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「心の闇」描いた藤子不二雄Aさん 『魔太郎がくる!!』では本気の投書が殺到して…

マグミクス / 2022年4月17日 9時30分

「心の闇」描いた藤子不二雄Aさん 『魔太郎がくる!!』では本気の投書が殺到して…

■人間の心の闇を見つめた人気マンガ家

「ココロのスキマ、お埋めします」

 ブラックユーモアたっぷりな『笑ゥせぇるすまん』の主人公・喪黒福造は、そんな一文が記された名刺を差し出し、日常生活に不満を持っている人たちに不思議な体験をもたらします。

 数々の傑作マンガを残した藤子不二雄A(本名:安孫子素雄)さんが、2022年4月7日に亡くなられました。1934年(昭和9年)富山県生まれ。「トキワ荘」の仲間たちと青春時代を送り、戦後のマンガ文化を大きく育てた功労者のひとりです。

 藤子・F・不二雄さんとの共作だった『オバケのQ太郎』のほか、『忍者ハットリくん』『怪物くん』『プロゴルファー猿』などの人気作を生み出しました。自伝的マンガ『まんが道』『愛…しりそめし頃に…』に感銘した人も多いことでしょう。NHK総合では、追悼番組『インタビューここから選「漫画家 藤子不二雄A」』を4月17日(日)午後2時27分から放送します。

 今回は『笑ゥせぇるすまん』をはじめ、人間の心の闇をサングラス越しに見つめ続けた藤子不二雄Aさんの代表作を振り返りたいと思います。

■夢と破滅が時間差で訪れる『笑ゥせぇるすまん』

 一見するとマジメそう、平凡そうな人たちの心のなかに隠されたドロドロの欲望を、ユーモアを交えて暴き出してみせたのが『笑ゥせぇるすまん』です。1989年~92年に放送された情報バラエティ番組「ギミア・ぶれいく」(TBS系)内でアニメ化されたことで、多くの人に親しまれた作品です。

 異形の姿をしたセールスマン・喪黒福造に声を掛けられた人たちは、心の奥に隠していた欲望を実現させ、束の間の夢心地を味わいます。しかし、欲望に酔いしれるあまり、喪黒との約束を破り、破滅を招いてしまうのです。顧客が自滅した様子を見届けた喪黒は、「オーッホッホッホッホッ……」という笑い声を残して去っていくのでした。

 喪黒に出会った人たちは、ほとんどが悲惨な結末を迎えますが、一瞬だけでも夢を叶えることができます。至福感と絶望が、ほんの少しの時間差で訪れるのです。夢と破滅は背中合わせの関係であることを描いた、大人のためのファンタジーでした。

 藤子・F・不二雄さんの代表作『ドラえもん』が「陽」の作品なら、『笑ゥせぇるすまん』は「陰」の作品だと言えるでしょう。藤子不二雄というペンネームを長年共有していたふたりが、次第にテイストが異なる作品を生み出すようになっていったことも興味深いものがあります。

■「うらみ買います」で、山のような「応募」が集まった

主人公がうらみ念法でいじめの復讐を行う、『魔太郎がくる!!』第1巻(秋田書店)

 1972年~75年に「週刊少年チャンピオン」で連載された『魔太郎がくる!!』も、藤子不二雄Aさんならではの毒のある作品でした。中学に通う浦見魔太郎は、いかにもいじめられっ子っぽい風貌をしています。毎週のように理不尽ないじめに遭う魔太郎ですが、「う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」と呟いた魔太郎は、うらみ念法で復讐を遂げることになります。

 容赦なく復讐する魔太郎の不気味さに加え、復讐時に魔太郎が着るバラ柄がプリントされたシャツの派手さも、目に焼きつく作品でした。

 編集部が「みんなのうらみ買います」と募集したところ、全国の子供たちから山のような応募が殺到したそうです。ほとんどがハガキではなく封書で、真剣な復讐依頼が書かれていたとのことです。子供の頃は体が小さく、すぐ赤面してしまう性格だった藤子不二雄Aさんも、いじめに遭っていた体験の持ち主でした。そんな藤子不二雄Aさんだったから、読者がシンパシーを感じる作品を描けたのではないでしょうか。

 映像化されることの多かった藤子不二雄A作品ですが、『魔太郎がくる!!』は一度も映像化されていません。アニメ化やドラマ化された際の影響力の大きさを知る藤子不二雄Aさんゆえの配慮だったように思います。

■ガキ大将の二面性を描いた『少年時代』

 1988年、54歳のときに藤子不二雄Aさんは、藤子・F・不二雄さんとのコンビを解消し、それぞれの名義で別々に作品を発表するようになりました。藤子不二雄Aさんはマンガ執筆だけでなく、映画の初プロデュースにも挑戦します。それが、実写映画『少年時代』(1990年)です。

 芥川賞作家・柏原兵三の小説『長い道』と自身の自伝的マンガ『少年時代』を原作に、脚本・山田太一、監督・篠田正浩、主題歌・井上陽水、と豪華スタッフを集め、戦時下を生きる少年たちの姿を赤裸々に描いた映画『少年時代』は完成しました。この作品を観ると、戦場で戦う兵士たちだけでなく、戦場から遠く離れた田舎町で暮らす子供たちも壮絶な時間を過ごしていたことが分かります。

 空襲を避け、東京から富山へと疎開してきた少年・進一は、地元のガキ大将・タケシと出会います。タケシは他の子供たちが見ている前では、転校生の進一に対して暴力的な態度をとるのですが、ふたりっきりのときだけは進一にとても優しく接するのです。タケシは二面性のある複雑なキャラクターであり、タケシ自身も本当の自分が分からずに苦しんでいるのでした。

 ひとりの人間のなかには、善人の顔もあれば、悪人の顔もある。そんな複雑かつ繊細な世界を、藤子不二雄Aさんはエンターテイメント作品として世に送り続けてきました。明るく楽しいイメージの強かった少年マンガ誌に、独自の世界を切り開いた藤子不二雄Aさんの功績はとても大きかったように思います。

(長野辰次)

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