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『スチームボーイ』BSで放映 大友克洋氏の「尋常でないこだわり」が詰まった描写とは

マグミクス / 2022年2月20日 8時10分

『スチームボーイ』BSで放映 大友克洋氏の「尋常でないこだわり」が詰まった描写とは

■マンガ&アニメ界に革命をもたらした『AKIRA』

「大友克洋以前、以後」という言葉があります。マンガ家、そして映画監督としても知られる大友克洋氏の登場によって、日本のマンガ界、そしてアニメーション界は大きく変わりました。大友氏の長編監督デビュー作となった劇場アニメ『AKIRA』(1988年)は、日本だけでなく世界中のカルチャーに今も影響を与え続けています。

 それまでは平面的だったマンガやアニメの世界を、大友氏は生身の骨格を持ったキャラクターたちや、構造を理解した上で描いた高層ビル群など奥行きのある背景によって、リアルに立体化してみせたのです。大友作品以降、音響面も大きく進化することになりました。

 マンガ界とアニメ界に一大革命をもたらした大友氏ですが、ファン待望の長編監督第2作となったのが産業革命期の冒険談『スチームボーイ』(2004年)です。2022年2月20日(日)の夜7時から、BS12の「日曜アニメ劇場」でオンエアされる『スチームボーイ』の見どころを紹介します。

■「サイバーパンク」から「スチームパンク」へ

 大友氏の代名詞ともなった『AKIRA』は「サイバーパンク」と呼ばれる近未来のSF作品でしたが、15年ぶりの長編アニメ監督作『スチームボーイ』は「スチームパンク」と称される近代を舞台にした物語となっています。

 19世紀中期の英国。蒸気機関車が走る鉄道が大きく発達し、科学技術が飛躍的に進歩していた時代でした。発明一家のスチム家に生まれた少年・レイ(CV:鈴木杏)は、祖父ロイド(CV:中村嘉葎雄)が送ってきた謎の金属球「スチームボール」を受け取ったことから、大事件に巻き込まれていきます。

 この「スチームボール」には超高圧の水蒸気が閉じ込められており、想像を絶する力を有していました。米国の南北戦争で両軍に同じ武器を売って巨利を得た「オハラ財団」は、レイの父親エドワード(CV:津嘉山正種)がロイドと共同開発した「スチームボール」を狙っています。一輪自走車に乗って逃げるレイと、「オハラ財団」が放った歯車メカ(自走蒸気機関)とのカーチェイスが始まります。

 物語中盤からは「オハラ財団」の令嬢であるスカーレット(CV:小西真奈美)、さらには巨大な「スチーム城」が登場します。「スチームボール」の力によって動く要塞となった「スチーム城」がロンドンに出現し、「第1回ロンドン万博」をパニックに陥れます。「スチーム城」の暴走を止めるため、レイは必死の抵抗を試みるのでした。

■見事に再現された「ロンドン万博」の水晶宮

製作が発表されている劇場アニメ『ORBITAL ERA(オービタルエラ)』のティザービジュアル。大友克洋氏が監督、サンライズが制作を担当する (C)KATSUHIRO OTOMO・MASH・ROOM/O.E PROJECT

 アニメ作品に登場する博覧会というと、庵野秀明監督の『ふしぎの海のナディア』(NHK総合)で描かれた1889年の「パリ万博」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。『スチームボーイ』で描かれる「ロンドン万博」は、それよりもさらに早い1851年の開催です。

 ビクトリア朝時代の大英帝国の国力を世界に向けて誇示したのが、この「ロンドン万博」でした。「ロンドン万博」のメイン会場となった水晶宮(クリスタル・パレス)が、『スチームボーイ』では見事に再現されています。大友作品ならではの、ディテール豊かな背景美術は大きな見どころです。

 万博会場を守るロンドン市警察、及び英国軍と「オハラ財団」が開発した蒸気兵団との交戦が、迫力たっぷりに描かれています。企画から作品の完成までに9年の歳月を費やした、大友氏の尋常ではないこだわりを感じさせるスペクタクルシーンとなっています。

■期待される大友氏の新作『ORBITAL ERA』

 ファンの多くは『AKIRA』で描かれた近未来の続きを見たがっていたこともあり、産業革命期の冒険談『スチームボーイ』は、期待されていたほどの興収結果を残すことはできませんでした。

 しかし、『スチームボーイ』には「科学や発明は誰のためのものか?」という普遍的なテーマが込められています。レイの父親・エドワードは「科学の力こそが、人々の生活を豊かにする」と信じ、そのデモンストレーションのために「スチーム城」を完成させたのです。一方、祖父のロイドは「科学に対する過信は、人類に不幸を招く」と警告します。祖父と父の対立に、レイは苦悩することになります。

 確かに産業革命は英国に大繁栄をもたらしましたが、その一方では貧富の差が広まるという「格差社会」も生み出すことになりました。明るい光ほど、暗い影が生じます。よく効く薬ほど、副作用も強くなります。産業革命期の問題点は、デジタル革命期にあたる現代にも共通するものだと言えるでしょう。

 大友氏は「マンガの神様」と呼ばれる手塚治虫氏の代表作『鉄腕アトム』の英題『ASTRO BOY』にあやかって、本作を『スチームボーイ』と命名しています。大友氏にとっても、日本におけるマンガ界&アニメ界の始祖である手塚治虫氏は特別な存在のようです。そう考えると、祖父・ロイドは手塚治虫氏、父・エドワードは大友氏自身、主人公であるレイはこれからのマンガ界&アニメ界を目指す若者たち……、と置き換えて観ることも可能ではないでしょうか。

 マンガとアニメに革命をもたらした大友克洋氏は、『AKIRA』完全版のアニメ化や近未来のスペースコロニーを舞台にした新作アニメ『ORBITAL ERA』の企画を準備しているそうです。どうやら、大友氏の革命はまだまだ進行中のようです。革命の行末には、どんな未来が待っているのでしょうか。

(長野辰次)

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