『ウルトラマンタロウ』39話 怪獣が餅を食うコミカル回。正月のピンチに南夕子が参戦！

■名前を憶えやすい怪獣モチロンが大暴れ

　昭和の時代はお正月が近づくと、大きなせいろでもち米を蒸し、杵と臼で餅をつく光景があちらこちらで見られたものです。今でもイベントとして開催されることはありますが、お正月の準備としては自動餅つき機や真空パックのお餅の登場であまり見られなくなったことに寂しさを感じます。

　1973年12月28日に放送された『ウルトラマンタロウ』の第39話「ウルトラ父子餅つき大作戦！」は、今となっては懐かしい餅つきの風景が、月から現れた怪獣モチロンによって台無しにされそうになる話です。

　全体的にシビアな話が少ない『ウルトラマンタロウ』のなかでも、この回は特にコミカルさが強調されています。

　そもそも怪獣の名前がモチロンの時点で、全然怖くありません。しかもデザインは臼をモチーフにしているため、姿と名前が極めて一致しやすく、特に覚えやすいウルトラ怪獣の一体でしょう。子供のころに見たきりだと有名どころの怪獣以外はあまり覚えていないものですが、モチロンははっきり記憶している方も多いのではないでしょうか。

　さて、そんなモチロンはなんとZATのレーダーに映らないという特徴を持っています。モチロンは月から来た怪獣で、月と地球は構成元素が同じであるため、地球外物質に反応するZATのレーダーは反応しなかったとのこと。この理屈だと23話『優しい怪獣お父さん！』に登場した箱根出身のしんきろう怪獣ロードラあたりもレーダーにひっかからないはずですが、あまり深くツッコんではいけない領域なのかもしれません。

　作中に登場したモチロンは、まず母子寮で餅つきをしていた東光太郎たちのもとに現れ、子供たちが楽しみにしていたお餅を貪（むさぼ）り食うという極悪非道な行為をはたらきます。さらに、風船を使って日本各地を移動し、お餅を奪って食べまくるのですが、このときモチロンに襲われた年配の方々が、一様に太平洋戦争のことを思い出す描写が入れ込まれています。まだ戦争の生々しい記憶を残す方が大勢いた時代ならではの演出です。

■南夕子も登場し、餅つきの合いの手を……

『ウルトラマンタロウ』第39話で大暴れし、正月の一家だんらんをぶち壊した怪獣モチロン。画像は「ウルトラ怪獣シリーズ 22 モチロン」（バンダイ）

　その後モチロンを撃退すべく出撃したZATが、風船を破壊して移動手段を奪った……と思いきや、モチロンは今度は手足を引っ込めて転がり始め、家々を押しつぶしていきます。コミカルなストーリーとはいえ、怪獣はただ大きいだけで人間にとっての脅威であることを思い知らされます。

　モチロンを見失ってしまったZATでしたが、救いの手は月から現れました。そう、前作『ウルトラマンA』で月に帰った南夕子が姿を現したのです。

　南夕子役の星光子さんは、『A』の28話で「主役二人体制」の制作の難しさが原因とされる理不尽な降板劇に見舞われ、大きなショックを受けていたと語っています。おそらくこの回の客演も辛いものがあったでしょうが、そのような雰囲気は微塵も見せない演技と美しさを披露し、東光太郎を山中に隠れていたモチロンのもとへと導きます。

　眠りから目を覚ましたモチロンは夕子のことを「あねさん」と呼んでおり、両者が顔見知りであることがうかがえます。夕子はモチロンを説得しようとしますが、モチロンは米が上手い新潟の餅を腹いっぱい食べに行くと言ってゆずりません。放送当時の新潟の子供たちに、初めてこのシーンを見たときモチロンに来て欲しかったか来てほしくなかったか、一度聞いてみたいものです。

　そして、光太郎の正体がウルトラマンタロウだと知ったモチロンは、力比べを挑んできます。やむなく応じたタロウとモチロンは相撲を始めますが、タロウに投げ飛ばされたモチロンは本気になり、火を噴き始めます。結局戦いはタロウが勝つのですが、モチロンは「俺様が死ぬと月の黒い影が無くなっちまうんだからな！」と脅しなのかよくわからないセリフを吐いて抵抗を続けました。

　タロウも処置に困ったところでウルトラの父が登場し、今度はなんとモチロンを臼にして餅つきが始まります。タロウが杵で餅をつき、夕子も巨大化して合いの手を入れ、ウルトラの父がどっしりと見守るという、ウルトラシリーズ屈指のシュールな光景が繰り広げられ、ストーリーはエンディングへと向かうのでした。

※本文を一部修正しました（12月28日11時15分）

（早川清一朗）