なぜか覚えている『ちびまる子ちゃん』の「生活の知恵」 くだらないけど味わい深い？

■間の抜けたイラストと、さくら先生のツッコミが忘れられない

　生活に役立つ知恵を紹介するTV番組は数多く存在してきましたが、私たちに「日本一しょうもない生活の知恵」を授けてくれたのは、エッセイマンガの金字塔『ちびまる子ちゃん』（著：さくらももこ）でしょう。

　とりわけ初期においては、さくら先生による当時の回想が挿入されることもしばしば。そこから派生して紹介される「生活の知恵」らしきもの……無論、これらが同作を傑作たらしめている要素のひとつといってもよいでしょう。この春から新生活を始めた方にも、もしかしたら役に立つかもしれない『ちびまる子ちゃん』発の生活の知恵を紹介します。

●こたつで寝るときの正しい体の折りたたみ方

　これほどしょうもない「How to」があったかのかと思えるのが、第1巻収録「まるちゃんはまだおとそ気分」の巻です。もうすぐ新学期だというのにいつまでも正月気分でいるまる子のエピソードですが、まる子がコタツでうたた寝をしてしまうシーンで紹介されたのが「こたつで寝る時の正しい体の折りたたみ方」です。

　こたつの中心の発熱部分に向かって足をのばすと熱いうえに、家族のひんしゅくも買うのでNG。角に合わせて体をL字に曲げて眠るようにしよう……というもの。読んだことのある方なら、このコマで描かれた（わるい例）の「あついよう」というなんとも気の抜けたセリフまで覚えていらっしゃるのではないでしょうか。

●遠足にカルピスを持っていく場合の原液の分量

　さて同じく第1巻に収録された「まるちゃんは遠足の準備が好き」の巻は、「しょうもない生活の知恵」が目白押しです。なかでも6コマを用いて紹介されたのが「遠足にカルピスを持っていく際に注意すべきこと」です。

　氷が溶けて薄くならないように、原液をちょっと多めに入れておくのがコツであり、飲む前はしっかりシェイク。その際、水筒の内蓋をしっかり締めておかないとあふれるので注意……。

　そもそも大前提として、「カルピスは遠足に持っていけないのでは」などと思った読者も多かったのではないでしょうか。このエピソードでは他にも、遠足のおやつの価格配分に関する知恵も細かく挿入され、こちらは小学生でも十分立つものでした。

●なくし物をした時は、ハサミに糸を巻きながら思い出す

　単行本4巻収録「おかあさんの宝物」の巻に登場したのは、もっとも役に立たない生活の知恵。まる子はお母さんが大切にしていたオパールの指輪をこっそり遊んでいる最中に紛失。必死になって探すなか、まる子は「なくし物をした時はハサミに糸を巻きながら考えると思い出す」という珍説を実践します。

　当然、効果はありません。さくら先生も「この方法で紛失物が見つかったことはかつて一度もない」とすかさずツッコむほど。とはいえ、探し物の最中では藁（わら）にもすがりたい想いです。もしかしたら実践していた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

●さくら先生「これは役に立つぞ」　傷のある日の入浴方法

　最後は、単行本3巻収録「まるちゃん自転車の練習をする」の巻に登場した生活の知恵。自転車の練習にあけくれ、足が傷だらけの状態になってしまったまる子。お風呂に入るも激痛に襲われてしまう……そんな場面で挿入されたのが「傷のある日の入浴方法」です。

　お湯に入るとき患部を手のひらでしっかり押さえ、入ったら患部の周りを水で埋めながら少しずつ手を離していくとあんまりしみない……というもの。さくら先生も「これは役に立つぞ」とお墨付きのこちらの知恵、確かに膝に生傷の絶えない少年少女には多いに役立つものだったでしょう。お風呂に「ホース」があるのが前提だったのが、なんとも印象的でした。

『ちびまる子ちゃん』の面白さを前に、ここまで紹介してきた知恵が役に立つか立たないとか……といった評価基準は無力です。上記の知恵を紹介する際の、さくら先生独特のちょっと間の抜けた直筆文字やイラスト。読んだことがある方なら、これらを思い出すのにハサミに糸を巻く必要はまったくありません。それほどに『ちびまる子ちゃん』は読者の記憶の深層部分にまで深く刻まれるエッセイマンガなのです。

（片野）