金ローで『チャーリーとチョコレート工場』放映 夢に出てきそうなウンパルンパのダンス
マグミクス / 2022年2月17日 18時30分
■変人社長が企画した、世にも奇妙な工場見学
チョコレート工場の扉を開けると、そこは極彩色の悪夢的世界でした。人気絶頂期のジョニー・デップが変わり者のチョコレート会社の社長ウィリー・ウォンカを演じたのが、ティム・バートン監督のファンタジー映画『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)です。
ウォンカ社のチョコレートに付いていた金色のチケットを手に入れた5人の子供とその保護者たちは、普段は立ち入り禁止のチョコレート工場を見学するのですが、そこで待っていたのは奇妙キテレツな世界です。ウォンカ社長の言いつけが守れない子供たちは、次々と悲惨な目に遭うことになります。
2022年2月18日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)で、7年ぶりに『チャーリーとチョコレート工場』(以下『チャリチョコ』)が放映されます。ちょっと不気味だけど、思わずSNSでつぶやきたくなる『チャリチョコ』の見どころシーンを振り返ります。
■性格の悪い子供は、漏れなく恐ろしい目に
ティム・バートン監督とジョニー・デップは、それまでにも『シザーハンズ』(1990年)や『エド・ウッド』(1994年)などでもタッグを組んでいる盟友同士です。なかでも『チャリチョコ』でジョニー・デップが演じたウィリー・ウォンカは、とびっきりの変人です。
貧乏な家に生まれたチャーリー少年は、誕生日にウォンカ社のチョコレートを買い、チョコレート工場が見学できる金色のカードを引き当てます。このカードを引き当てたのは、世界中でたった5人の子供たちだけでした。かつてウォンカ社で働いていたことのあるジョーおじいちゃんと一緒に、チャーリーはチョコレート工場を見学します。チャーリーは心優しい性格ですが、他の4人はわがままで、思いやりのない子供たちばかりでした。
ウォンカ社長に迎えられて入ったチョコレート工場内は、びっくりする世界でした。チョコレートの川が流れ、色とりどりのお菓子でできたキノコや草花が咲き乱れる人工のメルヘンランドだったのです。美しいけれど、どこか変。江戸川乱歩の怪奇小説『パノラマ島奇談』を思わせる、不気味さが漂います。
食いしん坊の男の子・オーガスタスは、川に流れるチョコレートを直接飲もうとして、うっかり川に落ちてしまいます。物語ががぜん盛り上がるのはここから。どこからともなく、体の小さなウンパ・ルンパたちがわさわさと現れ、オーガスタスの食い意地の汚さをディスりながら歌い踊り始めます。
ディープ・ロイ扮するウンパ・ルンパたち総勢165名が織り成すミュージカルシーンは、『チャリチョコ』最大のハイライトシーンです。夢心地のファンシーさと底意地の悪さとが、バニラ味とチョコ味がミックスされた甘い甘いソフトクリームのように、リズミカルに渦巻いていきます。
■「アンガールズ」もブレイクした「キモかわ」ブーム
ウンパ・ルンパは作中で展開されたシュールなミュージカルシーンで観客に強い印象を与えた。画像は「ヴァイナルコレクティブルドールズ No.82 VCD ウンパルンパ」(メディコムトイ)
悪夢的シーンは、まだまだ終わりません。何でも一番にならないと気が済まない少女・バイオレットが開発中のガムを噛んだところ、鼻先から徐々にブリーベリーみたいな紫色に染まってしまいます。さらには、金持ち一家で甘やかされて育った女の子・ベルーカは、工場でナッツの選別をしていたリスを「ペットにしたい」と言い出し、悲惨な目に陥ります。
かわいらしいリスたち40匹がベルーカに襲い掛かるシーンは、アドルフ・ヒッチコック監督の動物パニック映画『鳥』(1963年)を思わせる恐ろしさがあります。もうひとり、ゲームばかりやってる高慢ちきな少年・マイクには、それこそヒッチコック監督の犯罪映画『サイコ』(1960年)ばりの恐怖体験が待っています。
不気味だけれど、面白い。怖いけど、続きが見たくなる。『コープスブライド』(2005年)などでも知られる、ティム・バートン監督の奇妙かつ毒のある世界観が、幅広く多くの人に受け入れられるきっかけに、『チャリチョコ』はなったと言えるでしょう。
ウンパ・ルンパが話題になった『チャリチョコ』が公開された2005年は、日本ではお笑いコンビ「アンガールズ」がブレイクした時期でもありました。見た目はちょっとキモいけど、慣れると意外とかわいいかも。そんな「キモかわいい」という言葉が、広く使われるようになったのもこの頃です。
■日本を舞台にした『007は二度死ぬ』も同じ作者
おかしなおかしな『チャリチョコ』の世界を生み出したのは、英国の児童作家ロアルド・ダールです。アン・ハサウェイが大魔女に扮した『魔女がいっぱい』(2020年)の原作者でもあり、凄腕の諜報員ジェームズ・ボンドが日本で海女さんになるスパイアクション映画『007は二度死ぬ』(1967年)などの脚本も手掛けています。宮崎駿監督の『紅の豚』(1992年)で描かれる「飛行機の墓場」は、ロアルド・ダールの短編小説からインスパイアされたものです。
奇妙な味の小説で知られるロアルド・ダールの児童文学を、ティム・バートン監督が映像化し、ジョニー・デップが主演した『チャリチョコ』は、最上級におかしな才能たちが集まった珍作だといっても過言ではありません。しかも、大ヒットしたのですから、非常に稀有な作品です。
偏屈で、人間不信状態だったウォンカ社長は、厳格だった父親との間に軋轢を抱えています。これはティム・バートン監督自身の実体験を投影したものです。ティム・バートン監督も実家とは長い間ずっと疎遠になっていたのですが、当時の交際相手だった女優ヘレナ・ボナム・カーターに付き添われ、実家を久しぶりに訪ねました。
実家の壁には、ティム・バートン監督が撮った映画すべてのポスターが貼ってあったそうです。家族はティム・バートン監督のことを応援してくれていたのです。このときの体験が、『チャリチョコ』のラストには生かされています。
不気味だけど、面白い。そして、ちょっぴり感動も。『チャリチョコ』の扉を開くと、そこは夢と悪夢がぐるぐると渦を巻き、あなたが足を踏み入れるのを待っています。
(長野辰次)
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