OVAから大人気となったアニメ『天地無用！』　魅力的なヒロインと圧巻の作画を振り返る

マグミクス / 2022年2月26日 6時10分

■OVA（オリジナルビデオアニメ）が輝いていた時代

　1980年代後半から1990年代にかけて、数多くのOVA（オリジナルアニメビデオ）が発売され、大きなムーブメントを引き起こしていました。

　TVでアニメを放送する場合には放送枠を数千万円で購入する必要があり、表現規制も地上波のものが適用されます。それに対し、OVAは費用が安めで表現も比較的自由に描写できたため、多くの個人や会社が参入し、才能あるクリエイターが思う存分に腕を振るって数多くの傑作が生み出されたのです。

　なかでも特に有名な作品として挙げられるのが、「エヴァンゲリオン」シリーズで知られる庵野秀明監督の『トップをねらえ！』でしょう。高度なSF考証とケレン味のある巨大ロボットの組み合わせ、主人公・タカヤノリコをはじめとする登場キャラクターたちに襲い掛かる容赦のない展開は、多くのアニメファンに強烈な衝撃をもたらし、制作にあたったGAINAXの名を世に知らしめました。

　GAINAX以外にも多くの会社がOVAの制作／製作に携わっていましたが、なかでも大きな存在感を放っていたのが、AIC（アニメインターナショナルカンパニー）でした。1985年に『メガゾーン23』と『戦え！イクサー1』を送り出したのを皮切りに、『破邪大星ダンガイオー』『ブラックマジック M-66』『バブルガムクライシス』『吸血姫美夕』『冥王計画ゼオライマー』『極黒の翼バルキサス』などの伝説的な作品を次々と世に送り出し、その内の一部は後にTVアニメ化も果たしています。

　そんなAICが1992年に製作したのが、『天地無用！魎皇鬼』でした。80年代にもてはやされたハードSFの香りをほのかに残しながらも、主人公である柾木天地（まさき・てんち）が魎呼（りょうこ）や阿重霞（あえか）、砂沙美（ささみ）ちゃんに美星（みほし）さん、鷲羽（わしゅう）さんといった美女・美少女とともにドタバタハーレム生活を送る物語は、多くのファンから支持され大人気となったのです。

■『天地無用！魎皇鬼』は1990年代を駆け抜け現代へ

『天地無用！魎皇鬼』がアニメファンの心をとらえた要因のひとつとして挙げられるのが、映像クオリティの高さです。TVアニメに比べればまだスケジュールに余裕があるOVAは、基本的にクオリティが高い傾向にありましたが、なかでも『天地無用』の作画は抜きんでていました。これは当時、優れた画質・音質を持つレーザーディスクの普及に力を入れていたパイオニアLDCが製作に参加していたことが大きく、結果大きな成功を収めています。

　1994年の1期終了後にはすぐに2期も展開され、ほぼ同時期にTVアニメ化も実現。1996年には劇場版『天地無用! in LOVE』も公開されています。砂沙美ちゃんが魔法少女になる派生企画の『魔法少女プリティサミー』もOVA化、TVアニメ化を果たしており、この時期の『天地無用！』の勢いと影響力は、凄まじいものがありました。

　また、本作は声優が表に出て大々的に活動を行うようになった作品としても、強いインパクトを持っています。魎呼役の折笠愛さんや阿重霞役の高田由美さん、砂沙美役の横山智佐さんなど、人気声優の方々がラジオやイベントにひっきりなしに出演し、番組を盛り上げる大きな力となっていました。残念ながら高田由美さんは2010年ごろに表舞台から姿を消してしまったため、2014年のTVアニメ『愛・天地無用！』以降は七緒はるひさんが2代目阿重霞役を務めています。

　高田さんからは『クレヨンしんちゃん』のよしなが先生も引き継いでいる七緒さんが、配信で明かしたところによると、「当初は（よしなが先生役の）ピンチヒッターとして呼ばれましたが、高田さんの体調が戻らずそのまま引き継いだ」とのこと。今、高田さんがどうなっているのかは情報がありませんが、いつか元気な声を聞かせていただきたいと切に願います。美星さん役の水谷優子さんが鬼籍に入られているのも、残念でなりません（二代目は富沢美智恵さん）。

　2000年代に入って以降も、天地の後輩・山田西南を主人公とした『天地無用！GXP』やOVAの3期などが展開され、2014年には20周年プロジェクトとして『愛！天地無用！』が放送されるなど、「天地無用！」シリーズの歩みは続いています。OVAも2020年から2021年にかけて第伍期が展開されており、天地をめぐるヒロインたちの境遇にも決着がついています。

　第伍期はすでに配信も開始されていますので、「そういえば、魎呼とか砂沙美ちゃんってどうなったのかなあ」と気になった方は、一度見てみることをお勧めします。筆者が「そんなんありか！？」と驚愕した展開が、あなたを待ち受けていることでしょう。

（早川清一朗）