風よ!光よ!で子供たちを熱狂させた『快傑ライオン丸』 陰に日本初のライバルキャラも
マグミクス / 2022年4月1日 6時10分
![風よ!光よ!で子供たちを熱狂させた『快傑ライオン丸』 陰に日本初のライバルキャラも](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_84732_0-small.jpg)
■当時の子供たちに人気だった「ライオン丸見参!」の構え
本日4月1日は半世紀前の1972年にTV特撮ヒーロー番組『快傑ライオン丸』が放送開始した日です。つまり今年で放映50周年。当時の思い出とともに、振り返ってみましょう。
本作は前番組『スペクトルマン』の好評を受けて企画されました。巨大ヒーローだった前作とは違い、最初から等身大ヒーローとして企画されていましたが、舞台設定が時代劇となったのは企画途中からだそうです。それには局側からの他作品との差別化をはかりたいという意図がありました。
今の常識から考えると特撮と時代劇は異質の組み合わせに思えますが、もともと時代劇から子供向けドラマの名作はいくつも生まれていますし、特にフジテレビ系列では過去の大ヒット作品として『仮面の忍者 赤影』(1967年)があります。しかし、『快傑ライオン丸』は皮肉なことに同じく意外性を狙って特撮時代劇になった『変身忍者 嵐』(1972年)と、同時期のスタートになりました。
あらすじを説明すると……
物語の舞台は戦国時代。日本征服をしようとたくらむ大魔王ゴースンが活動を始めた。その最初の標的だった果心居士は、孤児だった3人の教え子たちにそれぞれ形見の品を託す。そのひとり獅子丸は師匠からもらった「金砂地の太刀」の力でライオン丸に変身、ゴースンの悪だくみを阻止するために旅を続ける。
……というものです。本作の主人公・獅子丸を演じた潮哲也さんは、これが初主演でした。危険なアクションも自らが演じており、足を骨折、その後は車いすや松葉杖を使っての撮影にも挑んだそうです。その熱気が画面からも伝わり、筆者をはじめとする当時の子供たちを熱狂させました。
ライオン丸と言うと、あの白ライオンの顔と赤と黒の服で、ひじょうに見栄えのいい配色が目を引きます。このライオンのたてがみはかつらメーカーが一本一本植えたそうで、製作はウルトラシリーズでおなじみの高山良策さんでした。このインパクトのある姿は子供だけでなく、大人たちからも注目され、当時人気だったプロ野球選手ジョン・シピンがひげ面だったことから、そのあだ名が「ライオン丸」になったというエピソードがあります。
このように話題性のあった作品で、仮面ライダーと同じく変身ポーズをおぼえる子供も続出し、当時の変身ヒーローブームのけん引に一役買っていました。時代劇という点もそうですが、剣で戦うというヒーローと言うことで仮面ライダーとの差別化できていたことが大きかったのでしょう。
また、制作会社のピー・プロダクションお得意のビターなドラマ要素も、当時の東映特撮ヒーロー番組と一線を画していました。エピソードによってはやりきれない思いのまま物語が終わることが多く、ほとんどの事件が何事もなくハッピーエンドを迎える東映作品とは明確に異なります。特に劇中でたびたび流れる挿入歌「ライオン丸のバラード・ロック」が、雰囲気を一層重いものにしていました。
時には、やられ役の怪人たちにも大きなスポットが当たる点も、他作品との違いをあらわしています。卑怯な手段を嫌う者、子供の目を治療しようと考える者、捨てられた子供を育てるものなど、1話限りのやられ役とは思えないドラマの掘り下げが本作の特徴のひとつでした。この丁寧なドラマ作りが、単なる勧善懲悪になりがちな他のヒーロー番組と大きく差別化できていた点かもしれません。
■特撮ヒーロー番組初となったライバルヒーローの登場
タイガージョーが表紙のバージョンもある「特撮DVD 快傑ライオン丸 プレミアムコレクターズエディション」(アミューズ・ビデオ)
そして、敵役にスポットを当てるという意味では、特撮ヒーロー番組史上初のライバルヒーローと言われる「タイガージョー」の存在が、本作の大きな魅力のひとつとなっています。
タイガージョーは、虎錠之介がゴースンから渡された「銀砂地の太刀」で変身するライバルキャラ。ゴースンの手下でしたが卑怯な手を使うことが嫌いで、正面から獅子丸と戦うことで徐々に友情のようなものが芽生えていきました。ライオン丸との戦いで隻眼となり、目に付けた眼帯がカッコよさを引き立てています。
このタイガージョーの登場で、ドラマ部分が一層密度の濃いものになっていきました。そして、1話完結ながら錠之介の成長物語という側面を見せ始めます。余談ですが、タイガージョーのテーマが口笛のみなのは予算の都合でした。しかし、この口笛が錠之介らしさを引き立てていたと思います。当時、子供はみんなこのマネをしており、筆者の通う学校でも口笛が流行っていました。
実はタイガージョーは、それほど長い間登場させる予定ではなかったそうです。しかし、子供たちから高い人気を得たことで終盤まで登場することになりました。この他にも、ピープロの社長だったうしおそうじさんは、錠之介役だった戸野広浩司の演技を絶賛し、次回作は「タイガージョー」のドラマを作ろうと考えていたそうです。
しかし、悲劇は突然起きました。『快傑ライオン丸』のロケで宿泊中の旅館で、戸野広さんは事故により帰らぬ人となってしまったのです。その早すぎる死は、どれほどの衝撃だったでしょう。
この後、番組は続くことになりますが、錠之介役は同期であり親友でもあった福島資剛さんが演じることになりました。福島さんの演技も素晴らしいもので、タイガージョーの人気は落ちることなく、最後まで演じきっています。その好評から、次回作『風雲ライオン丸』では虎錠之進/タイガージョーJr.として、番組中盤から引き続き出演していました。
このように紆余曲折ありましたが、本作は高い人気のまま放送終了を迎えます。その最終回までの流れは秀逸で、番組を大いに盛り上げました。本作の高い人気は、次回作『風雲ライオン丸』につながります。
また、2006年には設定の一部を流用した『ライオン丸G』という作品が作られました。このほかにも、1990年代には『激闘ライオン丸』、海外向けには『サムライオン』というリメイク企画も存在していたそうです。それだけ本作には、根強いファン層があったと考えられるでしょう。
当時の熱気はまだ生まれていなかった世代に伝わりづらいかと思いますが、本作は間違いなく1970年代の特撮ヒーロー作品の一角を担った名作だったと思います。
(加々美利治)
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