声優・池田昌子がメーテルの声を担当した経緯に驚き！ 80歳を超えても美しい声は健在

■池田昌子さんの声は心のなかに刻まれている

　1月1日は、声優・ナレーターとして活躍されている池田昌子（いけだ・まさこ）さんの誕生日です。おめでとうございます。昭和に子供時代を過ごした方ならば、『銀河鉄道999』のメーテルを覚えているでしょう。機械の体を求める少年・星野鉄郎を導く謎の美女。母のように、姉のように、時には恋人のように、未熟な鉄郎に戦い方や覚悟を教え、共に宇宙を渡った案内人。長いまつ毛に切れ長の目、ブラウン色の瞳、腰まで伸びた金髪。黒一色に染め上げられた衣装がかもし出すミステリアスな雰囲気と愁いを帯びた表情。メーテルを構成する要素のすべては、当時の少年たちの心のなかに彼女こそが理想の女性という固定観念を植え付ける力を持っていました。

　そんなメーテルに魂を吹き込んでいたのが池田さんです。『999』の原作者、松本零士氏はフランス映画『わが青春のマリアンヌ』のヒロイン・マリアンヌの吹き替えの声を気に入ってメーテルの声を想定したそうですが、このマリアンヌを担当していたのも池田さんで、後にそのことを知った松本氏は大変驚いたことを後に明かしています。池田さんがメーテルを担当したのは偶然ではなく、類まれなる実力により、すでに縁が結ばれていたのです。

　また『999』では鉄郎役の野沢雅子さんと名前が同じ「まさこ」でつながっているため、番組終了後も互いを「メーテル」「鉄郎ちゃん」を呼び合っているとのこと。一度現場に遭遇してみたいものです。

　メーテル役については『999』の後も継続して担当されており、2000年代までは何度も池田さんの美声を拝聴する機会がありました。車掌さん役の故・肝付兼太さんが2016年に他界され、完全なオリジナルキャストの集結ができなくなった今は難しいかもしれませんが、もし叶うのであれば再び池田さんのメーテルを聞きたいと願っています。

■オードリー・ヘップバーンの吹き替え

オードリー・ヘプバーン 生誕80周年 『昼下りの情事』+『想い出のオードリー』スペシャルDVDボックス（20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン）

　吹替えでも存在感を発揮している池田さん。特に往年の名女優、オードリー・ヘップバーンの主演作品を数多く担当していることでも知られています。映画の吹き替えは地上波で放送される際にはそれぞれの局で異なるバージョンを作ることも多く、声優の交代もしばしば発生するものです。しかしヘップバーンに関しては、1970年代以降は池田さんがほぼすべての吹き替えを担当し、ほぼ専属状態となっています。演出や翻訳は版ごとに異なることが多く、また放送枠に合わせて内容をカットすることもあるので、微妙に違う演技を要求されるものです。そのすべてに応え続けてきた池田さんの力は、想像を超えるものがあるのでしょう。ヘップバーンの声と言えば池田さんのイメージが強い方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

　2009年にはヘップバーン生誕80年を記念したDVD-BOXが発売されましたが、当時すでに70歳を超えていた池田さんは、当初断ろうとしたものの関係者の熱意に応える形で快諾。昔とほとんど変わらない美しい声を披露してくれました。

　また、池田さんは現在のように声優が確固たる職業として認識される以前から、確固たる職能を持つプロであると考えていた人物でもあります。池田さんのような方が一歩一歩、ひとつひとつの仕事を全うし価値を確立してくれたからこそ、今のような声優が人気職業として認知される時代が来たのではないでしょうか。ただ、ファンの持つキャラクターへのイメージを壊したくない信念を持っているため、声優として顔を出すことは滅多にありません。ただし舞台やインタビューなどの際には普通に顔を出してくれています。

　すでに80歳を超えている池田さんですが、その声はまだまだ健在で、2020年には短編アニメ『かえるのピクルス – きもちのいろ -』に出演しています。TV番組のナレーションやコマーシャル、「ウルトラマン」シリーズに登場するウルトラの母など池田さんの声を聴く機会はしばしば存在しています。これからも池田さんの美しい声を聴かせていただければ幸いです。

（早川清一朗）