異色コメディ『大怪獣のあとしまつ』には社会風刺も 巨大な「ゴミ」に翻弄される人びと
マグミクス / 2022年2月3日 18時10分
■『時効警察』で知られる三木聡監督のオリジナル作
さまざまな特撮ドラマのなかで、凶暴な怪獣たちが日本に何度も上陸し、大暴れしてきました。そんな怪獣たちをスーパーヒーローや防衛隊がやっつける姿に、子供の頃はワクワクしたものです。しかし、倒された怪獣は、その後はどうなっていたのでしょうか?
これまでの特撮ドラマでは描かれることがあまりなかったエピソードに特化したコメディ映画が、2022年2月4日(金)から公開される『大怪獣のあとしまつ』です。
脱力系コメディ『時効警察』(テレビ朝系)で知られる三木聡監督のオリジナル作品で、山田涼介さん、土屋太鳳さん、オダギリジョーさん、西田敏行さんら人気俳優がキャスティングされています。松竹と東映の大手映画会社同士が初めてタッグを組んで、製作&配給していることでも話題となっています。
■難航を極める大怪獣の死体処理
全長380m、全高155mという超巨大怪獣が登場する『大怪獣のあとしまつ』ですが、気をつけておきたいのは、その大怪獣はすでに死んでしまっているという点です。それゆえ、大怪獣がスーパーヒーローや防衛隊と激突するバトルシーンは、いっさいありません。あくまでも、大怪獣の死体をどう処分するかをめぐる、異色のドタバタコメディとなっています。
首相の西大立目(西田敏行)は閣僚を集めて緊急閣議を開きますが、大怪獣の処理という厄介な仕事を誰が請け負うかで閣僚たちは大もめすることになります。『シン・ゴジラ』(2016年)の緊張感漂う「巨災対」と違って、国防大臣の五百蔵(岩松了)や環境大臣の蓮佛(ふせえり)らの討論は議題から脱線しまくりです。『時効警察』の時効管理課のやりとりを、劇場版へとスケールアップさせたようなギャグシーンが展開されていきます。
一方、現場で大怪獣の処理を直接担当することになるのが、特務隊の隊員・帯刀アラタ(山田涼介)でした。大怪獣の死体にはガスが充満しており、爆発する危険性があります。しかも、大変な悪臭を放つため、大怪獣の処理作業は難航を極めるのでした。
環境大臣の秘書官で、アタラの元恋人・雨音ユキノ(土屋太鳳)、爆破のプロである元特務隊員のブルース(オダギリジョー)らも加わり、物語は一筋縄では進みません。大怪獣の処理は無事に済むのか、アラタとユキノはなぜ別れたのか、閣僚たちのギャグバトルはいつまで続くのか……。多くの疑問をはらんで、物語は予想外な結末へとなだれ込んでいきます。
■従来の物差しでは測れないものに、どう向き合う?
首相役の西田敏行さん(中央)をはじめ、実力派俳優による閣僚たちのやりとりも見どころ
三木聡監督の人気作『時効警察』は、すでに時効となっている過去の未解決事件を警察官の霧山修一朗(オダギリジョー)が趣味で解明するというミステリーコメディでした。世間が忘れてしまったものに対し、霧山は他にはない価値観を見出して、その謎を解き明かします。その結果、従来のミステリー作品にはなかった、おかしみやせつなさを『時効警察』は引き出すことに成功しました。
三木監督がこれまでに撮ったコメディ映画『亀は意外と速く泳ぐ』(2005年)や『インスタント沼』(2009年)なども、世間からは無意味とされているものに愛情を注ぐ主人公たちの物語でした。怪獣はそもそも人間の常識から外れた存在ですが、しかも死んでしまっているので物語的にもまったくの無意味の極みです。
そんな無用の長物をめぐって、登場キャラクターたちは右往左往するのでした。従来の物差しでは測れないものに、三木聡作品の主人公たちは向き合うことになるのです。
仰向けに倒れた大怪獣の死体は、廃炉化作業が続く福島第一原発にも思えますし、バブル崩壊から立ち直ることができず、機能不全状態に陥っている日本社会そのもののようにも感じられます。三木聡作品としては珍しく、社会風刺的な視線も感じさせます。
■「デウス・エクス・マキナ」に依存する日本人
本作を楽しむ上で、覚えておきたいキーワードとなるのが「デウス・エクス・マキナ」という言葉です。古代ギリシアで上演されていた演劇では、物語の収拾がつかなくなった局面に機械仕掛けの神さまが登場し、力技で終幕させるという手法が使われたそうです。機械仕掛けの神さま=デウス・エクス・マキナです。
この機械仕掛けの神さまは、作劇する上では非常に便利な存在で、かの天才劇作家のシェイクスピアも『真夏の夜の夢』などでこの手法を使っています。しかし、作り手側のご都合主義による安易なエンディングとしても批判されがちです。
当然ですが、現実世界には「デウス・エクス・マキナ」は存在しません。しかし、日本人は長年にわたって「デウス・エクス・マキナ」が現れることを待ち望み続けているのではないでしょうか。太平洋戦争では、「神風」が吹くから日本は絶対に負けることはないと信じられてきました。また、福島第一原発事故の際には、米軍に事故処理を任せようという声もありました。日本人にとっては、神風や米軍が「デウス・エクス・マキナ」的な存在だったと言えます。
特撮ドラマの金字塔である『ウルトラマン』『ウルトラセブン』、東宝の特撮映画『マタンゴ』(1963年)などへのオマージュを、三木聡監督の『大怪獣のあとしまつ』は感じさせます。そして、「デウス・エクス・マキナ」的存在に依存しがちな日本人の国民性についても、チクリと風刺しているように感じます。
悪の秘密結社「ショッカー」の戦闘員になりたがる若者を主人公にした映画の企画も、三木聡監督は提案していたそうです。予算はあまり使わずに済みそうですから、こちらもぜひ実現させてほしいものです。若者たちの生きづらさ、行き場のなさを描いた問題作になるのではないでしょうか。異色コメディを生み出す三木監督のユニークな発想力に注目が集まりそうです。
※『大怪獣のあとしまつ』は、2022年2月4日(金)より全国ロードショー。
監督・脚本/三木聡 VFXスーパーバイザー/野口光一 特撮監督/佛田洋 怪獣造形/若狭新一
出演/山田涼介、土屋太鳳、濱田岳、眞島秀和、ふせえり、六角精児、矢柴俊博、有薗芳記、SUMIRE、笠兼三、MEGUMI、岩松了、田中要次、銀粉蝶、嶋田久作、笹野高史、菊地凛子、二階堂ふみ、染谷将太、松重豊、オダギリジョー、西田敏行
配給/東映、松竹
(c)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会
(長野辰次)
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