特撮『サンダーマスク』はもう見られない? 高視聴率なのに「封印」された残念すぎる理由
マグミクス / 2021年12月17日 17時10分
■等身大から巨大化!2段変身だ!サンダーマスク!
第2次怪獣ブーム時代、視聴率15%をマークした人気特撮ヒーロー番組『サンダーマスク』(1972~73年 全26回)は、1994年に中京テレビで数話だけ再放送されて以来、地上波、衛星放送、ケーブルテレビでも放送されていません。ビデオ、DVD、Blu-rayなどのソフトも一切なし。なぜ全てお蔵入りになってしまったのでしょうか。ファンの間では有名かもしれませんが、改めてその経緯をひも解いてみましょう。
『サンダーマスク』のストーリーは、地球侵略をたくらむ魔人デカンダが繰り出す魔獣に、1万年の眠りから目覚めたサンダー星の勇者サンダーマスクが立ち向かう、というもの。人の姿をした命光一がサンダーマスクに変身! 最初は等身大、その後巨大化して魔獣と戦うという展開が定番でした。
制作の経緯も説明しますと、1973年11月に手塚治虫のアニメ制作会社「虫プロダクション」が倒産、その後スタッフの数人が「ひろみプロ」を立ち上げます。そこで「手塚治虫先生によるウルトラマンのような実写ヒーローを作ろう」という企画が持ち上がり、当時は中堅の広告代理店でのちに『機動戦士ガンダム』が大ヒットする「東洋エージェンシー(現・創通)」と共同制作という形で特撮版『サンダーマスク』がスタート。その際、ひろみプロから手塚治虫氏にコミカライズをお願いした経緯で「少年サンデー」での連載も始まり、同時進行の相乗効果でテレビ視聴率も好調でした。
特撮ヒーロー群雄割拠のなか、『サンダーマスク』は人気番組となりますが、実は1本の制作費が300万円と少なかったため債務超過に苦しむようになり、(『ウルトラマンA』などは1本500万円)半年間の放送で26話で終了となります。
しかし、権利をめぐるゴタゴタが起きたのは放送終了から数年後でした。まず東洋側が「制作費を払ったのはこちらだ」などと主張して、ひろみプロにあったマスターフィルムを持って行ってしまいます。ひろみプロは、「権利は両社にあり、そんな契約はしていない」と抗議したようですが、フィルムは東洋エージェンシーが保管することになりました。
ただ、ひろみプロはもちろん、キャラのデザイナーなど、『サンダーマスク』の制作に携わった関連会社はたくさんあるので権利関係はかなり細かく複雑だったようです。しかし昭和から平成初期あたりまではこういった権利関係の処理はいい加減だったケースも多く、あまり深く捉えず番組は再放送されていました。
ところが、平成中期くらいに衛星放送、ケーブルテレビなど放映チャンネルが増加すると、サンダーマスクの再放送はピタリとなくなります。
■衛星放送で業界に変化
番組と同時進行で描かれた手塚治虫のコミカライズ版『サンダーマスク』(秋田書店)
気になるのは再放送がなくなった理由です。あくまで推測ですが、おそらく衛星放送が活発化し放送法も新しく改正されていく流れで、権利関係の状況も変わってきたからではないでしょうか。「サンダーマスクの映像を今までのように衛星放送でも使用すると、新しい権利を主張してくる関係者が出てくるかもしれない」、「ひとたび裁判に発展すれば凄く面倒」、だったら封印してしまうのが得策だと考えるのも、放送する側としては妥当です。
再放送だけでなく、DVDのソフト化について問い合わせても、東洋エージェンシーは、「マスターフィルムの状態が悪い」「ネガならある」などと発言が二転三転し、ついには「全て紛失した」と説明を行いました。これが本当なら、『サンダーマスク』のソフト化はもうありえません。
と聞くと東洋エージェンシーの印象が悪くなりそうですが、ひろみプロの借金の肩代わりをするなど、かなり大変な目にも遭ったという話もあり、放送終了後から長い年月を経て、今さら分散した権利関係の問題が再燃するようなトラブルはこりごりだという気持ちなのかも知れません。
■『サンダーマスク』自体にも問題エピソードが…
ちなみに、仮に『サンダーマスク』がソフト化できたとしても、お蔵入りになるかもしれないエピソードが少なくともふたつあると言われています。
ひとつは第19話「サンダーマスク発狂」。当時、若者の間で問題となっていたシンナー中毒を取り上げた内容で、脳波魔獣シンナーマンがシンナー中毒者の脳をストローで吸い、主人公がシンナー中毒になってクレイジー化し暴れるという、今となっては完全アウトな内容です。
もうひとつは第21話「死の灰でくたばれ!」。体内に原子炉を内蔵した放射能魔獣ゲンシロンが、放射能入りの牛乳を人びとに飲ませるという危険すぎる内容で、こちらもお蔵入りの可能性大です。
『サンダーマスク』ではほかにも攻めに攻めた内容が多く、パンチの効いた特撮作品でした。いつか見られることを願っていますが、現時点ではそうした可能性が見いだせない状況です。
(石原久稔)
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