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『東京ゴッドファーザーズ』BSで放映 今敏監督はコロナ不況を予見していた?

マグミクス / 2021年12月18日 8時50分

『東京ゴッドファーザーズ』BSで放映 今敏監督はコロナ不況を予見していた?

■今敏監督と信本敬子さんとの共同脚本作

 クリスマスシーズンにぴったりの劇場アニメがTV放映されます。夢の世界を舞台にした『パプリカ』(2006年)などで世界的に知られる今敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)です。2021年12月19日(日)の19時から、BS12の「日曜アニメ」の枠でオンエアされます。また、名作を映画館で観るプロジェクト「プレチケ」(主催:フィルマークス)では、12月24日(土)に東京、大阪、名古屋で一夜限りの特別上映を企画しています。

 劇場デビュー作『パーフェクトブルー』(1997年)をはじめ、今敏監督の作品は現実と虚構が入り乱れる多重構造の物語で、多くのファンを魅了してきました。『パーフェクトブルー』はダーレン・アロノフスキー監督の『ブラック・スワン』(2010年)に、『パプリカ』はクリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010年)に影響を与えたと言われています。Netflixドラマ『地獄が呼んでいる』が話題となっているヨン・サンホ監督も、今敏作品のファンであることを公言しています。

 海外からも高く評価され続けている今敏監督ですが、オリジナル作品である『東京ゴッドファーザーズ』は、非ファンタジー作品ゆえに地味な作品と思われがちです。でも、改めて見直すと、現実世界を見つめる今敏監督のまなざしは先見性にすぐれ、また今敏監督ならではの多重構造の物語でもあることにも気づきます。今敏監督と共同で脚本を執筆したのは『カウボーイビバップ』の信本敬子さん。今敏監督、信本敬子さん、才能あるおふたりが早くに亡くなられたことが本当に惜しまれます。

■3人のホームレスが赤ちゃんの守護天使に

 本作の主人公となるのは3人のホームレスたちです。ギンちゃん(CV:江守徹)はギャンブルがきっかけで借金を重ね、路上生活を送るようになりました。元ドラァグクイーンのハナちゃん(CV:梅垣義明)は、愛するパートナーを失ったことが原因で勤め先を辞めてしまいました。ミユキ(CV:岡本綾)は父親との間に葛藤を抱える家出少女です。

 東京のどこにも居場所のない3人は、狭い段ボールハウスで肩を寄せ合うように暮らしています。そんな3人は、クリスマスの夜にゴミ集積所で赤ちゃんを見つけます。ギンちゃんは警察に届けようとしますが、母親になりたいという願望を持つハナちゃんは赤ちゃんを手離そうとしません。仕方なく3人は雪が降り積もるなか、赤ちゃんの母親を探し回ることになります。

 日本のアニメーションでホームレスを主人公にした作品は、非常に珍しいと思います。3人は家も仕事もなく、お金も携帯電話も持っていません。それでも3人は、赤ちゃんを聖夜にちなんで「清子」と名付け、母親を探し続けます。

 コロナ不況によって、仕事を失った人、収入が激減した人、居場所を失った人が少なくありません。炊き出しに並ぶギンちゃんたちも経済的な余裕はまるでありませんが、赤ちゃんのことを気遣う優しさだけは持ち続けています。貧しくとも人間らしさまでは失うことのない3人の心の温かさには、ホッとさせられます。次々と予期せぬトラブルが3人に襲い掛かりますが、その度に不思議な奇跡が起きることになります。

■人と人とを分断する「格差社会」がテーマ

今敏監督の第2作『千年女優』DVD(バンダイビジュアル)。表舞台から姿を消した伝説の大女優が自ら語る実体験と、出演した映画のシーンが混ざり合っていく

 今敏監督の作品は、虚構と現実がせめぎ合う独特な構造で人気があります。『千年女優』(2002年)などの夢の世界がどこまでも続く多重構造となっている今敏ワールドは、一度観るとどっぷりとハマってしまいます。その点、『東京ゴッドファーザーズ』は現実の東京の街並みをリアルに再現しており、虚構的な要素は少ないように感じられます。では『東京ゴッドファーザーズ』は、今敏監督にとって例外的な作品なのでしょうか?

 夢と現実ではありませんが、『東京ゴッドファーザーズ』も対立構造の物語です。シビアな「現実」の世界で生きるホームレスたちの目線に立てば、安定した生活を送る一般市民は「虚構」世界の住人のように感じられます。逆に一般市民には、ギンちゃんたちが「虚構」的存在に感じられています。

 ホームレスと一般市民との間には、目には見えない境界線が引かれていることが分かります。今の日本を取り巻く「格差社会」をテーマに、今敏監督はギャグやアクションを盛り込んだエンタメ作品として『東京ゴッドファーザーズ』を制作していたのです。

 格差社会の底辺で生きるギンちゃんたちには、「虚構」世界で暮らす一般市民には見えないものが見えています。その象徴が「清子」です。生まれて間もない清子は、そのままでは凍死してしまうところでした。クリスマスで浮かれる一般市民は、ゴミ集積所に置き去りにされた赤ちゃんの泣き声には誰も気づくことができなかったのです。そして「現実」の世界で生きるギンちゃんたちは、清子のために「虚構」の世界へと足を踏み入れることになるのです。

■同じ街で暮らす人が「透明人間」に見えてしまう悲喜劇

 お笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔さんのネタに、「透明人間」というのがあります。大型台風が首都圏を直撃した際、避難所を訪れたホームレスは住民票がないことから入ることができなかったという実際に起きた出来事を風刺したものです。住民票を持っていないホームレスが、住民票を持つ側から「透明人間」扱いされたことを村本さんはブラックジョーク化しています。

 経済格差が進む今の社会では、同じ世界で生きていても大きな隔たりが生じるようになっています。安定した生活を送る一般市民には、社会のレールからこぼれ落ちた人たちの存在が「透明人間」同然となっています。今敏監督は早くから、そのことを察知し、劇場アニメーションへと昇華してみせていたのです。

 米国ではクリスマスの季節になると、フランク・キャプラ監督のファンタジー映画『素晴らしき哉、人生!』(1946年)が度々テレビ放映されるそうです。『素晴らしき哉、人生!』は、生きる希望を失って自殺しようとした主人公が二級天使と出会い、考え方を改めるというハートウォーミングなコメディです。

 慌ただしい年末ですが、ひと晩くらい『東京ゴッドファーザーズ』や『素晴らしき哉、人生!』みたいな心温まる作品をじっくりと楽しんでもいいんじゃないでしょうか。天使もにっこりと微笑んでくれる、そんな作品です。

(長野辰次)

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