今も続編が登場する『装甲騎兵ボトムズ』 異色すぎてロボットアニメの代表格に
マグミクス / 2022年3月19日 17時10分
■ハードボイルドな世界観を持つ『装甲騎兵ボトムズ』
1970年代から80年代にかけて、膨大な数のロボットアニメが作られた時期がありました。『マジンガーZ』『ゲッターロボ』『超電磁ロボ コン・バトラーV』『機動戦士ガンダム』など、歴史に残る名作を数え上げればキリがありません。
それらの作品のなかには、『ゲッターロボ』や『機動戦士ガンダム』のように、直接の続編や派生作品、リメイク作品などさまざまな形で作られ続けているタイトルも存在していますが、TV放映の1作品のみで終わる作品が多いのが実情であり、新しいおもちゃを売り続けなければいけないロボットアニメの特性上、当然の話でもありました。
しかし唯一、本放送から数十年が経っても同じ作品が同じ主人公で、同じ世界観のもとで、同じスタッフが作り続けたロボットアニメが存在しています。それが『装甲騎兵ボトムズ』(以下、ボトムズ)です。
2022年3月20日(日)19:00から、BS12でOVA『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』が放送されます。この機会に、『ボトムズ』がロボットアニメのなかでいかに「異色」だったか、改めて振り返りたいと思います。
『装甲騎兵ボトムズ』は1983年から1984年にかけて全52話が放送された作品で、監督は『太陽の牙 ダグラム』を手掛けた高橋良輔氏、キャラクターデザインは劇画的な絵を得意とする故・塩山紀生氏が担当しており、当時のアニメとしては極めて異例ともいえるハードボイルドな世界観の物語が展開されました。
TVアニメ終了後も人気はまったく衰えず、今回放送される『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』を皮切りに、2011年に発売された『装甲騎兵ボトムズ 孤影再び』まで、数多くの続編が制作されています。2020年には、高橋良輔氏による小説「装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇」も連載開始しています。
なぜ『ボトムズ』は多くの人の心を引き付けたのか。その理由のひとつに、本作が持つ画期的な特徴が大きな影響を与えていることは間違いありません。
まず、主人公が「戦いしか知らない完成された兵士」である点は、主人公の成長物語が描かれることが多かったアニメ作品としては、衝撃的な設定でした。主人公であるキリコ・キュービィは作品開始時点でプロの軍人であり、かつて第24メルキア方面軍所属 惑星占領軍戦略機甲兵団特殊任務班X-1こと「レッドショルダー」に所属し、多くの人を手にかけていたのです。
「レッドショルダー」は、まずは味方同士を殺し合わせ、生き残った者を鍛え上げるという、言語を絶する手法で構成された部隊でした。過酷な戦場からも生還し、味方の犠牲をいとわないといわれる苛烈な戦いぶりから「吸血部隊」とも呼ばれており、戦場では畏怖(いふ)の対象となっていたのです。手を血で汚した人間が主人公を務めることは、極めて斬新で強いインパクトを持っていたのです。
■後世に多大な影響、リアルでスピード感あふれる戦闘描写
主人公の乗機が「特別仕様」でない量産機……という設定も斬新だった。画像は「装甲騎兵ボトムズ スコープドッグ レッドショルダーカスタム ST版 色分け済みプラモデル」(ウェーブ)
また、主人公機のロボットであるAT(アーマードトルーパー)・スコープドッグも異彩を放っていました。
当時のアニメでは、主人公機とは特別強力な存在であり、替えは効かないのが当たり前の存在でした。しかしスコープドッグは大量生産品であり、ジャンクヤードに行けばスクラップになった機体がゴロゴロしており、それほど機械の知識がないキリコでも、使えそうなパーツを集めて組み立てれば、とりあえず動く機体を作り上げられるほど簡単な造りをしていたのです。
ロボットアニメでは敵の攻撃を装甲ではじく光景が当たり前でしたが、スコープドッグの装甲は薄く、銃弾は簡単に貫通してしまいます。パイロットの保護など考えられておらず、人も機械もただの消耗品として扱われるのが、『ボトムズ』では当たり前の光景でした。
さらに、スコープドッグは巨大な銃やミサイルが主兵装となっていたのも、リアル感の演出に一役買っていました。また、機体の足裏に備え付けられたローラーダッシュ機構は、それまでのロボットアニメでネックとなっていた高速高機動の地上戦演出を可能としており、アニメの演出に新たなページを加えるほどのスピード感あふれる戦闘が展開され、多くの視聴者を虜(とりこ)にしたのです。
近接戦闘でも、火薬を炸裂させ腕部を撃ちこむ「アームパンチ」や、金属の杭を叩きこむ「パイルバンカー」など新たなギミックが登場し、後のさまざまな創作作品に大きな影響を与えています。
作風、主人公像、主役ロボット、ロボのギミックなど、当時のアニメに新しい風を吹き込んだ『装甲騎兵ボトムズ』。まだ見たことがないという方も、最近見ていないという方も、もし機会があればぜひ視聴してみてはいかがでしょうか。「ボトムズの子供たち」と言える多くの作品の原点が、そこにあります。
(早川清一朗)
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