なぜ「ジオン」の独裁者は同じ宇宙移民のコロニーを「落とせた」のか?
マグミクス / 2022年3月29日 6時10分
『機動戦士ガンダム』は、ロボットアニメを初めて本格的なSFとして、かつリアルな戦争として描いたことで、放映開始から43年を経た現在でも語り継がれる名作となりました。
物語の冒頭で、宇宙で人工的に作られた居住地「スペースコロニー」群のひとつである「サイド3」が「ジオン公国」を名乗り、地球連邦に対して独立戦争を挑みます。ジオンの国力は、連邦の30分の1以下であり、真正面から戦いを挑んでは勝ち目がありません。
ジオンがこの不利を覆すために取った手段は、恐るべきものでした。厚い岩盤に守られた、地球連邦軍総本部ジャブローを破壊するために、全長6キロ(諸説あります)のスペースコロニーに核パルスエンジンを装備して移動させ、質量爆弾として地球に落下させたのです。
落下したコロニーは南米のジャブローを直撃せず、オーストラリアを直撃。オーストラリア大陸の16%を消滅させ、連動して大津波と気象変動などの天変地異を引き起こします。
この「ブリティッシュ作戦」を成功させるために、ジオンは7つある宇宙都市群「サイド」のうち、サイド1、2、4の住人を全滅させ、直後にルウム戦役に巻き込む形で、サイド5をも壊滅させています。コロニー落としと各サイドへの攻撃により、人類は「総人口の半数」が命を落とす壊滅的被害を出します。
なお、ジオンの戦争目的は「宇宙に住む民・スペースノイドを長年、差別して虐げてきた地球連邦政府の支配に鉄槌を下し、スペースノイドの独立を勝ち取る」というものです。そのジオンが、同じスペースノイドの大半を全滅させたことになります。
なぜ、ジオンは同じスペースノイドまでも手にかけたのでしょうか。また、何十億人が犠牲になっても構わないという、強烈な敵意はどうして生まれたのでしょうか。
ジオンの独裁者であるギレン・ザビは「連邦が長年、自由を求める我々を踏みにじった」ことを、開戦の理由にしています。しかし『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を見ても「連邦の過酷な支配」はあまり描かれていません。
主人公キャスバル(シャア)が、ジオン士官学校生を煽動して「暁の蜂起」を引き起こし、サイド3に駐留する連邦軍に損害を与えても、亡命を望むミノフスキー博士を保護しようとした連邦軍部隊が、ジオンのモビルスーツ部隊により壊滅しても、連邦は「サイド3を制圧してジオンを軍事的に壊滅させる」とか「指導者のザビ家を暗殺して、親連邦政権を樹立する」などの報復・弾圧は行っていません。
また『THE ORIGIN』では、サイド3への移住希望者が多数いることも描かれていますが、連邦側は自身を敵と見なすサイド3への移住を禁じたりもしていません。事実として、ジオン側から開戦するまで、かなり融和的なのです。
■大義名分は「ニュータイプ思想」?
進化した人類同士の共感は「思想の純化」の危険性がある? (イラスト:ゆきまんまん)
地球連邦からの大弾圧が行われず、かつ各サイドからサイド3への移住者、つまりジオンへの賛同者もいるのに、なぜ各サイドへの攻撃やコロニー落としが為されたのでしょうか。
筆者(安藤昌季:乗りものライター)は、補給・生産拠点を事前に潰すなどの軍事的理由だけではなく、ジオンを建国した、ジオン・ダイクンが唱えた「ジオニズム」が原因ではないかと考えています。
ジオン・ダイクンは「人類は宇宙で適応進化し、広大な時空をもひとつの認識域のなかにとらえられるニュータイプとなる」と説きました。実際、ニュータイプは言葉を交わさずとも、お互いの感覚・感性に共感したり、物事を瞬時に理解し、初めて乗る軍用兵器を操ったりできる特殊能力を持っています。
ニュータイプがお互いの存在や思考を実感できる存在である以上、「自分と周囲が共感していることが何となくわかる」微弱なニュータイプは、実は数多くいて、周囲がジオニズムを「その通りだと実感しているのがわかる」のではないでしょうか。
「ニュータイプ同士の共感」が感じられる、素養を持つ人たちは「自分たちがより、選ばれた存在」だと感じてしまうから、サイド3に移住してでも、ジオニズムに共感・連帯する。
ニュータイプの素養がない人たちは、その共感を理解できないから、薄気味悪く感じる。微弱ニュータイプであるジオンの賛同者たちは、その「敵意」を「実感」として感じるから「人類の進化を理解できない、愚か者」というギレンの演説に共感する。
結果として、サイド3にはジオニズム賛同者が増え続け、歯止めが効かなくなるわけです。
そう考えるなら各サイドの民は「スペースノイドなのにジオニズムを理解できず、連邦に尻尾を振る、アースノイド以下の劣等種」と見られた。だから「サイド3に移住しなかった罪」として、ブリティッシュ作戦で攻撃されたとすれば「つながる」と感じるのです。
つまり、ガンダムでよく見られる「スペースノイドは地球連邦に弾圧される善玉」という見方は、一面的とも思えるわけです。
連邦側は初代首相がテロで暗殺されたこともあり「宇宙を押さえ、地球を攻撃できるスペースノイド」におびえて、融和政策をしてしていたと思えます。
実際、宇宙世紀では、ジオンが総人口の半数を死に至らしめても、ジオンを冠した勢力はなくなりません。『機動戦士Zガンダム』で、スペースノイドに配慮するエゥーゴが、連邦の主流派になっても、ネオ・ジオンは決起するのです。つまり「政治的に認められても、自分たちの共感性を理解できないエゥーゴは不要」という「実感」があるのでしょう。
『機動戦士ガンダムUC』で「宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、優先的に政治運営に参画させる」とうたった「ラプラスの箱」が隠されたことも、ニュータイプの結びつきが、想像よりも強烈で対応できないことへの恐怖もあったのではないでしょうか。
(安藤昌季)
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