俳優・声優の納谷悟朗さん御命日 銭形警部を演じるきっかけは意外なところに
マグミクス / 2022年3月5日 6時10分
■西部劇から悪の首領まで独特の声質で印象を残す
3月5日は2013年に亡くなった俳優・声優の納谷悟朗(なや・ごろう)さんの御命日です。そこで、生前のご活躍の一部をアニメ作品中心に振り返ってみましょう。
北海道生まれの東京育ちだった納谷さんは、京都の大学に進学しました。そこで演劇部から標準語の方言指導を頼まれたことが縁で、芝居の面白さを知ったそうです。このことがきっかけで大学卒業後に劇団入りして、舞台で役者デビューを果たしました。
その後、洋画のTV放送での「アテレコ」で声の仕事をはじめたそうです。当時は声だけということで普通よりギャラが安かったそうですが、拘束時間も短くて本数をこなせたことから納谷さんは納得していました。また、当時のアテレコは生放送だったのでタイミング取りはむずかしかったそうですが、この苦労により声の仕事に関してのスキルが上がったのかもしれません。
その重さを感じる声質は独特なもので、本人公認の専属声優だったチャールトン・ヘストンや、ジョン・ウェイン、リー・ヴァン・クリーフなど、洋画のなかでも西部劇にはよく出演されていた感じがします。
そんな納谷さん、TVアニメは第1作となる『鉄腕アトム』(1963~1966年)から出演していました。筆者が覚えている最古参のレギュラーキャラは『サスケ』(1968年)の服部半蔵です。この時期ですと、『どろろ』(1969年)の醍醐景光も印象に残るキャラでした。
そして、筆者と同世代の人が納谷さんの声を覚えた作品と言えば、『仮面ライダー』(1971~1973年)に登場したショッカーの首領でしょうか。悪の組織の頂点にいる絶対的存在を思わせる首領の声は、納谷さんだから印象的なものになったと思います。
この首領の声はその後の作品でも続けて演じていて、『仮面ライダーストロンガー』(1975年)のデルザー軍団の大首領が7人ライダーに言った「それぞれワシの声に聞き覚えがあるのではないか?」という名セリフにつながっていました。その後も仮面ライダーの敵として何度も首領役を演じ、昭和ライダー最大の敵というポジションを確立しています。
他にも『変身忍者 嵐』(1972年)の血車魔神斉、『ザ・カゲスター』(1976年)のドクター・サタン、『超神ビビューン』(1976年)のガルバーなど、東映特撮番組で悪のボスを演じることが多く、筆者世代には悪の首領として声だけでひれ伏してしまうイメージがあります。
これとは真逆に、円谷特撮番組の『ウルトラマンA』(1972年)ではウルトラマンエース、『ジャンボーグA』(1973年)ではエメラルド星人という正義側のキャラも演じていました。
■『ルパン三世』で銭形警部ではないキャラにキャスティングされていた?
「EMOTION the Best 宇宙戦艦ヤマト 完結編」(バンダイビジュアル)
アニメに話を戻すと、納谷さんの悪役はそれほど多くありません。印象的だったのは『六神合体ゴッドマーズ』(1981~1982年)のズール皇帝くらいでしょうか。どちらかというと、筆者には老骨ながら頼もしいイメージがありました。
なかでも『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)の沖田十三艦長は、日本アニメの転換点となった作品だけに注目度も高く、名セリフも多いことで知られています。筆者と同世代であれば「地球か……何もかもみな懐かしい」と、マネをした人も多いことでしょう。
また、納谷さんがナレーションを担当した作品は印象深いものが多くありました。『愛の戦士レインボーマン』(1972年)、『新造人間キャシャーン』(1973年)、『仮面ライダーアマゾン』(1974年)など、納谷節ともいえる語り口調が独特なものでした。
そして、そんな納谷さんの代表作と言えば、「ルパン三世」(1971年)シリーズの銭形警部と答える人も多いことでしょう。
実は納谷さんは製作当初、石川五ェ門役にキャスティングされていました。それは納谷さんが一番ハードボイルドな演技ができるからだったそうです。しかし、納谷さんは「セリフが少ない」からという理由で、銭形役を自ら希望しました。
原作マンガに比べて銭形にギャグが多いのも納谷さんの発案だそうで、わざとダミ声で演じていたことなど、銭形というキャラをより魅力的に作ったのも納谷さんの功績です。もしも、納谷さんが当初の予定通り、五ェ門を演じていたら『ルパン三世』どころか日本のアニメの歴史も大きく変わっていたことでしょう。
納谷さんは2010年放送のTVスペシャルまで39年の間、銭形を熱演し、これは2021年に惜しくも勇退した次元大介役の小林清志さんに次ぐ長さになります。
初代ルパン三世役だった山田康雄さんとは吹き替え作品でも共演が多かったことから大変に仲が良く、よく一緒にお酒を飲んでいました。それゆえ、1995年に山田さんが亡くなった際、葬儀で弔辞を読んだそうです。その時、銭形の口調で「おい、ルパン! これから俺は誰を追い続ければいいんだ!」と、涙ながらに遺影に語りかけました。
その納谷さんが亡くなった時、そのお別れ会で山田さんからルパン役を引き継いだ栗田貫一さんは、ルパンの口調で「とっつあん、さみしいねぇ、ずっと追いかけてもらいたかったぜ」と惜別の言葉を送ったそうです。
ルパンと銭形の不思議な縁はアニメの世界から飛び出て現実のものとなった。そんな風に思えるエピソードです。
もちろん、生前の納谷さんが命を吹き込んだキャラは他にもいますので、これからも残されたそのお声を聴かせてもらえればと思います。
(加々美利治)
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