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没後10年、『スケバン刑事』和田慎二氏が生んだ「戦うセーラー服美少女」の衝撃

マグミクス / 2022年1月27日 12時10分

没後10年、『スケバン刑事』和田慎二氏が生んだ「戦うセーラー服美少女」の衝撃

■少女マンガで革命的だった「戦うヒロイン」像

 累計発行部数2000万部の『スケバン刑事(デカ)』をはじめ、多くのヒット作を生んだ少女漫画家の和田慎二さん。没後10年となった2022年、集大成となる画集『和田慎二ARTWORKS 戦う美少女伝説』(玄光社)が発売されます。

 少女マンガ特有のロマンスを継承しつつ、熱いアクション描写で新境地を切り拓いた和田慎二さんが読者にもっとも衝撃を与えたのが、「戦うヒロイン」の誕生でした。

「帰ってきたわよ、地獄から! あなたたちに復讐するために!」

 和田慎二さんの出世作となったのが、1973年に集英社「別冊マーガレット」に発表された『銀色の髪の亜里沙』です。主人公の少女・本条亜里沙は、クラスメイトによって吐竜窟(とりゅうくつ)という深い穴に突き落とされ、おまけに会社の乗っ取り計画から両親を殺害されてしまいます。

 長い地底生活とショックから「銀髪」となってしまった亜里沙は奈落の底から脱出すると、前述の衝撃的なセリフとともに復讐を始めるのです。

『銀色の髪の亜里沙』は、児童文学の『巌窟王』にインスパイアされた作品で、当時の少女マンガとしては異色の復讐劇でした。かつては少女の夢やロマンスを描くものが主流だった少女マンガですが、1970年頃には、それまでの常識を覆す多様な作品が登場し始めています。

 ライバル作品が続出するなかで、男性作家の和田慎二さんが描いたのは、ヒロインが過酷な運命と戦う「新しい少女マンガ」だったのです。

『銀色の髪の亜里沙』が評判となった和田慎二さんは、1975年に白泉社「花とゆめ」に読み切り作品の『校舎は燃えているか!?』を発表。翌年には、この作品の設定に変更を加えて『スケバン刑事(デカ)』の連載をスタートさせています。

 脱獄不可能と言われる第二高等少年院、通称「地獄城」。その院生である麻宮サキは、死刑囚である母を救うため、命がけの脱出を決意します。彼女の命運を握るのは、黒メガネをかけた謎の男。その正体は警視庁の暗闇警視で、私立姫ヶ窪校で起きた一億円強奪事件の解決を条件に、サキの母親を救うというのです。警察の「桜の代紋」入りヨーヨーを手にしたサキは、学生刑事として学園に潜入します。

 脱獄から始まるという、少女マンガとしては前代未聞の幕開け、そしてスケバンという悪をもって悪を制す破天荒なストーリー。サキがヨーヨーで見せる華麗なアクションとともに、女性はもちろん、それまで少女マンガを手にしたことがない男性の読者層からも支持を集めています。TVドラマ化などのメディアミックスもあり、『スケバン刑事』は少女マンガの裾野を広げた一大作品となりました。

■セーラー服の美少女が繰り広げる超能力バトル

「別冊マーガレット」1975年4月号から不定期で描かれた「超少女明日香」シリーズの紹介ページ。以下すべて『和田慎二ARTWORKS 戦う美少女伝説』(玄光社)より掲載 (C) Shinji Wada

 和田慎二さんが描いた「戦うヒロイン」では、1975年からスタートした「超少女明日香」シリーズも忘れられません。主人公は砂姫明日香(さきあすか)という少女で、住み込み家政婦として働く、一見地味な女の子ですが、その実体は自然の大いなる力を味方につけた「自然の精霊(とも)」。自然を蹂躙(じゅうりん)する人間や悪霊が現れると、セーラー服の超少女に変身して戦います。

 少女マンガのほかに特撮やSF映画、アニメーションを愛した和田慎二さん。「超少女明日香」シリーズには、映像文化にインスパイアされた和田慎二さんの空想力が発揮されています。

 1988年に「花とゆめ」に発表された『超少女明日香 救世主(メシア)の血』では、超能力を使う「超少女」のライバルとして「超少年」の救世主(メシア)が登場。敵の黄金ドクロが巨大な仏像を操って街を焼き払うと、明日香と救世主は超能力で対抗しています。

 特撮さながらのダイナミックな描写を導入したことで、それまでにない少女マンガとなった「超少女明日香」。もうひとつの見どころが、少女マンガならではのロマンス描写です。「自然の精霊」として戦う使命を背負った明日香は、愛する田添一也の気持ちに応えることができずにいます。すれ違いを繰り返すラブストーリーも読者を夢中にさせました。

 和田慎二さんは、「別冊マーガレット」の投稿コーナー「別マまんがスクール」の選者であり、数々の著名漫画家を育てたことで知られる漫画家の鈴木光明氏のもとで学んでいます。少女マンガ特有の抒情性があふれた和田慎二作品のなかでも、ド派手なアクションと繊細な心理描写を見事に融合させた「超少女明日香」は、後進の漫画家やアニメーターに多大な影響を与えました。

 和田慎二さんが描いた「セーラー服で戦う美少女」のDNAは、今もさまざまなマンガ・アニメ作品に見ることができます。

■哲学的なテーマにまで及んだ大作『ピグマリオ』

「花とゆめ」1978年7号から12年にわたって連載された巨編『ピグマリオ』の解説 (C) Shinji Wada

 1978年より「花とゆめ」で連載開始した『ピグマリオ』は、有史以前の「神話の時代」を舞台にした巨編ファンタジーです。ルーン国の皇子・クルトは若干8歳の身でありながら、巨大な「大地の剣」を自在に操る怪力の持ち主。闇の世界を司るメデューサによって、母親が石像に変えられたことから復讐の旅に出ています。

 クルトの宿敵・メデューサは、「黒い血」を妖魔に分け与えて使徒を増やし、闇の領域の拡大をはかります。しかし、光と闇は相反するものでありながら、切り離すことができない一対の世界。物語の展開とともに、クルトとメデューサの関係性も複雑なものに変化していきました。

 画集『和田慎二ARTWORKS 戦う美少女伝説』には、和田慎二さんが残した『ピグマリオ』の構想ノートが紹介されています。そこには、『ピグマリオ』を単なる勧善懲悪にとどまらないストーリーに発展させた、和田慎二さんの苦心の跡を見ることができます。

『ピグマリオ』が描かれた当時、日本では本格的なヒロイック・ファンタジーの作品がほとんどありませんでした。編集部の理解を得るのも大変な時代でしたが、和田慎二さんは果敢に新しいジャンルに挑戦して、マンガの可能性を広げてくれました。

『和田慎二ARTWORKS 戦う美少女伝説』では、和田慎二さんと親交があった、漫画家の美内すずえ氏、柴田昌弘氏、安彦良和氏、竹本 泉氏、新谷かおる氏(掲載順)らのインタビューが掲載されています。貴重な証言とともに、和田慎二さんが切り拓いた少女マンガの世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。

※文中一部敬称略
(C)和田慎二

(取材・メモリーバンク)

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