40年前、『ガンダム めぐりあい宇宙』公開の熱狂 セイラ入浴シーンで盗撮も…
マグミクス / 2022年3月13日 6時10分
■劇場版第1作、第2作を超えたクオリティ
本日3月13日は、40年前の1982年に劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編』が公開された日です。ガンダムシリーズ第1作『機動戦士ガンダム』の最後の物語となる本作について、当時の出来事を交えて振り返ってみましょう。
富野由悠季(当時は富野義幸名義)監督の発案により、TV版の分割編集という前代未聞の展開で公開が決まった『ガンダム』の映画化。当初のアイデアでは4部構成にして、最後にTV版の打ち切りでカットされたエピソードを加えることも考えられました。
しかし続編自体、劇場版1作目の興行次第……という配給元・松竹のスタンスは変えられず、先の見通しがつかなかったことから3部構成でスタートすることになります。さらに劇場版1作目から連番を示す「I」と、サブタイトルをつけることを富野監督は望んだそうですが、それも許されませんでした。
ところが、劇場版第1作は前売り券発売の時点で大ヒットが予想される好評で、公開前に第2作の制作が決まります。そして、1981年3月14日に全国松竹系にて公開された第1作『機動戦士ガンダム』は9億3700万円の配給収入を叩き出しました。
こういった経緯から、次なる大ヒットが確定的となった劇場版第2作『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』は、第1作以上のフィーバーぶりでマスコミでの扱いも大きくなり、関連商品も大幅に売り上げを伸ばします。そして1981年7月11日に公開され、配給収入は7億7000万円をあげました。
そして、いよいよ最終作となる本作『めぐりあい宇宙』の公開となります。本作はそれまでのTV版の再編集作品に過ぎなかった前2作に比べて、大幅に手を加えられた映画として生まれ変わりました。
まず、新作カットの量。本作の新規作画シーンは75%におよんでいます。これにはTV版の時、病気により途中で倒れたキャラクターデザイン担当の安彦良和さんのリベンジという理由もありました。その結果、TV版はもちろん、劇場版前2作をも上回る作画クオリティになります。
さらにTV版では安彦さんがキャラデザインできなかったフラナガンをあらためてリファインし、小説版が初出でTV版には出ていないダルシア・バハロ首相や、ギレン・ザビの秘書であるセシリア・アイリーンをデザインしていました。
この安彦さんの新規作画シーンは公開前から評判が高く、アニメ雑誌などで紹介されるたび、「今度の劇場版はオール新作なのでは?」と、ファンが誤解するほどに期待値を上げます。この劇場版の予告編を見るためだけに映画館前のモニターを飽きもせず見ていた人も多くいました。もちろん当時の筆者もそのひとりです。
この他にも、TV版のようにオモチャのセールスを気にしないでよくなかったことから、宇宙戦に似合わないガンタンクをオミットして、2機のガンキャノンを登場させました。それぞれ「108」と「109」のマーキングを加えた本作だけの仕様で、これは小説版からの設定になります。
さらに前作『哀 戦士』からGファイターに代わって登場することとなったコア・ブースターも「005」と「006」というマーキングがされました。こういったTV版では作画の関係でオミットされていた細かい描写が加わったことで、劇場版の作画密度は格段に上がっていたといえるでしょう。
■ファンがおどろいた新規作画の数々
『めぐりあい宇宙』でアムロを追い詰めた、シャアが駆るMS・ジオング。画像は2020年に発売された、「RG 機動戦士ガンダム ジオング 1/144 色分け済みプラモデル」(BANDAI SPIRITS)
ここからは当時の筆者目線でのお話です。
いよいよ最後の劇場版『ガンダム』が観られる……という気持ちと同じくらい、もう最後になるのかという寂しい気持ちもありました。思えばTV版が終了して2年間、『ガンダム』をずっと追っていたので感傷的にもなります。
寂しいといえば、それまで恒例だった、先着で用意されていたセル画の配布もこのときはありませんでした。事情はわかりませんが、近くの映画館は配布対象から外れたそうです。
しかし、セル画がもらえなくても徹夜して公開日初日に見に行くという点は変わらず、半年に一度の恒例行事になっていました。並んでいる最中も話すことはほとんど『ガンダム』の話ばかり。時折、次の夏映画に予定されていた『伝説巨神イデオン』と、TV放送が始まったばかりの『戦闘メカ ザブングル』も話題になっていました。
そんなことを話している間に時間はあっという間に過ぎ、いよいよ劇場内へと入ります。当時の映画館ですから、座席に座れなくても詰め込むだけ詰め込むということが行われました。立ち見はもちろん、座席の間の階段に直座りする人もいて、今思えばいろいろとアウトな状況でした。
そして、『めぐりあい宇宙』の上映が始まります。冒頭からいきなりドレン率いるキャメル艦隊との戦いで、すぐに戦闘シーンが始まる展開の速さに誰もが引き込まれました。以後、新作カットでは時おり声が上がるのですが、その反応がみんな同じところで、筆者は不思議な一体感のようなものを感じます。
たとえば、裁縫するミライ・ヤシマの持つブライト・ノアのシャツにサンライズのマークがついていて「クスッ」とする声があったのですが、これは当時、制作会社である「日本サンライズ」が会社のロゴマークを発表したばかりだったことが起因しています。その後の世代の方には意味不明の小ネタですね。
また、マナー違反だったのですが、カメラ撮影する人たちも何人かいました。特にセイラ・マスの入浴シーンは、待ってました!といわんばかりのシャッター音が聞こえてきて、不快だったのをおぼえています。
新作カットでリアクションがあったのは、やはりキャラよりもメカが多く、ア・バオア・クーの戦場に登場しないと思っていたビグロがいたほか、マシンガンを持った旧ザクの登場、ホワイトベース所属以外の3機目のガンキャノンなど、まさかのサプライズの連発でした。こういったメカの細かい描写は、当時はガンプラブームだったことから良いファンサービスだったと思います。
そのなかでも、中隊長機のツノ付き緑ザクというレア機はビックリしました。その後のザクの一般機とのやり取りはドリフのコントみたいで場内の笑いを誘っていたのを今でもおぼえています。
そして、いよいよ感動のラストシーンを迎え、スタッフロールとなるのですが、ここで出てきたグワジンの艦橋にシャアの影が見えた場面がある意味、最後で一番いいところを持って行った感がありました。何せ見終わった直後の話題が、「シャアが生きていた」……でしたから。
エピソードの順番やセリフもTV版と大きく異なっていた部分もあり、ある意味では富野監督がやりたかったTV版『ガンダム』のリファインはできた作品だったと思います。その完成度はファンを大いに満足させただけでなく、同年公開のアニメ映画では第1位となる12億9000万円の配給収入を記録、ガンダムブームは有終の美を飾ることになりました。
(加々美利治)
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