実写「ハガレン」続編が話題に!実写化映画の大事なポイントを歴代成功作から考察
マグミクス / 2022年4月7日 17時10分
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■サプライズだった『ハガレン』実写映画の続編発表
2022年3月2日、連載20周年を記念して『鋼の錬金術師』の実写映画の、新プロジェクトが発表されました。
これまでに2度のテレビアニメ化に2本の劇場アニメ、そして2017年には山田涼介さん主演で実写映画も制作された人気作『鋼の錬金術師』。その実写版の続編が公開されるというニュースは、多くの人にとってサプライズだったことでしょう。
このニュースに対する反応は、悲喜こもごもというか、原作ファンや山田さんファンも複雑な胸中を吐露するものが多かったように思います。本作に限らず近年、漫画やアニメを実写映画化企画は数多くあり、そのなかには興行的、批評的に成功した作品もあれば、そうでないものもあります。果たして、どういうタイプの企画が成功し、さらには続編まで制作されることになるのか、過去作の傾向から考察します。
●そもそも「実写」ってどういう表現なのか
実写化の成功要因を考えるためには、まず「実写」とはどういう特徴のある表現手法なのかを考えた方がいいでしょう。
実写とはなんでしょうか。実はきちんと定義されているとは言い難いですが、あえて言えば、「カメラで実際の風景や人物を撮影した映像」となります。近年はディズニーの実写版『ライオン・キング』のように全編CGで作られた作品もあり、必ずしも実際に撮影されているとは限らないので、この辺りの基準は曖昧になりつつあります。
とはいえ、映像が発明されて以降、カメラは絵画などの既存の表現と異なり、人の主観を介さずに機械的に世界を切り取れるものとされ、映画批評もこの点を重視してきました。だからこそ、リアルを追求した映画は賞レースなどで評価されやすいのです。
反対に、アニメも漫画も人の手でゼロから描かれるもの。つまり、実写は世界を切り取るもので、漫画やアニメは世界をゼロから作るものということになります。
したがって、ゼロから作った漫画の世界を実写化する時には、その世界をしっかり作り込んで切り取るという形にする必要があります。この時、有利な企画はファンタジーやSF要素のない、現実世界を舞台にした作品群です。例えば実写版が3本作られた『ちはやふる』は実在するスポーツが題材ですし、その他に実写の続編が作られた『かぐや様は告らせたい』のような学園ラブコメ系、ヤンキー系の『クローズ』などもこれに当てはまります。
ちょっと話が逸れますが、近年、マーベル映画が世界的にヒットしているのも、現実世界をベースにしているという点が大きいと思っています。完全にファンタジー世界にするのではなく、自分たちの生きているこの世界にヒーローがいると仮定して、世界を切り取るという見せ方をしているのです。DC映画で成功している『ダークナイト』シリーズや『ジョーカー』も、かなり現実的な世界観に設定しており、同じような方向性と言えます。
■実写化成功の秘訣は「血だけ抜いてくる」?
『ザ・ファブル』キービジュアル (C)2019「ザ・ファブル」製作委員会
日本の映画に話を戻すと、こちらも続編の公開が決まっている『キングダム』の成功は実際に中国ロケをして、大量のエキストラを動員できたことが大きな要因でしょう。本物のロケ地で中国の春秋戦国時代を再現し、まさにカメラで切り取ることに成功しているわけです。
2021年に5作目で完結を迎えた実写版「るろうに剣心」シリーズも、時代劇のセットやロケ地を活用して、実写の明治時代を切り取ることに上手く成功していました。当時の文化・風俗を見せているのも上手い点です。剣心たちが歌舞伎を観ているシーンやお団子を食べているシーンがありますが、ああいう描写があるだけで、本当にキャラクターが世界の中で生きていたという実感が湧きます。また、『るろうに剣心』は、原作の超人的な動きも、CGではなくワイヤーワークと役者の身体能力でカメラの前に生み出すことを徹底しています。まさに「実写」の表現、カメラで世界を切り取ることにこだわって作られているのです。
こちらも実写2作が大ヒットした『銀魂』は、原作自体が異色の内容で、他の実写化作品とは条件の異なる作品と言えますが、時代劇でもよく使われる撮影所とロケ地をベースにできたことは成功要因として大きいと思います。SFと時代劇が混ざったかなりフィクション度の高い内容と世界観ですが、ベースのロケ地の実在感が、作品の土台にリアリティを与えていました。さらに、ディテールがある程度ゆるくても許される内容でもあり、例えばエリザベスは原作通りどう見ても着ぐるみでしたが、それ自体をネタにしています。そして、パロディ満載の原作が、福田雄一監督のセンスとも合っていたのが功を奏していました。
もし、完全に現実とは異なるファンタジー世界を実写化しようと思えば、莫大な予算をかけて世界観を作り上げる必要があります。そういうタイプの作品よりも、現実世界でロケ可能な作品の方が成功しやすいと言えるでしょう。
●作品の肝心な部分=「血」をどう抜くか
しかし、作品の表面だけ真似ても上手くいかないのが、実写化というもの。表面以上に、作品の本質がきちんと表現されているのかが大切です。
『バクマン』や『モテキ』などの実写映画を手掛けた大根仁監督は、この「本質をとらえる」ことを以下のように語っています。
「黒澤明の脚本を手掛けている橋本忍が本に書いているんですが、橋本さんが師匠の伊丹万作と話しているときに「原作ものを脚本家、映像化するときの心得は?」みたいなやりとりがあるんです。原作を一匹の牛に喩えて、その牛をまずは一週間、二週間、一カ月、二か月…とことん観察する。観察して急所を見つけたらそこに入っていって一撃で殺す。そうして血だけ抜いて帰ってくる。ほしいのは血だけなんだという、ちょっと大袈裟で物騒な喩えだと思うけれど(笑)」(『ユリイカ』2015年10月号、P54より)
要するに、「原作と同じ血が流れていると感じられるかが大事だ」ということです。マンガは二次元、実写は三次元の生身の俳優が演じるので、牛にたとえると表面の皮も肉も異なります。それでも、その体内に流れる血が同じなら「本物だ」と感じられるわけです。
評判のよくない実写化作品は観客から「単なるコスプレ」と言われることがありますが、あれは「表面だけ似せて、血が通ってない」という意味だと思われます。逆に、似ていなくてもキャラクターとして説得力を感じさせる時もあります。例えば、実写版が2作公開された『ザ・ファブル』の岡田准一さんは原作の主人公・佐藤明とそれほど似ていないですが、圧倒的なアクション含めキャラクターとしての説得力があって、観ているうちに、確かに佐藤だと思わされます。こういった映画は、きちんと「血を抜いている」作品と言えるでしょう。
「世界を切り取れているか、血を抜けているか」この2点をクリアできているかが、面白い実写化映画の条件ではないかと思います。果たして、『鋼の錬金術師』続編はクリアできているのか、期待が高まります。
(杉本穂高)
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