40周年の『ザブングル』は「パターン破り」が満載! のちにロボットアニメの定番へ
マグミクス / 2022年2月6日 6時10分
■富野監督自身も「パターン破り」だった新たな試みの数々
本日2月6日は、1982年に『戦闘メカ ザブングル』が放送開始した日です。放送から40周年を迎えるこの機会に、当時「パターン破りのザブングル」とファンから言われた異色の人気作について振り返ってみましょう。
本作は富野喜幸監督が名義を「富野由悠季」と改め、『伝説巨神イデオン』以来2年ぶりにTVアニメの監督として復帰した作品です。しかし、最初から監督として参加したわけでなく、もともと予定された監督が多忙だったため、急きょ富野監督が抜擢されることになった……という経緯でした。
最初は宇宙を舞台にしたシリアスなロボットアニメとして企画されていた本作でしたが、富野監督が一夜で西部劇のような世界観に、ガソリンをエネルギーにしたハンドルで動くロボットもの……という斬新なアイデアを考案してきます。その勢いで、湖川友謙さんがデザインしたキャラ以外は、ほとんど富野さんのアイデアで新しいものへと刷新されました。
この時期の富野監督は『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』と『THE IDEON 接触篇/発動編』という2本の劇場作品の監督も並行して進めており、多忙のためにデザインの変更まで進められなかったといいます。逆に時間の余裕があれば、もっと大ナタを振るって本作を変更していたかもしれません。
このような流れだったことから、もともとの宇宙を舞台にした時のデザインだったザブングルとアイアン・ギアーが、他の登場ロボ「ウォーカーマシン(以下WM)」とデザイン的に大きく違うのはそういった事情があったからです。
また、富野監督にしてはメインキャラの死亡率が低い点も、よく指摘される本作の特徴でした。これは作品の企画時からシリアスな展開や残酷な描写は青年層に受けても、オモチャの購買層である子供には受け入れられにくいという点を指摘されていたからです。
結果的にこの制作方針によりゲストキャラや、主人公側と相いれない敵であるイノセントに死亡者は多く出ましたが、主人公ジロン・アモスの両親の仇であるティンプ・シャローンや、ライバル的存在であるキッド・ホーラは無事に逃げ延びており、作品の雰囲気を最後まで明るくさせる結果となりました。
この流れは後に公開された劇場版『ザブングル グラフィティ』により濃く受け継がれており、死んだはずのイノセントのリーダーであるアーサー・ランクが実は生きており、失明したエルチ・カーゴの目の治療を引き受けるという、TV版より大きなハッピーエンドを生み出しています。
この劇場版では併映があったことから90分映画として製作されていました。そのため、時間的な制約で総集編も無理だったことから「グラフィティ」のタイトル通り、楽屋落ちを盛り込んだ回想形式の作品になっています。
セル塗りを途中で止めて、動画を直接撮影した「これが動撮だ!」や、関西地区では甲子園中継延長で放送されなかった回のゲストキャラのトロン・ミラン出演シーンでは「幻のトロン・ミラン(関西地区で)」とテロップを入れるなど、お遊び満載の映画に仕上げていました。
■その後のロボットアニメに多大な影響を与えた「パターン破り」
作中で活躍したウォーカーマシン「ザブングル」。画像は「HI-METAL Rザブングル 塗装済み可動フィギュア」(BANDAI SPIRITS)
本作は「初の主役機交代劇があった作品」としてよく取り上げられています。ここにあえて加えるとすれば、「番組タイトルになっている機体」であることを忘れてはいけません。たまに『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』で、「ヤッターワン →ヤッターキング→ ヤッターゾウ」が先例だと言う人もいるからです。
もっとも、一般的な乗り込みタイプの人型ロボという点では本作が初めてで、『タイムボカンシリーズ 逆転イッパツマン』の「逆転王→ 三冠王」より1か月ほど早く交代していました。
後半の主役機であるウォーカー・ギャリアは富野監督の発案で、デザイン的に他のWMと大きく異なるザブングルとの溝を埋めるべく考えたそうです。もともと『機動戦士ガンダム』以降のこの放送枠では後半からGファイター、トライダー・シャトル、クロスエイダーといったように、主役機のパワーアップメカのオモチャがスポンサーのクローバーから発売されていました。この流れがいわゆる「2号ロボ」に変わったわけです。
ちなみにザブングルとギャリアをミックスしたようなデザインで、終盤に登場したブラッカリィは、湖川さんが初期にティンプ機としてデザインしたものが原型だったそうで、当初からザブングルの世界観にそぐわないデザインは問題視されていました。
まるで鬼子のように言われるザブングルですが、主役機として異例な点があります。それが第1話から2台登場していること。これは放送まで明かされておらず、第1話ラストシーンでジロンが言った「もう一台あるのか?」は、同時に視聴者の誰もが叫んだことです。
さらに中盤の盛り上がりではアイアン・ギアーが同系艦と戦うという異例の展開もありました。「パターン破りのザブングルといえども同系艦が敵になって出てくるとは思うまい」というセリフもあり、この作品がそれまでのロボットアニメになかったものを目標にしていたことがわかります。
余談ですが、本作からこの作品枠のスポンサーになったバンダイも革新的なプラモデルを販売していました。1/100シリーズではアニメ設定よりディテールを追加したミリタリーモデルのような商品で、ガンプラをよりグレードアップしたクオリティはファンをおどろかせます。
しかし、商品展開の遅さから売り上げは今ひとつ伸びませんでした。初期のラインナップが小型WMばかりで、主役機であるザブングルの発売が終盤間近の12月に1/144、メインの1/100は放送終了後です。
これでは商品がよくても数字に反映されるわけもなく、後半の主役機ギャリアの1/100は販売されないままシリーズ展開が終了するという、前代未聞の事態になってしまいました。
もちろん革新的なパターン破りというと、メカだけでなく、キャラにおいても実行されています。劇中で「どマンジュウ」などと言われ、丸顔で二枚目な要素のない主人公ジロン。ヒロインとして同格だったエルチ・カーゴとラグ・ウラロのダブルヒロイン。そして、このエルチが後半に洗脳されて終盤近くまで敵となるのも、それまでにあまり例のないことでした。
逆にこれらの「パターン破り」が現在ではパターンのひとつになっているわけですから、本作が後世に影響を与えた革命的な作品だったことは間違いないでしょう。そして、富野監督も自身が作った『ガンダム』を超えるべく、この枠で新しい作品に挑戦していくわけですが、それがどうなるのかはまた別のお話となります。
(加々美利治)
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