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アニメだから描けた? 考えさせられるトラウマ映画4選 サイコホラー、核の恐怖…

マグミクス / 2022年1月15日 20時10分

アニメだから描けた? 考えさせられるトラウマ映画4選 サイコホラー、核の恐怖…

■じわじわと死に近づいていく老夫婦

「アニメ映画」とひと口に言っても、TVシリーズの劇場版もあれば、小説や絵本を映画化していたり、オリジナル脚本だったりと古今東西さまざまな作品があります。そのなかには、アニメならではの表現もあって、下手な実写ホラーよりも断然恐ろしい内容になっている「トラウマアニメ映画」もあって……。

●『風が吹くとき』

「スノーマン」シリーズで知られるイギリスの作家レイモンド・ブリッグズ氏の同名マンガを長編映画化した作品で、冷戦下でついに勃発した核戦争の影響で老夫婦がどんどん放射能にむしばまれていく様を淡々と描いています。

 本作が恐ろしいのは、内容に反して絵柄も演出のトーンも「ほのぼの」しているところです。ブリッグズ氏の柔らかくて優しくて可愛らしいタッチの絵をそのままアニメ化しており、老夫婦の会話ものんびり朗らかで、序盤で保存食や核シェルターを準備している場面までちょっと楽しそうに見えてきます。

 しかし、もうすぐ核爆弾が飛来するという警報が流れてから、シェルターに逃げ込んだ夫婦が放射能でどんどん体に異変が起きていく後半は、もう目も当てられません。前半でこの老夫婦のことが好きになってしまっている分、辛すぎる展開です。皮膚がただれたり流血したりする場面がないのが、逆にじわじわ恐怖をあおります。

 80年代の核戦争の恐怖を描いてはいますが、「政府が何とかしてくれるだろう」「なんだかんだ自分たちは大丈夫だろう」と思い込みながら取り返しがつかなくなっていく夫婦の姿は、いまの現実世界のいろんなものに置き換えてみることが可能で、今見てもドキッとさせられる作品です。

●『対馬丸-さよなら沖縄-』

 太平洋戦争中の1944(昭和19)年8月に起きた「対馬丸沈没事件」を題材にしたアニメ映画です。沖縄から本土へ県民を集団疎開させるための輸送船「対馬丸」がアメリカ海軍の魚雷攻撃で沈められ、1788名の乗員のうち1484名が死亡した(令和2年9月4日時点での対馬丸記念館による発表の数字)という悲惨すぎる事件を、70分で徹底的に描いています。

 正確な数値は未だわからないそうですが、疎開者のうち800人以上が学童で、そのなかの700人以上が亡くなっており、本作も10代前半の子供たちの目線で語られているのが特徴。戦火が迫る沖縄から逃げるための疎開でも、「ヤマト(本土)に行ける!」「雪が見れる」と無邪気に喜んでおり、後半の悲劇がより際立ちます。

 船が沈められてからは筏を奪い合って争いがおきたり、幼子が低体温症で死亡したり、力尽きたおばあさんがサメに食われたりと、トラウマ級の描写が続きます。さらに助かった面々も軍人たちから「『対馬丸』のことを話したらスパイとして銃殺する」と脅され、無理やり沖縄に帰されるのでした。実際に亡くなった生徒たちの名前と年齢が流れるエンドロールは、辛すぎて涙が止まりません。

■「自分」が崩壊していくサイコホラー

老い、認知症の辛さをアニメならではの表現で描いた映画『しわ』のポスタービジュアル。(C)2011 Perro Verde Films - Cromosoma, S.A.

●『パーフェクトブルー』

 世界的に人気の高い天才アニメーション作家・今敏の劇場初監督作にして、異色のサイコホラーアニメです。今監督にオファーが来た際には『パーフェクトブルー』というタイトルと、「アイドルが変態ファンにストーキング」されるというコンセプトだけ決まっていたそうですが、そこから今監督は脚本家の村井さだゆき氏と一緒に「犯人の異常性」よりも「追いつめられて壊れていくアイドルの内面」に迫ったプロットを作り上げました。

 主人公の未麻は、アイドルグループを卒業し、女優として活動を始めるも、理想の自分にはほど遠く、さらにアイドルだった時の自分に固執するファンがストーカー化するなどのストレスで、過去の自分の幻影まで見るようになっていき……。

 アイドルや女優でなくとも、自分の周りの環境の変化や、なりたい自分になれない悩みなどで苦しんだ経験は、誰にでも多かれ少なかれあるでしょう。「これは本当の自分か、これは本当に現実か」と虚実が入り乱れていくような感覚を映像化したアニメーションは、何度見てもクラクラします。「自分」を作っているのは自分自身か、それとも「他者のイメージ」なのか、そんなことまで考えてしまう作品です。

●『しわ』

 スペインの漫画家パコ・ロカ『皺』をアニメ化した映画で、老人ホームを舞台にさまざまな男女を通して老いや認知症の問題を取り上げた作品です。絵柄は柔らかなタッチですが、本作はアニメーションならではの手法で老人たちが「老いたからと言って若い時とものの見方が変わっているわけではない」こと、しかし「確実に昔できたことができなくなっている」という現実を描写しています。

 見ていると、嫌でも親や自分が年老いた時のことを考えてゾッとし、不安になってしまいます。見る人の年齢でも感想が変わってきそうです。

 しかし、老いをただ否定的に描いているわけではなく、ユーモラスな描写で笑わせる場面もあります。「過去の思い出」が今の自分を救ってくれることもあると教えてくれる、優しい作品でもあるのです。

(マグミクス編集部)

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