『機甲戦記ドラグナー』放送から35年、「良いものは必ず出てくる」を教えてくれた名作
マグミクス / 2022年2月7日 6時10分
■TV朝日17:30枠にいったん幕を引いた作品
筆者が最初に『機甲戦記ドラグナー』の文字を見たのは、新聞のTV欄でした。おそらく、『機動戦士ガンダムZZ』を見ていた人ならば新番組の宣伝を見ていたと思いますが、当時の筆者は習い事のために見ることができず、『ZZ』の終わりも、『ドラグナー』の始まりも、新聞で知る羽目になったのです。
『ドラグナー』とはどんなアニメなのか。実は当時の筆者は、存在そのものをあまり気にしていませんでした。「ああ、新しいアニメが始まったんだ」程度の認識だったと思います。1987年という時代は、1979年に放送開始した『機動戦士ガンダム』が生み出したリアル路線のロボットアニメのブームが、ひと段落ついた時期だったのです。
ロボットアニメの衰退は、1985年に放送された『機動戦士Zガンダム』『超獣機神ダンクーガ』『蒼き流星SPTレイズナー』『忍者戦士飛影』の4作品のうち、『Zガンダム』を除く3作品が打ち切りになるなど、すでに目に見えて明らかになっていました。折からのファミコンブームの到来で、子供たちが欲しがるおもちゃの嗜好も変化し、プラモデルや超合金の売れ行きが鈍ってしまったことも、大きな問題点となっていたのです。
率直に言って、『ドラグナー』は放送された時期が悪すぎたのでしょう。筆者自身あまり興味がなく、気づいたら始まり、そして終わっていました。正直『ドラグナー』がらみで一番驚かされたのは、後番組がロボットアニメではなく、5人の少年が鎧をまとって戦う『鎧伝サムライトルーパー』だったことでしょう。
当時の関東圏の子供にとって、夕方の5時半にTV朝日がロボットアニメを放送するのは毎年の風物詩だったため、「あれ? ロボットアニメもうやらないんだ」と、少し寂しく感じたことは覚えています。
当時はインターネットも存在せず、ビデオでのTVアニメ販売もあまり行われてはいませんでした。一度見逃したアニメを見る機会は再放送を待つのがセオリーでしたが、『ドラグナー』の再放送は筆者の住む地域では行われず、結局『ドラグナー』に触れたのはそれから数年後、知人に見せてもらった「ロボットアニメOPED集」が最初となったのです。
■大張正己氏が手掛けたオープニングに感動
3体のドラグナーが描かれる、「機甲戦記ドラグナー Blu-ray BOX」(ハピネット)の一部シーン
今から考えれば違法な品ではありましたが、当時、1970~80年代のアニメの曲を自由に聞く手段はほとんどありませんでした。そのため、どこの誰が最初の1本を作ったのかは分かりませんが、何度ダビングを繰り返したのかわからないほどに劣化した映像、音声のビデオテープがマニア層の間で密かに流通していたのです。
初めて見た『ドラグナー』のオープニングは、ただ衝撃的でした。鮎川麻弥さんが歌い上げる「夢色チェイサー」はまさに名曲。さらに大張正己氏が心血を注いで描いた映画『トップガン』を思わせるようなD-1の発進シーンは、まさに鳥肌モノだったのです。
すぐに『ドラグナー』を見たくなって知人友人に全話録画していないか尋ねてみましたが、誰も持っていませんでした。ちょうど『ドラグナー』の放送は家庭用ビデオデッキが普及している真っ最中でしたが、残念ながらわざわざ録画して保存している人は筆者の周囲にはいなかったのです。
結局、『ドラグナー』を見たのはさらに数年後、「キッズステーション」での放送を待つこととなりました。スペースコロニーを舞台とした世界観。『ガンダム』をオマージュした1話。主人公機ドラグナー1型の強化用パーツ「キャバリアー0」。アニメの世界に電子戦闘を持ちこんだ画期的な機体であるドラグナー3型。主人公機より高性能とされる量産機「ドラグーン」の存在。
また、後期のOPとEDを担当したのが、その後バラドルとして一世を風靡した山瀬まみなど、見どころ聞きどころが数多く存在していたことにも驚かされました。
しかし何より一番惹かれた要素は、主人公ケーン・ワカバのライバルとして登場したマイヨ・プラートです。「ギガノスの蒼き鷹」と呼ばれるエースパイロットにしてヒロインであるリンダ・プラートの兄のマイヨは、当初は機密兵器であるドラグナーを狙いケーンたちと何度も戦いますが、部下の暴走などさまざまな要素により失敗し、左遷されてしまいます。
『ガンダム』のシャア・アズナブルをオマージュしたキャラクターと思われるのでこの流れは理解しやすいのですが、マイヨの場合は、部下が左遷を不服として反乱を起こすなど、よりカリスマ性が際立つ展開となっています。
その後もまるでマイヨが主人公のようなストーリーが随所に差し込まれるようになり、終盤には本格的に主役化。最終決戦ではケーンとともに試作型巨大メタルアーマー「ギルガザムネ」と戦う展開へと突入していきました。ラストシーン、そしてエンディングのクレジットから見ても、製作者がマイヨを主人公としていたことはほぼ間違いないでしょう。
放送当時は不遇だった『ドラグナー』ですが、2021年から2022年にかけて「魂ネイションズ」で完全新規造形の「ドラグナー1 カスタム」「ドラグナー2 カスタム」「ドラグナー3」が登場するなど、再評価されています。一度は時代に敗れても、良いものは必ず世に出てくることを示してくれたのが、『機甲戦記ドラグナー』なのかもしれません。
※本文の一部を修正しました。(2022.2.7 21:20)
(早川清一朗)
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