現実社会を投影してきた映画『バットマン』 明るいヒーローから偏屈キャラへと変身
マグミクス / 2022年3月10日 18時10分
■ハリウッドスターが演じてきた歴代バットマン
アメコミ生まれの覆面ヒーローが犯罪者たちと戦う『バットマン』は、ハリウッド映画を代表する人気シリーズとなっています。新作実写映画『THE BATMAN ザ・バットマン』は、主人公のブルース・ウェインことバットマンを、若手俳優ロバート・パティンソンが演じることで話題です。2022年3月11日(金)より劇場公開が始まります。
マスク越しに見えるあごの形も凛々しい新バットマンが戦うのは、知能犯のリドラー(ポール・ダノ)です。殺人事件の現場に「手掛かり」を残すリドラーのキャラクターは、実在した連続殺人犯のゾディアックを参考にしたそうです。これまでの「バットマン」シリーズとは雰囲気が異なる、ミステリータッチの作品となっています。
ブルースは事件の真相を追ううちに、ゴッサムシティ全体を覆う腐敗構造を知ることになります。キャットウーマン(ゾーイ・クラヴィッツ)も登場し、物語の行方は二転三転します。上映時間は2時間56分という大長編です。
今回は、マイケル・キートン、クリスチャン・ベール、ベン・アフレックら、さまざまなハリウッドスターたちが演じてきた映画『バットマン』の歴史を振り返ります。
■リドラーではなく、「ナゾラー」だったオリジナル版
オールドファンにとって懐かしく感じられるのは、初の長編映画『バットマン オリジナル・ムービー』(1966年)ではないでしょうか。『怪鳥人間バットマン』のタイトルで日本でも放映されたTVシリーズの劇場版です。主演俳優アダム・ウェストの日本語吹き替えを、広川太一郎さんが担当していたことでもおなじみです。
大富豪のブルース・ウェインは、事件が起きるやいなや「正義のヒーロー」バットマンに変身。地下洞にある秘密基地に格納されたバットカーに乗り、凶悪犯に立ち向かいます。相棒のロビンも一緒です。
劇場版ではジョーカー、ペンギン、リドラー(日本語版ではナゾラー)、キャットウーマンが極悪同盟を結成し、バットマンを苦しめます。カラフルな衣装を着たジョーカーらは、犯罪者というよりは悪ふざけする陽気なおじさんたちでした。バットマンもキャットウーマンが仕掛けたハニートラップに、あっさりと引っ掛かってしまうダメンズぶりを見せています。
「POW!」「ZWAPP!」
アクションシーンにはそんな英語の吹き出しが躍る、ポップでコミカルな作品でした。いかにも低予算なB級映画ですが、明るく軽快なノリは今も忘れられません。
■ヒーローよりも魅力的なヴィラン(悪役)たち
ヒース・レジャー演じるジョーカーが強烈な印象を与えた、『ダークナイト』DVD(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)
バットマン=正義のヒーローというイメージを一変させたのは、ティム・バートン監督です。マイケル・キートンを主演に起用したティム・バートン版『バットマン』(1989年)は、プリンスによるサントラ「バットダンス」とともに世界的大ヒットとなります。
ティム・バートン監督が復活させた『バットマン』は、ダークファンタジー色の強い作品になりました。主人公のブルース・ウェインは、内向的な性格です。フランク・ミラーが1986年に出版した大人向けのコミック『バットマン:ダークナイト・リターンズ』の影響も受けていますが、ティム・バートン監督自身の内面が投影された人物造形だと言えるでしょう。
素顔のブルースは、人づきあいが苦手です。仮面を被ったバットマンに変身し、犯罪者たちと戦うことにブルースは生きがいを感じています。さっそうとしたヒーローではなく、かなりの偏屈キャラです。
ティム・バートン監督がさらに愛情を注いだのは、続編『バットマン リターンズ』(1992年)でした。ペンギン(ダニー・デヴィート)、キャットウーマン(ミシェル・ファイファー)、バットマンが三つ巴バトルを繰り広げることになります。
親から愛されなかった哀しい生い立ちを持つペンギン、職場でのパワハラに悩むキャットウーマンに、比重が置かれた作品です。ヒーローよりもヴィラン(悪役)に観客は感情移入してしまうという、「バットマン」シリーズの倒錯的な世界観がこの作品から確立されることになります。 キャットウーマンのボンテージファッションも、インパクト大でした。
■ヒース・レジャーが熱演した『ダークナイト』
ジム・キャリーがリドラー役を演じたヴァル・キルマー主演作『バットマン フォーエヴァー』(1995年)、ジョージ・クルーニー主演作『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997年)を経て、シリーズ決定版となったのがクリストファー・ノーラン監督による「ダークナイト」三部作です。
カメレオン俳優の異名を持つクリスチャン・ベールが主演した『バットマン ビギンズ』(2005年)に続き、センセーショナルな話題となったのが『ダークナイト』(2008年)です。バットマンの宿敵であるジョーカーをヒース・レジャーが大熱演。ヒース・レジャーの徹底した役づくりは鬼気迫るものがあり、アカデミー賞助演男優賞に選ばれています。
しかし、ヒースは授賞式に出席することはできませんでした。薬物の過剰摂取により、映画の完成前に急逝していたのです。28歳という若さでした。
その後、『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)では、ベン・アフレックがバットマンに扮しています。かつては明るくコミカルなイメージのあった『バットマン』ですが、時代とともにバットマンのキャラは複雑化し、物語もひと筋縄ではいかないものになってきました。格差社会が犯罪王ジョーカーを生み出したことを描いた『ジョーカー』(2019年)がヒットしたことも、記憶に新しいところです。
映画は現実世界の「写し鏡」だと言われています。ゴッサムシティという架空の街を舞台にした「バットマン」シリーズですが、凶悪犯罪が多発する現代社会を投影した世界でもあるようです。
(長野辰次)
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