アニメ化40周年の『あさりちゃん』は逸話だらけ 視聴率争いを制し、ギネス記録も…
マグミクス / 2022年1月25日 6時10分
■裏番組『ゲームセンターあらし』と視聴率を争う
本日1月25日は、40年前の1982年に『あさりちゃん』がTVアニメとして放送を開始した日です。長期間にわたって連載されていた人気マンガ『あさりちゃん』について、TVアニメだけでなくマンガについても振り返ってみましょう。
『あさりちゃん』の連載開始は1978年。最初は小学館の学習雑誌『小学二年生』での連載でした。この連載が好評だったことから、他の年代の学習雑誌や「月刊コロコロコミック」などにも掲載されるようになります。
少女向けギャグアニメともいえるジャンルの作品でしたが、男の子から見ても面白さを感じさせる内容で、全世代的な層に人気のあった作品でした。そのため、アニメ化は流れとして必然だったかもしれません。しかし、このTVアニメ化は雑誌主導のものではなかったのです。
本作は当時、放送中だった『タイガーマスク二世』の不振から急きょ、後番組を用意したかった「テレビ朝日」が主導して進めたものでした。これには当時デビューした実在のプロレスラー「初代タイガーマスク(佐山聡)」が大人気で、TVアニメはひとつの役割を終えたことも理由です。
そういった事情もあり白羽の矢が立った『あさりちゃん』でしたが、テレビ朝日内部には強い反対意見もありました。この時、編成局長に「視聴率15%を保証します!」と啖呵(たんか)を切ったのが高橋浩さんです。その宣言通り、TVアニメ激戦区だった月曜19時台で『あさりちゃん』は高視聴率を維持し、13か月も放送が続きました。
この高橋さんは以前にも『ドラえもん』などの藤子不二雄作品をはじめ、その後も『The・かぼちゃワイン』や『クレヨンしんちゃん』などのTVアニメ化にも尽力しています。この他にも『暴れん坊将軍』などの番組も多く企画した、テレビ朝日のヒットメイカーでした。
しかし、TVアニメ化は良いことばかりではありません。放送から2か月ほど経った4月から、関東地区などの同時間帯の日本テレビで同じ「コロコロ」で連載されていた人気マンガ『ゲームセンターあらし』の放送が決まったからです。
現在では考えられない展開ですが、当時はまだ原作側よりテレビ局側の力が強く、こういった事態は珍しくありませんでした。実際、半年ほど前までのこの時間帯は日本テレビで『あしたのジョー2』、フジテレビで『釣りキチ三平』、テレビ朝日で『タイガーマスク二世』という講談社三つ巴、うち2本は『週刊少年マガジン』連載作品、梶原一騎先生原作も2本ということもあったのです。
この事態を静観した講談社の対応とは異なり、小学館はすぐに「コロコロ」での『あさりちゃん』の掲載を中止し、各学習雑誌だけという対応を行いました。当時の『ゲームセンターあらし』は「コロコロ」の看板作品でしたから、この処置は当然だったかもしれません。
しかし、単純な視聴率争いでは『ゲームセンターあらし』は『あさりちゃん』には及ばなかったようで、1年の放送予定が半年になります。当時の人気という、見えないものはわかりませんが、放送期間という形になった事実で考えてみれば、『あさりちゃん』は間違いなく当時の視聴率争いに勝利した人気アニメのひとつだったといえるでしょう。
■あさりちゃんは「永遠の小学4年生」じゃなかった?
2014年にギネス世界記録を打ち立てたマンガ『あさりちゃん』100巻(小学館)
ファンには周知の事実ですが、『あさりちゃん』の作者・室山まゆみ先生は姉妹共同のペンネームで、お姉さんの本名がそのままペンネームになっています。マンガのなかでもたびたび登場していることからファンには常識ですが、人の名前ということから気づかない人も少なくありません。
実はデビュー当時、ギャグマンガは大の苦手だった室山先生は、少女漫画家あるいはホラー漫画家を志望していたそうです。『あさりちゃん』のなかで少女漫画タッチの絵が登場したり、ストーリーにホラー要素が強い回があったりするのは、そういった事情があるからかもしれません。
ギャグマンガにしては強烈なテイストがオチになることもありましたが、TVアニメではその部分がほのぼのとしたオチに変更されたこともありました。こういった部分が本作を単純な女子向けギャグマンガにせず、幅広い層に好感を持たれる作品に昇華したわけです。
『あさりちゃん』は前述した「コロコロ」以外にも、小学館系列のさまざまな雑誌で展開していました。少女漫画雑誌である「ぴょんぴょん」や「ちゃお」の他にも、教育誌「幼児と保育増刊号」に『カリスマ保育士あさりちゃん』という番外編を掲載しています。この他にも、同じくTVアニメ化された『どろろんぱっ!』とのクロスオーバー展開もありました。
また連載の長期化から、本作の主人公である浜野あさりを永遠の小学4年生と比喩する人がいますが、それは正確な表現ではありません。それぞれの学習雑誌であさりの年齢は違っているからです。
あさりの年齢は『小学一年生』では小学1年生、『小学六年生』では小学6年生と変化していました。そのため、初期のエピソードでは姉の浜野タタミがセーラー服を着た中学生になっているエピソードもあります。他にも『ハイスクールあさりちゃん』という、高校生になった浜野姉妹を描いた番外編マンガもありました。
これだけの人気作だった『あさりちゃん』は、1985年度小学館漫画賞を児童部門で受賞しています。また、2014年には二人組の女性作家による1コミックシリーズ最多発行巻数として、ギネス世界記録に認定されていました。この時に『あさりちゃん』は35年の連載に幕を閉じ、単行本は全100巻となっています。
こういった経緯で一応のピリオドを打った『あさりちゃん』ですが、これで終わりというわけではありません。現在でも公式サイトは定期更新されていますし、何よりも「あさりちゃん」名義でTwitterアカウントが存在していることをご存じでしょうか?
このTwitterはほぼ毎日更新され、ひとコママンガという形で『あさりちゃん』の新作が無料で見ることができます。Twitterでは時事ネタを取り扱うことも多く、室山先生たちがほぼ毎日、世相を見て描いていると推測され、その律義さはファンとしては頭が下がる思いでしょう。
好きな作品というものはいつまでも終わってほしくないと思うものですが、こうして一応の完結を迎えてからも作品が見られるというのは、いちファンとして恵まれていると感じます。室山先生たちには、今後もできる範囲で『あさりちゃん』の発信をお願いしたいと思います。
(加々美利治)
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