アニメ『シャーマンキング』第37話 復讐と「心の闇」を克服した先にあるものは?
マグミクス / 2021年12月23日 18時30分
■子供たちに明らかになってしまった、ミュンツァー博士の暗黒面
2021年12月23日放送のTVアニメ『シャーマンキング』第37話。今回でチョコラブとルドセブたちのエピソードにひと区切りがつきました。「やったらやり返される」というテーマが根底に流れるなか、筆者が前回の記事で「生から死への話」と表現したチョコラブへの復讐劇は、死んだチョコラブがグレート・スピリッツ内で精神の成長を遂げて蘇り、彼なりの結論を見せたことで解決しました。
一方、この話の裏にはチョコラブに殺されたルドセブたちの父・カメル・ミュンツァー博士の暗黒面が潜んでいて、親を殺された子供の純粋な怒りだけの問題ではないことが明らかになりました。まずはこの点を掘り下げたいと思います。
ミュンツァー博士は強いロボットなら何でも良いわけではなく、ゴーレムを創ろうとしていました。その理由が36話の「ゴーレムは国を持たない我らを救うべく生まれた人造人間だ」という言葉です。つまり彼はユダヤ民族の血を引いており、だからユダヤ教の伝承に登場する泥人形・ゴーレムを創ろうとしたのです。
歴史的にユダヤの人びとはさまざまな事情で国を追われ放浪などしていたことがあるので、祖先を追い込んだこの世界に恨みを抱いていました。そこでゴーレムを使ってシャーマンキングを目指したというわけです。しかしそこで彼の暗黒面が顔を見せます。「内蔵巫力」の存在です。
内蔵巫力とは、今でいえばモバイルバッテリーです。操縦者であるミュンツァー博士の巫力は大したことがなくても外部から巫力を補えば問題ない……という発想だったわけです。しかし電気と違い巫力は人間が持っているもので分けられません。それをどうやって溜めたのか……。
魂で補うとミュンツァー博士は言っていますが、要するにスピリット・オブ・ファイアと同じです。これがルドセブたちも知らなかった彼の暗黒面です。ミュンツァー博士は子どもたちの良き父親だった反面、目的達成のために手段を選ばない非道な一面を持っていたのでした。
子供ゆえ理屈抜きに「正義と悪」が存在すると思っていたルドセブには、葉から自分の「正義」を否定されただけでなく、父が「悪」だった事実はショックでしょう。筆者も父親なので子供にそう思わせることは切ないのですが、一方でこれが成長でもあるのだと感じます。おやこれは……もしかして幹久視点でしょうか?(笑)
■チョコラブが得た「成長」とは?
戦いのなかで、ゴーレムを作ったミュンツァー博士の暗黒面が明らかに。アニメ『シャーマンキング』第37話より (C)武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京
では次に、チョコラブの成長について掘り下げます。
死んだ魂はグレート・スピリッツに還ります。そこには心のあり方が似ていた魂の集うコミューンが無数にありますが、そのなかで最悪級なのが、心に闇を抱えた魂が集まる「地獄」コミューンです。
本来、魂の移動は自由ですが、誰もが「自分はここがふさわしい」という思い込みに縛られ困難であると知ったチョコラブは、死より怖いのは地獄から抜け出せないことだと感じます。
これは死を経験した先にある理解なので私たちには実感が難しい上、生き返ったチョコラブは、自分はミュンツァーを殺したがそれがどうしたと開き直っているため、さらに伝わりづらいでしょうが、彼の言動全体をとらえると見えてくるかもしれません。
チョコラブの目的は、自分を蘇生させるほど大切に思ってくれている仲間が、人殺しの自分をどうするのか判断を委ねることと、殺されたことに気付かず怨霊のようにこの世に留まり続けているミュンツァー博士の魂を解放することです。
ゴーレムはシャーマンファイトのために創られたので、そのためには戦う必要がありました。いくつかの試合程度で彼が満足していないことは明らかです。そこでシャーマンファイトの本質だとゴルドバ様も言っていた、命賭けの場外乱闘を申し込んだのです。
チョコラブは、死に勝る恐怖を克服するには心の闇を晴らす必要があると考え「罪をさらけ出し裁かれた結果を受け入れること」や「欲望を満足させ負の感情による執着をやめること」でそれが叶うと信じました。開き直った言葉は目的達成のためにミュンツァー博士を戦う気にさせるアオリ文句だと考えるのが妥当でしょう。
なおチョコラブは意図的に視覚を失いました。人間は情報の8割を視覚から得ています。ましてチョコラブのオーバーソウルは、手足や顔面にミックを憑依させジャガーになりきることなので、視覚を失うと満足に戦えません。
しかしこれを「償いにはならない」と思う人がいるかもしれません。その通りです。これは償いではなくルドセブとセイラームを笑わせる方法を探る手段のひとつに過ぎません。特にセイラームが笑う方法は不明なのでさまざまなことを積み重ねるしかなく、結果が出たときに初めてそれまでの行為が償いになるのです。逆に結果が出なければ、どれだけ犠牲を払っても無意味です。
チョコラブが死から得た成長の本質は考えさせられるものだと筆者は思います。この機会にご自身でも深掘りしてみてはいかがでしょうか?
それでは今回はこの辺で。また次回よろしくお願いします!
●タシロハヤト
美少女ゲームブランド「age(アージュ)」の創立メンバーで、長らくシナリオ、演出、監督等を務める。代表作は「君が望む永遠」シリーズ、「マブラヴ」シリーズ。現在はフリーで活動中。『シャーマンキング』の作者、武井宏之氏と旧知の関係である縁から、同作の20周年企画に参加している。
(タシロハヤト)
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