かわいいけど「考えさせられる」ストップモーションアニメ映画3選 「中年の危機」テーマも…
マグミクス / 2022年3月19日 18時40分
■実話をもとにした切ないクレイアニメ
静止物体を少しずつ動かしながらコマ撮り撮影をしていくストップモーションアニメは、とてつもなく手間のかかるアニメーション手法です。
完成までに数年を要することも当たり前の世界ですが、単にアニメーションとして手間がかかっているだけでなく、ストーリーもメッセージ性も深い射程を捉えている「大人にこそ見てほしいストップモーションアニメ映画」を紹介します。
●『メアリー&マックス』
メルボルンに住む少女・メアリーは友達がおらず、両親からもネグレクト気味。ニューヨークでひとり暮らしをしている中年男性のマックスアスペルガー症候群……孤独を抱えたふたりの20年にわたる文通を通して描く、奇妙かつ心温まる友情物語です。アヌシー国際アニメーション映画祭で、最優秀長編作品を受賞するほどの高評価を受けました。
アダム・エリオット監督が少年時代から文通をしていたニューヨークの友人との体験ををベースにしており、彼はその物語を独特なクレイアニメーションで表現しています。133個のセット、212個の人形、475個のミニチュア模型を使って、キャラの細かい表情、メルボルンとニューヨークの風景もそれぞれ再現、1年以上の気の遠くなるような作業を経て完成されました。
クレイアニメらしい動きやキャラデザのかわいらしさと同時に、時折ぎょっとするような容赦のない展開もあって、かわいいアニメとして見ていると急に心をえぐられます。孤独な人間が見ている世界や、ある出来事があってからのふたりの現実の見え方も、クレイアニメならではの表現でしっかり可視化しており、細かいところまで楽しめる作品です。
相手のためを思ってしたことがその人を傷つけることもある、自己評価がもともと低い状態で何かを成し遂げると、人一倍増長してしまう……というような、人生の苦くてリアルな一面も描いており、人生を重ねて見返すとより味わい深くなります。
「他人を愛するにはまず自分自身を愛せ」「家族は選べないけど友人は選べる」など、現実を生きるのに役立つ金言も詰まった名作です。さまざまな障害を乗り越えて訪れる、切なくも優しいラストは涙なしでは見られません。
■お父さんギツネの「中年の危機」を描いたストップモーションアニメ
母親に先立たれて児童養護施設に行く少年が主人公の、『ぼくの名前はズッキーニ』ポスタービジュアル (C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016
●『ファンタスティック Mr.FOX』
人生が上手くいかない人びとのもがきを、おしゃれなカメラワーク、美術、衣装、音楽でポップに描くウェス・アンダーソン監督が、初めてストップモーションアニメ映画に挑戦した作品です。『ジャイアント・ピーチ』『チャーリーとチョコレート工場』などの原作でも知られる作家ロアルド・ダールの児童文学「父さんギツネバンザイ」の映画化です。
若いころは泥棒として野性的に生きていたMr.フォックスは、妻の妊娠をきっかけに裏社会から足を洗い、新聞記者として堅実に生きていました。そんなある時、穴倉の家からもっといい生活に移りたいと思ったフォックスは、丘にある家を購入。しかし、その丘の向こうに意地悪な農場主3人が住んでいるのを知ったフォックスは、泥棒の血が騒ぎ、妻に隠れて昔のようにニワトリや作物の盗みを再開してしまいます。そして、農場主たちの怒りを買ったフォックス一家はとんでもないピンチに……。
細かい毛並みの動きまで表現した人形アニメーションのちょっとした動きやウィットに富んだ会話、人間らしく振舞っていても喧嘩シーンでは思いっきり野生に戻ってしまうおかしみなど、細かい遊び心だけでずっと見ていたくなるような世界観です。細部にこだわって作っている一方、ある作戦で穴を掘り進めていく場面では、あえて雑な動きでその工程を大胆に端折ってみせるなど、随所に監督のセンスが光ります。
安定した生活と平穏を手に入れた一方で、だんだんと自分のなかで「野性(冒険心や男としての自信)」が失われていくというMr.フォックスの悩みは、いわゆる「中年の危機」とも重なり、大人が見てこそ共感してしまうのではないでしょうか。
いつまでも大人になり切れない夫を心配し、ハラハラしつつも、彼が「野性」を取り戻すとちょっとときめいてしまうMrs.フォックスの姿もなんだかリアルです。家族のために無難に生きるか、若さを失わずに冒険に生きるか。そんな普遍的な問題にちょうどいい落としどころをつけるラストまで、粋でおしゃれなアニメとして楽しめます。
●『ぼくの名前はズッキーニ』
9歳の少年・イカールは、酒に溺れるシングルマザーの母から「ズッキーニ」と呼ばれ、放置されながら育っていました。ある時、イカールの過失により、母が事故死。彼は児童養護施設に引き取られ、同じような境遇の子供たちのなかで最初は上手くなじめませんが、だんだんと打ち解けていきます。
同作のクロード・バラス監督は、大人向けの小説だった原作を、虐待を受けていたり、孤独な子供たちの希望になるようにと、親しみやすいパペットアニメーションで描くことを選択。54体の人形を使い、デジタル処理も含めて2年の歳月をかけて制作しました。
実際の子どもたちの演技を撮影し、1フレームずつ動きをトレースしていく「ロトスコーピング技法」を使用しており、素朴でかわいいキャラデザのアニメーションながらも、ハッとするようなリアルな映像を作り出しています。目の周りの輪郭をくっきりとさせた人形も特徴的で、「目は口ほどにものを言う」を地でいく繊細な演技が特徴です。劇中でちゃんと子育てをしているのが、施設の庭に巣を作っている鳥だけ……というような細かい演出も光ります。
親や親族たちと血のつながりがあるからといって分かり合えるわけではない、逆に赤の他人でも深い絆を得られる……という希望を持てるメッセージも伝わりますが、それが永遠に続くわけではないというシビアな視点も持っており、見ている間ずっと考えさせられる作品です。最後にもうすぐ親になるある人物に、施設の子供たちがぶつける素朴かつ核心を突く質問が忘れられません。
今回紹介した3作は、いずれも1時間半程度で見られる短い映画ばかりです。短い時間に技術の粋と、深いメッセージがギュッと詰め込こまれているので、ぜひ一度ご覧になってください。
(マグミクス編集部)
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