『ジュウレンジャー』放送30周年 海外進出も実現、ヒーロー番組の歴史を変えた作品
マグミクス / 2022年2月21日 7時10分
■原点回帰を目指しながら、新たな要素を追加
本日2月21日は、30年前の1992年にスーパー戦隊シリーズ第16作『恐竜戦隊ジュウレンジャー』が放送開始した日です。シリーズのターニングポイントにもなったといわれる人気作について振り返ってみましょう。
前年に放送されたシリーズ第15作『鳥人戦隊ジェットマン』は、その作風から本来のターゲットである子供だけでなく、戦隊シリーズを知らない大人たちにも好評だった異色作でした。そこで本作は逆に、本来の視聴者層である子供に向けた王道的展開を目指した作品となります。
しかし、単にこれまでやってきたことと同じことをするのではなく、当時の子供に向けた新機軸で製作を目指しました。それこそが、従来の戦隊でモチーフにしなかった「恐竜」です。ターゲットである男子層に恐竜のオモチャが人気だったことは過去の例からもわかっていたものの、どこか悪役のイメージがあったことが二の足を踏んだ原因でした。
ところが、時代的には恐竜ブームが近くに迫っていたのです。この翌年に公開されるスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』が、恐竜モチーフの要因のひとつとなったという発言もありました。
もっともファンにはよくネタにされますが、実際にモチーフになったものには哺乳類や実在しない生物もいて、完全な恐竜モチーフというわけではありません。これには、すべて恐竜にするとシルエットが似てしまうという事情があったそうです。
この他にも、本作にはもうひとつのモチーフが隠されていました。それが当時の人気ゲームだった『ドラゴンクエスト』をはじめとする「RPG(ロールプレイングゲーム)要素」です。ヒーローたちの持つ武器や敵側のモンスターを見ると、そのことは一目瞭然です。これを加えることで、本作は従来の戦隊シリーズになかったファンタジー要素を盛り込みます。
そのため、合体ロボもそれまでの「兵器」という形から、「主人公たちを導く神」という存在になりました。これは本作がシリーズではじめての試みになります。このように、単純に原点回帰させるのではなく、新しい要素でシリーズをリフレッシュするという点が本作の人気につながったのでしょう。
もちろん原点回帰された部分も多々あります。たとえば、ナレーションはシリーズ第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』から7本続けて担当した大平透さんを再起用。敵側のボスである魔女バンドーラは、特撮作品で悪役の多い曽我町子さんが演じています。この曽我さんの起用で敵側のイメージが独特の雰囲気を持つようになり、本作の魅力のひとつになりました。
また、それまでの「〇〇マン」といったタイトルを、原典である「〇〇レンジャー」とした点も見逃せません。それまでの「マン」は15作品中9作で、「レンジャー」は2作。圧倒的に「マン」が多かったのですが、本作をきっかけに「レンジャー」がほとんどを占めるようになります。以降の「マン」作品は、第22作『星獣戦隊ギンガマン』のみになりました。
■初めて海外に輸出された戦隊作品 制作手法には「苦肉の策」も…
「パワーレンジャー」シリーズの第1作『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー』は、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の一部映像と設定を輸出してアメリカで製作された。画像は同作のDVD-BOX(Shout! Factory)
このように、王道展開と新しさをほどよくミックスした本作は当初、それなりの数字を出したものの、ブームと呼ばれるほどの高い人気ではありませんでした。その停滞した雰囲気を一気に打破したのが、戦隊史上初の6人目のレギュラー戦士として登場したドラゴンレンジャーです。
ライバル要素のある敵として登場したドラゴンレンジャーは実験的な意味合いで投入されたキャラで、当初はゲストとして扱う予定でした。ところが、人気が期待できるキャラということで、早い段階からレギュラー化が決まったそうです。
こうしたスタッフの読みは的中し、ドラゴンレンジャーの搭乗するドラゴンシーザーや、専用武器である獣奏剣のオモチャは飛ぶように売れ、本作の人気を一気に押し上げました。こうして年間のオモチャ売り上げは90億円を超え、この高評価から戦隊シリーズでは6人目の追加戦士が定番化されます。
ちなみにドラゴンレンジャーの登場でタイトルの「ジュウ」が「10」であると噂され、さらなる追加戦士の登場がささやかれたことも当時ありました。スタッフはあらかじめそのことを懸念していたため、タイトルには「獣連者」と入れていたそうです。もっとも、後の恐竜モチーフのシリーズ第37作『獣電戦隊キョウリュウジャー』では、実際に10人の戦隊ヒーローが登場していました。
こうしてシリーズの新しいフォーマットをいくつか築いた本作ですが、その勢いは国内にとどまらず、シリーズ史上初の国外展開がなされることになります。それが『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー』。国外で展開するスーパー戦隊シリーズ「パワーレンジャー」シリーズです。
この海外進出は、単純に本作を輸出して放送するわけではありません。アメリカでは日本人だけが登場する作品が受け入れられないこと、攻撃方法の一部が暴力的に見えて放送コードに引っかかるなどの問題があったからです。
それでは全部作り直すのかというと、そこも問題で、アメリカで特撮部分を撮影すると日本の10倍ほどの予算がかかりました。時間的にも難しく、実際にアメリカ側が日本と同じモンスターの着ぐるみを作ると1年間で2体作るのがやっとだったそうです。
そこで、「特撮部分は日本のものをそのまま使い、ドラマ部分をアメリカで製作する」という折衷案となりました。このアイデアが上手くいって、アメリカでのオモチャ売り上げは初年度から10億ドルを超えたものになったそうです。
こうして本作がきっかけで海外進出を果たしたスーパー戦隊シリーズは、本作の数年前までささやかれた「シリーズ終了」の危機を脱し、現在まで続くロングランのきっかけとなりました。それだけに、本作がシリーズの中で果たした役割は大きなものだといえるでしょう。実際に、歴代戦隊の人気投票などでは比較的上位に位置することが多いのも納得できます。
最初は不安視されていた「恐竜」というモチーフも、戦隊シリーズだけでも本作を含めて4回も使用され、他の作品でも人気のモチーフとしてたびたび使用されるほど定番化されました。本作が果たした功績は単純にスーパー戦隊シリーズだけにとどまらず、さまざまな分野の歴史に大きな影響を残したといっても過言ではないでしょう。
(加々美利治)
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