50周年の『超人バロム・1』 より怪奇性を追求した悪役が意外な事件を起こした?
マグミクス / 2022年4月2日 6時10分
■もともとはTV特撮ヒーローではなかったバロム・1
本日4月2日は、半世紀前の1972年に特撮ヒーロー番組『超人バロム・1』が放送開始した日です。つまり2022年は放送50周年。前年の『仮面ライダー』のヒットから一気に特撮ヒーロー番組が増えたこの時期に、本作が世間に与えた影響について振り返ります。
本作は、1970年から約1年間『週刊ぼくらマガジン』に連載されていたマンガ『バロム・1』が原作です。作者は『ゴルゴ13』で有名な、さいとう・たかを先生。前述の『仮面ライダー』以前に発表されていた作品でした。
本作の企画は出版元の講談社から、『巨人の星』で縁ができたよみうりテレビ側にTVアニメとして打診されたことがきっかけだったそうです。しかし、ディスカッションを重ねていくうちに、第二の『仮面ライダー』として特撮ヒーロー番組へと舵を切ることになりました。
こうして特撮ヒーローとして再始動することになった本作は、マンガ版では青年の顔だったバロム・1を、テレビ版の仮面ヒーロー的なデザインに変えています。モチーフが「鳥」なのは、本作の仮タイトルのひとつが「鳥人バロム・1」だったことに由来するとのこと。
ストーリーはマンガ原作版とは大きく変わっていません。宇宙から来た悪の化身「ドルゲ」から地球を守るため、平和の象徴である「コプー」は自らのエージェントとして、正義感の強い白鳥健太郎と木戸猛というふたりの少年にバロム・1への合体変身能力を授けます。そして健太郎と猛の友情の心がひとつになった時、誕生するバロム・1はドルゲが差し向ける悪のエージェントであるドルゲ魔人と戦うことになる……というものでした。
『仮面ライダー』と製作会社が同じ東映だったことから、本作ではその差別化がはかられています。たとえばキックが主体のライダーと違い、バロム・1はパンチが主体でした。トドメの必殺技も、「バロム爆弾パンチ」となっています。
また、ライダーがサイクロンによるオードバイアクションがメインでしたが、バロム・1は変身アイテムでもある「ボップ」が変形したマッハ・ロッドによるカーアクションを中心にしていました。このマッハ・ロッドのデザインも当時の子供には大人気で、オモチャの売り上げにも貢献しています。
裏番組が人気アニメ『ムーミン』だったことから視聴率的には苦戦していましたが、当時の子供たちの人気も高く、その勢いは『仮面ライダー』に迫るほどだったかもしれません。しかし、それとはまったく別の、予想外の問題が本作に暗い影を落としたのです。
■作品に大きな影響を与えた「ドルゲ事件」
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本作の敵役であるドルゲは、マンガ版では円盤状でしたが、TV版ではそこから投影される魔人のような姿でデザインされていました。担当声優の飯塚昭三さんによる、「ルロロロロロードールゲー」という不気味な声が印象的な悪役です。
また、配下のドルゲ魔人たちも海底や地底に住む生き物が基本的なモチーフで、何よりも不気味さ怪奇性といった部分に重きの置いたデザインでした。これが中盤以降は身体の一部をモチーフにした、いわゆる「人体魔人」と呼ばれるものにシフトします。
この人体魔人は今でも特撮ファンの間では語られるほどのインパクトがあるもので、製作は当初『仮面ライダー』と同じくエキスプロダクションが担当していましたが、同社が『変身忍者 嵐』も掛け持ちして多忙になったため、同社から独立したツエニーが請け負いました。
しかし、この人体魔人の怖さは半端なく、たとえばノウゲルゲは脳みそ部分を魚の白子だと思って作っても耐えられず、「気持ち悪い」を連呼しながら造形したそうです。ヒャクメルゲは夜間ロケの最中に女優さんが怖さに耐えきれず、ロケバスの裏で泣き出したという逸話もありました。
こうした怪奇性に視聴者からのクレームも少なくなかったそうですが、実は本作にはそれ以上の大きな問題があったそうです。それが後に語り継がれることになった「ドルゲ事件」でした。諸説あるので正確なところはわかりませんが、端的に言うと、「ドルゲという実在の人物が悪役にその名前を使われ、いちじるしく名誉を損なった」というものです。
これに関して、後年に推測や憶測と言ったものが加わり、当時は大問題になったと思い込んでいる人も少なくありません。しかし、当時子供だった筆者をはじめ、多くの子供が知ることのなかった事件だったと記憶しています。当時はワイドショーといった情報番組が少なかったからでしょう。この事件を知ったのは10年近く経って、当時のことを誌面で取り上げるようになったことからだと思います。
もっとも、この事件が本作に与えた影響は大きく、番組オープニング・タイトルの最後に「このドラマにでてくるドルゲはかくうのものでじっさいのひととはかんけいありません」と、フィクション作品であることを示す注意テロップが挿入されるようになりました。子供番組としては初の処置です。
このことがあってから、東映でも悪役に付ける名前はできるだけ架空に近いもの、または言い訳できるよう「同名のスタッフがいる名前」になりました。
この事件がきっかけで本作は打ち切りになったと思っている人もいると思いますが、そうではありません。前述の視聴率争いの部分といった事情もあり、さまざまな要因を考えての結果です。もちろん、事件のマイナスイメージもその要因のひとつだったという点は否定できないでしょう。
しかし、『超人バロム・1』は人気がなかったわけではありません。実際に当時の子供に強い印象を与えた本作は再放送でもよく話題にあがり、半世紀経った現在でも記憶に残る名作だったことは間違いないでしょう。
後年にバラエティ番組『ウソップランド』(1983〜1986年)内のパロディ作品として、「夜の少年ドラマ バロム・I(ばろむ・あい)」が放送されたり、TVアニメ『バロムワン』(2002年)が制作されるなど、作品としての知名度は高いです。
(加々美利治)
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