の力」です。これが巫力を超えているとシャーマンはその霊を扱えません。無理をすると最悪の場合、精神が崩壊して死に至ります。わかりやすいですね。しかしこれは別の見方をすることができます。
まず霊力の合計が巫力以下なら、持霊を何体も同時に扱えます。麻倉葉の祖父・葉明やファウストVIII世などがそれを示しています。次に、どんなに巫力が高くても持霊の霊力が低いこともある、ということです。これが今回のポイントです! ホロホロの父・リカンの巫力はビッグガイ・ビルより少ないのに、彼の持霊・ゴロロはビルの持霊を打ち破りました。「ゴロロの霊力がビルの持霊たちより高かった」からです。
シャーマンの巫力を知ると、勝手に持霊の霊力も同じだろうと思い込んでしまいますが、シャーマンの巫力1000、持霊の霊力400の相手には、巫力500、霊力500のシャーマンが勝てます。巫力の数値化にこだわることの愚かさ、罠がここに潜んでいたというわけです。
そしてホロホロは同時に「弱肉強食」の意味にも気付きました。例えば数学50点と英語100点ではどちらが「学生として」優秀でしょう? 答えは「わかりません」。ふたつは比べられないからです。しかし50点は劣っていると思う人がいるかもしれませんね。これも数字の恐ろしさです。
シャーマンも同じで、巫力はひとつの要素に過ぎません。それで全てが決まるわけではないのです。なのにホロホロは、自分の巫力が低いから「シャーマンとして」弱いと勝手に決めつけ、「弱肉強食」と言って諦めていました。リカンの言葉でやっとその間違いに気付き、自分が得意とする氷の世界での勝負に出たのです。
ブロッケンはこれを理解できず屁理屈だと言いましたが、皆さんはどう思いますか? 筆者はクリエイターである武井先生らしい考え方だと、凄く納得しています。
■ガンダーラの登場とチョコラブへの復讐は対比構造だった?
竜の窮地を救ったガンダーラの登場シーン。TVアニメ『シャーマンキング』35話より (C)武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京
さてその後、葉たちがいた廃ホテルを急襲したペヨーテたちですが、それに立ち向かったのが木刀の竜でした。しかしターバインの持霊・ジンによって窮地に立たされます。そして絶体絶命となり臨死体験をしているところに現れたのが、第三勢力・ガンダーラです。実にインパクトのある登場でした! 仏教絵画に描かれるような優雅な導入から、巨大な大仏がいきなりグランデファンタスマをぶん殴っていたわけですからね!
今回はまだ顔見せに過ぎませんが、彼らのインパクトは絶大です。姫と呼ばれた女性もそれを取り囲む者たちも、X-LAWSとは違いスピリチュアルな雰囲気を漂わせています。もともとシャーマンとはそういう存在ですが、これまで人間くさいキャラが大勢描かれてきたのでギャップを感じますね。
もちろんガンダーラは今後、重要な存在として葉たちに深く関わってきます。またバックボーンを紐解くと別の武井作品との関わりも見えてきますので、このあたりは追々取り上げていきたいと思います。
次にそこから場面が変わって描かれるのは、一転して重苦しい状況です。シャフト時代のチョコラブが仲間たちと行っていた犯罪のひとつ……クリスマスの夜にチョコラブが銃を向けた男性は、実はルドセブとセイラームの父親だったのです。セイラームがなぜ今のような娘になってしまったかといえば、帰りの遅い父親を探しに出て絶命した彼を発見してしまったからでした。この話の決着は次回以降に持ち越しとなりますが、これもまた避けては通れない出来事で、今後に続く重要な要素となります。
ところでここからは少し深読みになりますが……。そもそもの物語構成として、なぜガンダーラの登場とチョコラブへの復讐劇が並行して描かれているのでしょうか? 筆者が思うに、これは「死から生」に至る物語と「生から死」へ至る物語の対比ではないでしょうか?
アニメでは省略されていますが、原作では竜の怪我はガンダーラによって治療されたらしいことが描かれています。つまり竜は死にかけた状態から復活を遂げたのです。一方チョコラブは、ルドセブによってこれから殺されようとしています。作品の性質上「生と死」は根底に流れる要素です。避けては通れないふたつのエピソードを強く印象づけて描くには、こうした描き方が必要だったのではないか……そう思うのです。
ところで、12月8日からリリースされたスマホゲーム『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』はもうプレイされましたか? 年末年始にオリジナルキャラも登場する「もうひとつの物語」を、存分に楽しみたいですね!
それでは今回はこの辺で。また次回よろしくお願いします!
●タシロハヤト
美少女ゲームブランド「age(アージュ)」の創立メンバーで、長らくシナリオ、演出、監督等を務める。代表作は「君が望む永遠」シリーズ、「マブラヴ」シリーズ。現在はフリーで活動中。『シャーマンキング』の作者、武井宏之氏と旧知の関係である縁から、同作の20周年企画に参加している。
(タシロハヤト)
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