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アニメの「原作改変」はなぜ起こる 脚本と原作の難しい関係

マグミクス / 2022年3月25日 17時10分

アニメの「原作改変」はなぜ起こる 脚本と原作の難しい関係

■「原作通り」は脚本づくりの大前提

 コミックスやライトノベルなどの原作をアニメ化する場合、脚本を原作通りに作るのは大前提です。脚本づくりはアニメーションの制作業務に含まれており、制作業務を行う際には必ず、「制作業務委託契約」や「原作利用許諾契約」のような、契約を前もって締結します。きちんとした制作スタジオであれば、脚本家個人と「脚本家契約」も締結します。それらの契約には、「原作の持つ表現を可能な限り尊重して作って下さい」というようなことを意味する文言が、含まれているのが普通だからです。

 したがって、とても原作通りとは言えないほどセリフや筋書きが改変されている場合は、「(1)原作側から改変して欲しいと希望が出された」「(2)映像表現として成立させるために、そのようにせざるを得なかった」「(3)制作現場の統制が取れておらず、原作側の意向が契約を踏みにじる形で無視された」の、どれかと考えて、ほぼ間違いないでしょう。

 最も多いのは(2)でしょう。ですが、これは商業作品の脚本を原作付きで書いたことのある方や、脚本制作にまつわる実務を経験されたことのない方には、イマイチぴんと来ないかもしれません。原作通りに脚本を作るのがそんなに難しいのかと、不審に思われる方もいるでしょう。

 それが、なかなかに難しいことなのです。

 難しさを理解していただくには、まずは新作アニメ番組の脚本がどのように作られているか、ざっくりと説明した方がよいかもしれません。番組によって異なりますが、おおよそ、次のような流れになっているはずです。

 まずは、シリーズ構成の担当者が、番組全体の構成案を作ります。「第1話では原作のここからここまでをベースにここまで描いて、第2話はここまでで……最後はこんなふうに終わります」というような、お話としての大きな流れのことです。各話脚本を担当する脚本家は、その構成をもとに、エピソードごとの脚本を制作します。

 もちろん、構成が決定するまでには構成会議があり、脚本が決定するまでには脚本(シナリオ)会議があります。どのような内容にするのか、方向性についての指揮は監督がとりますが、原作サイドの意向が最優先されます。監督や原作サイドが「これで行きましょう」と言うまでは、会議は何度も繰り返し行われます。

■脚本は直し=改稿を繰り返して完成する

アニメの脚本家は必ずしも書きたいものを書けるわけではない(画像:写真AC)

 脚本会議で話されたことを原稿に適切に反映させるのは、脚本家の重要な仕事です。会議の内容を無視して直しを行わない場合、間違いなく大問題になります。

 よほどの大物脚本家でない限り、「では、降板していただいて結構です」と告げられるのが普通でしょう。アニメに限らないのですが、脚本家が「自分はこう書きたいんだ」と思って書いた内容がそのまま映像になる方が、映像作品ではむしろ珍しいのです。

「第1稿」「第2稿」「第3稿」「決定稿」のような表記が、脚本の表紙にクレジットされているのを、ご覧になったことはないでしょうか? これは、脚本会議が行われ、その都度、原稿が修正されたことを意味しています。

 また、脚本はざっくりとですが、枚数も定められています。映像作品は厳密な尺=長さに基づいて制作されますので、仕様書となる脚本も、それに応じた長さでなければならないからです。各話30分=正味の映像尺は22分~23分程度のTVアニメシーズですと、1話につきペラ(200字詰め原稿用紙)70枚~80枚程度でしょうか。

「原作のここからここまでをベースにここまで描いて……」というシリーズ構成を渡され、これをベースに1話分の脚本を次の脚本会議までに作ってきて欲しいと、依頼を受けたとします。ところが、原作に目を通してみると、とてもじゃないが枚数に収まりきる分量ではない。やむなく一部の場面を削って脚本を作成したものの、脚本会議の席上で、監督からも原作サイドからも「削って欲しくない場面なので、次回の打ち合わせには、その場面も追加した第2稿を提出してくれ」と言われてしまう……こんな例は珍しくありません。

 ある場面を削って尺に収まるように書けばそれで済むという、単純な話でもありません。そうすることで、求められる面白さが充分に表現できないどころか、前後のつながり自体損なわれて、お話として成り立たなくなることもあり得るからです。

 解決策として、「原作の持つ表現を可能な限り尊重しつつ」物語の前後を組み替えたり、オリジナル要素を追加したりします。それをやった時点で、厳密な意味での「原作通りの脚本」ではないことになります。

■「あーだこーだ言われる」のも脚本家の仕事

原作が完結していない作品のアニメ化、どうやって終わらせる?(画像:写真AC)

 原作が長期にわたって継続している場合ですと、その一部を切り取る形で全12話のアニメシリーズに収めるというようなことも、ひんぱんに行われます。

 原作では「次回につづく」となっているお話を、脚本上でどのように終わらせたら良いでしょうか? 無理に完結させなくてもよいから原作をそのまま引き写した形でやってくれと言われるケースもゼロではないようですが、少なくとも筆者が業界で見てきた範囲では、一度も経験したことがありません。レアケースと言ってよいはずです。

 たいていの場合は、「どんなふうに終わらせると良いですかねえ」と、脚本会議に出席している全員が頭を悩ませることになります。この問題を解決するためには、やはりある程度は、原作にはないオリジナル要素を追加するしかないでしょう。

 原作の表現自体が、そのまま映像にするには難しい場合もあります。例えば小説などで、登場人物のひとりが何十ページにもわたってセリフを語り続ける場面は、どのように脚本にすれば良いでしょうか? その場合の「原作通り」とは、語り手を画面に登場させて延々とセリフを喋らせることです。脚本会議では監督や原作サイドから、「そんなつまらない表現は止めてください」と、まず間違いなく言われるでしょう。少しでも面白くするためには、原作を改変することが必要になります。

 最近では、『進撃の巨人』の脚本集なども、一般の書店に並んでいるようです。脚本は極めてシンプルな言葉で書かれるため、手に取って読まれた方のなかには、「えっ、こんな簡単なものを書くのに苦労してるの?」と、驚かれる方もいるかもしれません。

 ですが、一見するとカンタンそうで実はムズカシイのが脚本というもの。「脚本には書き方もあれば読み方もある」と言われるのは、やさしく見える表現の奥に、実に奥深い要素がさまざまに含まれているからなのです。

 書いている時は関係者の皆さんからあーだこーだ言われ、書き終えた=決定稿になった後は視聴者の皆さんからあーだこーだと言われるのが、脚本家という仕事の宿命です。実情を知っている身からすると気の毒にも思いますが、それでも宿命を引き受けて書き続けている脚本家の皆さんには、敬意を抱かずにはいられません。

(おふとん犬)

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