『大怪獣のあとしまつ』だけじゃない? 観客と作り手の「すれ違い」がスゴかったSF映画たち
マグミクス / 2022年3月26日 19時40分
■観客の期待とのギャップが「迷作」を生む?
「誰も見たことのない空想特撮エンターテイメント」
東映と松竹が初めて共同製作・配給した映画『大怪獣のあとしまつ』は、2022年2月4日に劇場公開が始まるやいなや、ネット上には辛辣な感想コメントが吹き荒れる騒ぎとなりました。
死んでしまった巨大生物の後始末は、誰がどのようにするのか? 『大怪獣のあとしまつ』は、庵野秀明監督の大ヒット映画『シン・ゴジラ』(2016年)の後日談を思わせる設定です。『シン・ゴジラ』のような本格的なSF映画を期待して劇場に足を運んだ人たちは、閣僚たちが果てしなくギャグを交わし続けるコメディ展開に、唖然としてしまったようです。
冒頭の言葉は『大怪獣のあとしまつ』の予告編で謳(うた)われたコピーですが、確かに今まで誰も見たことのない奇妙な世界がスクリーンに映し出されていました。
深夜ドラマ『時効警察』(テレビ朝日系)などのコメディ作品で知られる三木聡監督のオリジナル脚本&監督作であることを知っていれば、そこまで違和感を覚えることもなかったでしょう。でも、予告編や事前の宣伝ではコメディであることや社会風刺を込めた作品であることは伏せられていました。シリアスな内容をイメージしていた観客の期待と配給会社の宣伝方針とのギャップが、ネット上を騒がせ、「迷作」と呼ばれる要因となったようです。
過去に酷評された日本映画を振り返ってみると、観客の期待と製作サイドの思惑とが一致せず、すれ違いが生じてしまったケースが多いように感じます。今回は、観客を悶絶させた伝説の日本映画を3本紹介します。どれも特撮シーンのあるファンタジックな作品です。
■特撮とドラマが噛み合わなかった『デビルマン』
映画『デビルマン』DVD(東映)
永井豪氏のカルト的人気を誇るマンガを東映が実写化した『デビルマン』(2004年)は、公開から18年が経った今も、強烈なインパクトを観客に残したままです。人類と先住人類・デーモン族との戦いを描いた壮大なスケールの原作を、上映時間116分に収めるのは容易ではありませんでした。
仲村トオルさん、中山美穂さんらが映画デビューした『ビー・バップ・ハイスクール』(1985年)で知られる那須博之監督は、学園青春ものとして『デビルマン』を撮ろうとしたようです。優等生、不良、いじめられっ子……。そんなスクールカーストの崩壊と世界の滅亡とがうまくリンクして描かれれば、青春ドラマとして弾けたものになっていたかもしれません。でも、残念ながらドラマパートと特撮パートは最後まで噛み合わないまま、物語は終わってしまいます。
実写版『デビルマン』で印象に残るのは、原作ではサブキャラ扱いだったミーコ(渋谷飛鳥)とススム(染谷将太)です。人間同士が殺し合う残酷な終末世界を、ミーコとススムは手を取り合ってサバイバルします。那須監督は『デビルマン』が公開された翌年に亡くなっていますが、若い俳優たちの成長に期待を寄せていたのではないでしょうか。
■人気声優のデビュー作『北京原人 Who are you?』
映画『北京原人 Who are you?』DVD(東映ビデオ)
「ウパーッ!」
佐藤純彌監督の『北京原人 Who are you?』(1997年)を一度観ると、北京原人の発する叫び声が忘れられなくなってしまいます。
犯罪サスペンスの傑作『新幹線大爆破』(1975年)や『野性の証明』(1978年)など、佐藤監督は数多くの人気作を生み出してきました。多彩なフィルモグラフィーのなかでも、特撮&特殊メイクを駆使したサイエンスファンタジー『北京原人 Who are you?』はひときわ異彩を放っています。
もともとは北京原人の化石が紛失した謎を追う歴史ミステリーの映画化を佐藤監督は考えていたのですが、東映の岡田裕介プロデューサーから「北京原人を現代に蘇らせたほうが面白い」と言われ、企画変更したという経緯がありました。
遺伝子操作によって現代に蘇った北京原人ですが、なぜか陸上競技会に出場し、世界新記録を狙うシーンには思わず吹き出してしまいます。佐藤監督自身、『北京原人 Who are you?』は失敗作と認めているのですが、生命科学研究所に勤める主人公(緒形直人、片岡礼子)らと北京原人一家とが心を通わせるシーンには、うるっとくるものがあります。
ハリウッド大作『ジュラシック・パーク』(1993年)を観た直後では、特撮シーンが霞んでしまった感がありました。でも、北京原人タカシを演じた本田博太郎さん、同じくハナコを演じた小松みゆきさんの熱演、また人気声優の小野賢章さんが子供の北京原人ケンジで映画デビューを果たしているなど、見どころが多い作品です。
映画を見終わった後、あなたも「ウパーッ!」と叫びたくなるに違いありません。
■わずか19日間で打ち切られた『幻の湖』
映画『幻の湖』DVD(東宝)
東宝創立50周年記念作品として公開された『幻の湖』(1982年)も、ストーリーがぶっ飛んでいます。大ヒット作『日本沈没』(1973年)や『砂の器』(1974年)などを手掛けた名脚本家・橋本忍氏が製作・脚本・監督を兼ねたオリジナル作品です。
琵琶湖の湖畔を愛犬シロと一緒にジョギングするのを日課にしている道子(南條玲子)が、主人公です。道子に懐いていたシロですが、何者かに殺されてしまいます。復讐に燃える道子は米国の諜報員の協力を得て、犯人を突き止め、ジョギング対決を挑むことになります。
風俗嬢として働く道子は「お市」という源氏名を持っており、物語後半は織田信長の妹・お市の方が生きていた戦国時代へと時空をさかのぼり、ラストシーンは宇宙空間にまで話が広がります。
北大路欣也さんが織田信長、高橋恵子さんがお市の方を演じ、特撮シーンは『日本沈没』の中野昭慶特技監督が務めています。豪華キャスト&スタッフを擁した『幻の湖』ですが、わずか19日間で上映は打ち切られ、「幻の映画」と呼ばれていました。ここまで奇想天外な物語は、まず凡人には思いつきません。
「迷作」や「トホホ映画」と呼ばれる『デビルマン』『北京原人 Who are you?』『幻の湖』ですが、映画史に残る名作と同じくらい、人を惹きつける力のある作品でもあります。ついつい誰かに語りたくなる、不思議な魅力を持っています。興収結果や周囲の評価を気にすることなく、自分だけの逸品を見つけて楽しむことも、映画ファンの密やかな喜びではないでしょうか。
(長野辰次)
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