横須賀が舞台のアニメ『スローループ』 フライフィッシングで人と人をつなぐ物語

■フィッシングが結ぶ、女の子同士の絆

　近年、ゆる～く友だちとのキャンプを楽しむ『ゆるキャン△』や、登山に励む『ヤマノススメ』など、女の子がアウトドアに挑戦する作品が注目を浴びています。可愛い女の子が野外でわちゃわちゃしているのを見るのはなぜか心が癒されるものですが、そんな作品のなかに新たに加わったのが、今回紹介するアニメ『スローループ』です。

　主人公・海凪ひよりは、3年前に亡くした父親から教わったフライフィッシングを続けている女の子。母親の再婚を控え、もうすぐ見知らぬ誰かと家族になるひよりがいつものように堤防で釣りをしていると、小春という名の女の子が突然現れ、服を脱いでスク水姿で海に飛び込もうとしたのです。慌てて止めたひよりは、海のない地方から引っ越してきたばかりというその子となんとなく打ち解け、釣った魚をお刺身にして一緒に食べて仲良くなります。

　そしてひよりは、新たな家族との顔合わせで、小春が自分の新しい家族だと知ることになるのです。

　ひよりと小春、ひよりの幼なじみの吉永恋、釣り船屋さんの船長の福元一花。その妹で餌釣りをしている二葉と、生き物は苦手だけど二葉と仲良くなりたくて釣りに参加する二宮藍子など、『スローループ』では多くの女の子たちがフィッシングを通じて交流を深めていきます。

　釣りを題材にしたアニメとしては昭和の時代には『釣りキチ三平』、平成では『スーパーフィッシング グランダー武蔵』、近年では『放課後ていぼう日誌』などさまざまな作品がありますが、『スローループ』ではフライフィッシングをメインに扱っているのが大きなポイントです。

　現代の釣りは生き物を餌として使う餌釣りと、ルアーと呼ばれる疑似餌を使うルアーフィッシングが大きなシェアを持っています。しかしフライフィッシングはそのどちらとも異なるジャンルであり、使用する機材や技術も独特なものとなっています。

　まず、餌は「フライ」と呼ばれる虫に似せた毛針を使用します。フライにも、水に浮かばせて水面に落ちた虫に見せかけるドライ（乾式）、水棲昆虫の幼虫に似せ、底に沈めて使うニンフ（蛹式）、ドライとニンフの中間で、水中を流される虫に見せかけたウェット（湿式）、小魚に似せたストリーマー（流式）の4種があることなど、フライフィッシングの初心者に向けての解説が作中でもきちんと行われています。

■物語の舞台、横須賀市ともコラボレーション

親の再婚により、ひよりと家族になった小春は、魚釣りにも興味を示して……アニメ『スローループ』第2話より (C)うちのまいこ・芳文社／スローループ製作委員会

　また、フライフィッシングは他の釣りと異なり、錘（おもり）を使いません。他の釣りでは錘やルアー自体の重さを使って仕掛けを投げ込むのですが、フライフィッシングの場合はフライ自体に重さはほとんどないため、独特なリールとラインの送り出しなど、さまざまなキャスティング技術を駆使して仕掛けを飛ばす必要があるのです。

　初心者にはかなり難しいテクニックであり、まさにアニメの4話ではキャスティングから生まれるやりとりが、ストーリーの重要なポイントとなっています。フライフィッシングに興味のある人にとっては、作中で紹介される技術や知識は宝の山であり、原作者であるうちのまいこ先生のフライフィッシングに対する造詣の深さもうかがえます。

　また、本作は神奈川県横須賀市が舞台の一部モデルとなっており、アニメ放送開始後よりコラボ企画が開催中です。市内のコラボ店舗や商店街、釣具店などでコラボポスターが掲載されており、現在、コラボ企画の実施や横須賀オリジナルコラボグッズの販売が始まっています。

　近年、横須賀市は『ハイスクール・フリート』や『アズールレーン』などのアニメやゲームとのコラボ企画に非常に力を入れており、2021年秋には女性VTuberグループ「ホロライブ」所属の湊あくあなどが参加した「よこすか海のアニメカーニバル」も開催されました。

　果たして、これから横須賀市と『スローループ』が何を送り出してくれるのか、『スローループ』とファンの絆をより強く結びつけてくれるであろう新たな動きにも、大いに期待したいと思います。

※アニメ『スローループ』は、毎週金曜日22：30よりTOKYO MXほかにて放送中。dアニメストア、ABEMA、Amazon Prime Videoなど各配信サービスでも配信されます。

（早川清一朗）