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『宇宙刑事ギャバン』40周年 TV特撮の「逆境」を打ち破った、画期的な試みとは?

マグミクス / 2022年3月5日 12時10分

『宇宙刑事ギャバン』40周年 TV特撮の「逆境」を打ち破った、画期的な試みとは?

■時代の逆風に挑んだ新機軸、第1話は気合が入りすぎて…

 本日3月5日は、40年前の1982年に『宇宙刑事ギャバン』が放映開始した日です。本作は、それまでの日本の特撮TV番組になかった新機軸の作品として好評価を得ました。

 この時代、『ウルトラマン80』(1980年)と『仮面ライダースーパー1』(1980年)があいついで終了したことで、第3期ウルトラブームと第2期仮面ライダーブームも終焉を迎えていました。その反対に『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)に続いて『機動戦士ガンダム』(1979年)の大ヒットでアニメ作品全体の人気が盛り上がり、「アニメブーム」と呼ばれる時代が到来します。

 また、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980年)の大ヒットも話題になりました。その映画ならではの本格的な特撮シーンは、それまでのTV特撮と比べられ、多方面からTV特撮番組は酷評を受けます。そのなかで唯一、人気を博していたのが「スーパー戦隊シリーズ」でしたが、このままでは特撮TV番組は衰退していくのを待つばかり……という状況でした。

 そこで、これまでにないヒーローを誕生させるために動き出した企画が『宇宙刑事Z』、後のタイトルは『宇宙刑事ギャバン』です。きっかけとなったのは、ポピー(現在のバンダイ)の村上克司さんの描いたプライベートイラストだったそうです。金属質のボディに剣を持ったヒーローの絵を見た東映の吉川進プロデューサーは、まったく新しいヒーローを作り出すことを決意しました。

 この企画で特筆すべき点のひとつが、従来ならば実績のある石ノ森章太郎さんを中心にデザインを進めるところを、あえて外したことです。その代わり、出版社を通じてさまざまな分野の方を登用したそうです。それまでのヒットメーカーを外して新風を取り入れたことで、本作は過去にない新しいヒーロー像を構築しました。

 宇宙刑事といえば、そのメタリックなボディが目を引きます。この真空蒸着メッキといわれる技術が、その後も続くことになる「メタルヒーローシリーズ」の重要なポイントにもなりました。この「蒸着」をそのまま変身コードに使用するセンスも、本作の魅力でした。

 しかし、このメッキのボディには太陽光線や人工照明の照り返しが大きく、撮影が困難になるという欠点もあります。そこで考えられたのが「魔空空間」でした。この設定により、最終的な戦いの場はスタジオになります。また、この設定がさまざまな場所へつなげる不条理さや、作品自体の映像効果といった本作シリーズ独特の世界観構築に役立ちました。

 そして、タイトルが「ギャバン」となった理由は、商標登録上、他の商標と一緒にならないようにするために長い名前になることを避けたかったからだそうです。この外国人俳優の名前を引用するパターンは、宇宙刑事シリーズ以降も続けられました。

 当時はまだ実験的に使われていたビデオ合成をふんだんに使い、積極的に新しいものを取り入れた本作は予算も通常以上に使われたため、失敗すれば二度と新規のTV特撮ヒーロー番組は作れなくなるという、背水の陣で挑んだそうです。

 その結果、力が入りすぎたのか第1話は1時間を超えるボリュームになりました。そのため、30分番組にカットするための編集が大変だったそうです。今だったらディレクターズカット版が発売されていたかもしれません。

■視聴者の心を動かした、俳優の熱気とアイデア

ギャバンのメタリックボディを再現した、「S.H.フィギュアーツ 宇宙刑事ギャバン」(バンダイ)

 本作の主人公であるギャバン/一条寺烈を演じたのが、当時の人気アクション俳優だった大葉健二さんでした。大葉さんは『バトルフィーバーJ』(1979年)、『電子戦隊デンジマン』(1980年)と、2年にわたって戦隊メンバーを演じていて、当時のファンからは評価の高い俳優のひとりだったと思います。

 しかし、主役への起用には反対意見も多くあり、最終的に吉川プロデューサーが反対意見を押し切って登用しました。しかし、テレビ局側からは「視聴率が2ケタに届かなかった場合はクビ」と言われたそうです。

 それを聞いた大葉さんは作品に「命を懸ける」決心をして、危険なアクションにも果敢に挑戦しました。その熱気が画面にも伝わったのか、大葉さんの激しいアクションシーンは子供たちの注目の的となります。視聴率も前番組を超えて、同時間帯で1、2を争うほどの好成績でした。

 ちなみに「蒸着」のポーズは大葉さんが考案したものだそうです。しかし、シンプルで短いものだったことから、ファンサービスとして変身シーンを長くするため、変身後の見えきりシーン、連続写真風のポージングカット、ナレーションによる「宇宙刑事ギャバンがコンバットスーツを蒸着するタイムはわずか0.05秒にすぎない……」というおなじみの流れが誕生しました。これにより、宇宙刑事の定番フォーマットのひとつが確立しました。

 ヒロインであるミミー役を演じた叶和貴子さんは当時からドラマでも人気のあった女優で、本作出演以降に本格的なブレイクを果たします。そのためか、放送当時の大葉さんにアンチレターが送られてきました。しかし、大きな問題になると困るので、プロデューサーと相談の上、当時は秘密にしていたそうです。

 この他にも、本作の見どころのひとつといわれているのが音楽でした。作曲は多くのアニメ・特撮作品を手がけた渡辺宙明さん。特筆すべきはクライマックスのレーザーブレード使用シーンに流れる曲でしょう。一部のファンからは「処刑音楽」とまでいわれる、お約束のBGMです。この曲が好評だったことから、後の宇宙刑事シリーズはもちろん、他のアニメ作品でも似た曲調が使用されるほどでした。

 余談ですが、OP曲の途中に入る叫び声は、放送当時の歌詞には省略されることが多く、ファンは雰囲気で何となく叫んでいました。筆者の場合は「フィー!フィー!」です。しかし、最近では表記されるようになり「ビーム!」ということが判明しました。みなさんはどんな感じで歌っていましたか?

 本作は大好評のまま最終回を迎え、次回作『宇宙刑事シャリバン』(1983年)へとつながりました。これにより本作は宇宙刑事三部作、そして90年代まで続く「メタルヒーローシリーズ」というコンテンツの第1号作品となります。

 もしも、それまでの壁を打ち破った本作が誕生しなければ、日本の特撮TV番組は現在まで続いていなかったかもしれません。それはおそらく、日本どころか世界の歴史まで変わっていた可能性だと思いませんか?

(加々美利治)

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